量子もつれとは何か

古澤明
講談社ブルーバックス
2011.2.22
★★★☆☆
よくわからなかった。
説明が下手とか、難し過ぎるとか、そういうことはないです。読み進めていきながらワンステップずつの説明でわからないということはありませんでした。ところが読み進めていっても一向に「わかった」という実感が得られませんでした。
目次を引用します。
序章 量子力学とは
第1章 テクノロジーの進歩と量子化の必要性
第2章 振り子の量子か
第3章 光の量子化
第4章 レーザー光と量子ゆらぎ
第5章 量子エンタングルメント
第6章 量子光学を用いてEPRペアを生成するための準備
第7章 量子光学を用いてEPRペアを生成する
第8章 量子光学を用いた量子エンタングルメント検証実験
第9章 単一光子状態の生成
第10章 量子テレポーテーション
第11章 多量子間エンタングルメントと量子エラーコレクション実験
古澤明『量子もつれとは何か』もくじより
なぜわからないのだろう。
量子力学は根本にある「量子の位置と運動量は同時には定まらない」という不確定性原理が具体的なイメージに繋がらないからではないかと思うのです。数式も他の物理学で正しいとされていることと矛盾せず、実験をしてみても実証される。ただし、使われる数式が行列や微分方程式であったりするので式を見ても感覚的な理解に繋がらないし、数字を実際に入れて計算してみるのも困難。ゆえに数学部分は完全にすっとばされます。すっとばされるのに
|0〉A|0〉B+|1〉A|1〉B
なんて形で示されても|0A〉がどんな意味を持たされているのかが実感にならない。|0A〉は量子状態で演算の中身はテンソル演算でしょうし、この表記に引っかからずに消化するのはキビシイ気が。「これはエンタングル」「これは厳密にはエンタングルしていない」と示されても理解とはほど遠く、丸呑みするしかありません。これで「わかった!」が得られる人は理系の学者になった方がいい気がします。
量子もつれの具体的なイメージはうまく掴めないまま、それでも存在確率の雲がどんな条件でどんな風に展開するのかは読んでいけば掴めますし、紹介される実験の説明もとても具体的でよくわかります。量子テレポーテーションが光におけるラジオの通信に相当するものであるという説明はわかったし、量子コンピュータに必要な量子におけるエラー訂正の仕組もわかりました。でも、やっぱり、不確定性原理がどんな場合にどのように働くのかは、ニュートン力学のような具体的なイメージとなってくれないのです。電波通信には電磁気の「波」というイメージがありましたが、量子もつれの状態にある量子の間に働いているのはいったい何なのでしょう? それは電磁波のように光速で伝わるものですか? 媒質は何ですか? 「場」のように距離の二乗に反比例しないのですか? こういう古典的なイメージと繋がらないのはなぜですか?
結論としては「数式や演習抜きで理解しようなんて無理」となってしまうのでしょうが……。
わかった!が得られないのは筆者の責任ではないと思いつつも、一点だけ。
「別の著作を参照」をあちこちに散らすのはズルいです。「はじめに」において前著で門前払いをしてしまった、という反省が挙げられていましたが、第10章近辺で頻出する別著参照のポインタも同じ種類の門前払いではないでしょうか。
著者の行っている研究の紹介にページを割くくらいなら、説明方法を見直した量子テレポーテーションの再説明に取り組んで欲しかったです。