『妖精ピリリとの三日間』西美音
妖精ピリリとの三日間
西美音
岩崎書店 いわさき創作童話
1365円
2009.10.19
★★★★☆
良かった。
大傑作というわけではないかもしれないけど、好みのタイプの話でした。
これまでに読んだ福島正実記念SF童話賞の受賞作品の中では一番気に入りました。まず、テーマが妖精。ティンカーベルサイズの妖精が登場するのですが、この妖精、主人公には大きなセミに見えます。ちょっと変則ですがこれは小人テーマだろうと思いました。もっとも小人といっても人と積極的に会話する佐藤さとるの「コロボックル」シリーズやいぬいとみこの「木陰の家の小人たち」シリーズ、あるいは「借りぐらしの人々」シリーズのような人と意思の疎通が可能なミニチュアの人間ではありませんが。
佐藤さとるはコロボックルシリーズの中やあとがきで「日本には小人の伝承が少ない」と書いていました。アイヌのコロボックル、日本神話のスクナヒコ、一寸法師くらいだと。ところがこの話の中には『天の
面白いと思ったのは小人話だからだけではありません。主人公の女の子は昆虫好きで、周囲の人にタガメだのヒトスジシマカだのと心のアダ名を奉っている子です。虫愛づる姫君=ナウシカ少女って感じでしょうか。同じものでも誰でも同じように見えるわけではない、という視点が導入され、次いで登場する友人や大人たちの物の見方も様々であることが示されます。たいていのお話では主人公の味方は全員同じ物の見方をするし、敵は敵でやはり価値観が統一されがちなのですが、このお話ではそれぞれ違う物の見方をします。この作者はすごい、と思いました。童話でそれを違和感なく表現できるなんて。目に見えるサイエンスはさほど濃くはないですが、この多様な視点・価値観には科学を感じました。文章にもウィットがあり……と具体例を紹介すると読みながら笑えなくなってしまうので伏せますが、とても好感を持てました。
『妖精ピリリとの三日間』は第26回福島正実記念SF童話賞大賞。この回には私も投稿しましたが『ピリリ』が大賞ならば文句なし、と納得。この作者、他には童話を書いていないのかな。SF童話に相応しい視点と感性を持っていると思うのですが。
少し不満だったのがイラスト。タガメ顔の友だちはもっとタガメで良いと思うのです。ヒトスジシマカの先生ももっと蚊っぽくて、白黒ストライプのスーツで「らしく」しちゃえば良かったのにな、と。
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