『クォンタム・ファミリーズ』東浩紀
クォンタム・ファミリーズ
東浩紀
新潮社
2009.12.8
★★☆☆☆
昨年十一月頃に感想だけ書いて公開しそこねていました。
★ ★ ★
東浩紀がTwitterで
『クォンタム・ファミリーズ』、SF大賞の候補にもならなかったー(泣)。
と呟いているのを見て「おー。自信作だったのだな」と読んでみました『クォンタム・ファミリーズ』。三島由紀夫賞も受賞した作品だとか。
ところが読み始めてすぐに失敗を悟りました。平行宇宙世界テーマだったからです。私はタイムマシン物と平行宇宙世界物が苦手なのです。
苦手、といっても読み始めてしまったら意地でも読み通したいもの。というわけでなんとか読了したのですが、やっぱり気に入らず。
いや、出来はすごく良いです。核家族→
でもやっぱり平行世界への通路が量子コンピュータをゲートにガジェットや用語でそれらしく仕立ててはあっても古典的な平行世界物でしかないことにがっかりでした。平行世界というアイデアの陳腐さは隠しようがなかった、ということなのだと思います。
嫌いな要素は平行世界だけではなく村上春樹ネタや趣味の悪い性描写、登場人物が揃ってにちゃんねら的なガサガサした荒廃したキャラであったりともうキライの塊。ここまで嫌いな物ばかり揃うと逆に清々しいくらい。エンターテイメントの甘い幻想を排した純文学!ということなのかもしれないですが、露悪趣味としか思えませんでした。文章もぼくはぼくはぼくはぼくはの連発で全体的に肌触りの粗い印象。
と悪口を並べましたが、この『クォンタム・ファミリーズ』は間違いなく労作です。出来も、私の好みに合っていないだけでここ数年のSFの中ではすごく良いのではないかと思います。少なくとも投入された要素の膨大さ、構成の壮大さ、最後に向かって収束していく様は間違いなしの一級品。SF的アイデアで家族というテーマに真剣に取り組んでいることも確か。
SF大賞に相応しい——ノミネートされるような作品か、といえばやっぱり違うような気はします。量子力学はコペンハーゲン解釈ではなく多世界解釈を採用しているようなのですが、その多世界が恣意的で量子力学の多世界解釈とはまったく違う。量子コンピュータも現在考えられている量子コンピュータとは相容れないし、作中でのあり方も多世界間を繋ぐトンネルとしてのご都合主義アイテムとして使われます。描写の雰囲気はハードですがハードSFではありません。
SF大賞の歴代受賞作を眺めても功労賞的な位置づけの印象があるのでノミネートされても不思議はないとも思いました。文句なしの力作、大作ですし、日本SFの方向性への影響は大きい気はします。
Amazonの書評では「途中からだんだん複雑な展開に頭がついてゆかなくなり」なんて評もありましたが、たぶんこれはがさがさした感触の文章に読み飽いてしまったのではないかと想像します。お話としてはさほど複雑ではないので、気張った専門用語風の××場とか××理論とかもあまり気にせず読んで問題ないはず。難しげですが、純エンタメです。