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『ななめの音楽Ⅰ』川原由美子

ななめの音楽Ⅰ
川原由美子
朝日新聞出版眠れぬ夜の奇妙な話コミックス
2011.7.7
★★★★☆

 久しぶりの川原由美子だ〜。

 飛行機モノです。
 川原由美子というと『観用少女』シリーズ、あるいは昭和世代SFファンには『たったひとつの冴えたやり方』の表紙のイメージが強いかもしれません。少女漫画らしい絵柄、色彩。しんみりしたり静けさ感じることの多い読後感。ですが、今回は絵柄も雰囲気も変えてきました。表紙に“based on non existent novel written by Michiaki Sato”の文字があります。そう、佐藤道明とのコラボのようなのです。
 読みはじめるまでは「佐藤道明原作なのかな」と思っていましたが、一読して単なる「原作」ではない、と思ったのでした。コマ割り、少し飛躍のある説明の少ない話の進行、構図。川原由美子の作品であることは確かなのですが、佐藤道明っぽさもギュウヅメです。
 かつて、佐藤道明が荒巻義雄と組んだ『要塞』シリーズという架空戦記小説がありました。その中にさらに「イラストストーリー」という派生シリーズがあって佐藤道明の漫画&イラストがメインのものでした。そこで見た佐藤道明テイストと川原由美子の作風とが組み合わされたものが『ななめの音楽』のページの中にありました。

 なんだこれは。

 少女漫画家・川原由美子のファンはぎょっとするかもしれません。私の中の少女漫画ファンの側面もぽかーんとしていたように思います。ですがSFメカファン、佐藤道明ファンとしての私の側面は「うわぁ」と歓喜に転げ回っていました。最高!

 主人公は伊咲いさきこゆる。対置されるのは光子・グラーフィン・フォン・グリーゼ。学園内の日常シーンから始まり、エア・レースの世界へと誘ってくれます。黒く塗りつぶされた枠外。フルの横幅に縦を四分割したコマ割り。漫画演出では定番であるはずのマンプや集中線もなく、フキダシも角を丸くしただけの単なる四角。黒ベタの余白と横長のコマは……映画のスクリーンのよう。動きの演出を廃した画面からは静謐な雰囲気に満たされたヨーロッパ映画を連想しました。
 光子を追って日本を離れ、空の世界へと踏み込むこゆる。少しばかり現実離れした観のあるこゆるはファンタジーの担い手。“ななめの音楽”とは何か。レースの行方はどうなるのか。あちらこちらに覗く剣呑な伏線。八月に出る『ななめの音楽Ⅱ』が待ち遠しいばかりです。

★ ★ ★

 飛行機ネタの蛇足など。
 登場する機体はFw190D-11にHe299B、etc。D-11なんてあるの、と思ったら6機だけ試作されたとネットに記事がありました。D-9に与圧キャビンを装備したものだとか。ほえ〜。なんでTa152やTa153じゃないんだろう、と思ったけれどスピードレーサーには軽いD型系列の方が良い、という設定かな。He299Bは正体不明の機体。He219と似ているのだけれど機首と機尾が切り詰められて前輪式から尾輪式になっていたり、そのあおりでか双垂直尾翼が前進して接地しないよう傾いていたりと謎が多いです。尾翼周りのデザインはHe219よりHe162に近く、エンジンと主降着脚はBf110風カウリングではあるもののエアインテークが大きくてプロペラも三枚ではなく四枚羽根。操縦席はHe219風背中合わせの複座。
 “ななめの音楽”はどこで奏でるのかな。

 『ななめの音楽Ⅱ』の感想も書きました。

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