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『なずなのねいろ』3 ナヲコ

なずなのねいろ 3
ナヲコ
徳間書店リュウコミックス
2011.2.12
650円

★★★★☆

 「なずなのねいろ」シリーズ、待望の完結編。

 楽器が弾きたい。

 よくわからない衝動のようなものが押し寄せてきて、読んでいて涙が出ました。なんでだろう。ストーリー自体は、シナリオは、ハリウッド映画みたいに計算され尽くした「すげー」じゃないです。少なくとも面白さのため、感動のために計算され尽くした構成がなされているわけではないと思うのです。しっかりした話に組み立てられてはいてもそれは裏方っぽくて、登場人物たちそれぞれの楽器への思いがそれぞれの形でぎゅぎゅぎゅーとなっていてどばーっと揺さぶられました。業の中心にはいつも音楽。このぐっと来た感じはうまく言葉にならない。とにかくこのシリーズ、読んでよかった、と心から思えた数少ない漫画となりました。

 思春期の少年少女が集まり三味線に触れ、やっぱり恋模様も描かれはするのですが「なずなのねいろ」は明らかに恋愛漫画ではなく音楽漫画。楽器に魅せられる登場人物たちの思いの熱さが一巻からずうっとブレずにしゃきっと通っていてそこが魅力なのだと思います。主旋律は三味線。副旋律に恋模様。通奏低音に重く複雑な家族関係。そんな感じ。

 『なずなのねいろ』は三味線漫画です。小柄な女子高生なずなは有名三味線奏者の娘で三味線を弾く。でも、なぜかなずなはこっそりとしか三味線が弾けない。複雑な生い立ち、家族たちの葛藤、そんなものを一気に乗り越えてくるギター弾きの伊賀君。歪んでしまった家族の関係がなずなと伊賀君の出会いによって動き出し、三味線を軸にほぐされていく。一巻から改めて読み直してみるとぱっと見の可愛らしい絵柄やぱんつが出てきたりする小ネタに比して重い重い背景が音楽の背後にずっしりと感じられることに溜息が出ます。昔の少女漫画みたいに派手に重いお芝居っぽい設定とは違う妙な生々しさがあり、それは三味線の演奏シーンから聞こえてきそうな「カァン」という響きの鮮やかさを映えさせます。
 う〜ん。書きたいことはいっぱいあるんだけど、あらすじ以上の紹介になると紹介じゃなくなっちゃいそうでうまく書けない……。

 なずな父は儚くなっちゃいそうな感じだったけどどうなったのかな、なずなの実母はどうなったのだろう、その後のなずなたちはどんな青春を送っているのだろう、と気になることも残った幕引きでしたがそんな語られなかった部分も含めて良かったな、と思えたのでした。

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