『百合男子 1』倉田嘘
百合男子
倉田嘘
一迅社IDコミックス 百合姫コミックス
2011.8.18
★★★★☆
タグで「百合」と「コミックの感想」をつけたけれど、百合に分類してよいのだろうか、とふと思った。でも、これは百合漫画というジャンルの中の最右翼であるのとも思うのです。
主人公の啓介は百合漫画好きのイケメン高校生。男でありながら百合が大好物であることにジレンマを感じつつも、愛する百合漫画に百合カップルに熱くならずにはいられない。男性である作者だからこそ?の私小説的百合漫画。
主人公はかけらも百合じゃないけど。
お・も・し・ろ・い。
これは百合男子(女性同性愛テーマ創作物好きの男性)の生態を描いた漫画、ということになるのかもしれませんが多分に「百合漫画って何?」という部分にアプローチしているジャンル考察漫画でもあるはずです。BLでは昔から「なぜ少女たちがゲイ小説・ゲイ漫画を楽しむのか」という視点が作品化されていましたが、百合でもようやくそのアプローチを取る作品が出てきたことになります。しかも、単に男女の立場を入れ替えただけではないのがBLと百合の関係。百合ジャンルの今がここにある!
こういうの、待ってました。
『百合姫』誌での連載でも楽しんできましたが、単行本になって読み直しても面白かった。連載分の三話+「ゆるゆり」特集誌増刊への寄稿分+描き下し。加えて巻末の熱いあとがきと『百合姫』編集長との対談録。カバーに細工があったりと単行本ならではの良さもいっぱい。
しかし、しかしですね。著者の自画像としてTwitterアイコンetcを可愛らしく飾っていたウサギキャラにYシャツのリアル系ボディをつけるのは怖いです、嘘先生。
絵柄は記事トップのAmazonの画像の通りシャープなBL風タッチ。女子も登場しますし、百合的シーンもばっちりあるものの、ストーリーの中心はあくまでも百合男子の啓介。第三話の同人誌イベント回などは見事なまでに男祭りが展開されています。これが百合漫画専門誌に連載されている衝撃……は一般誌専門の読者には理解しづらいかもしれません。
作者は建築系のお仕事との二足のわらじだそうで背景に登場する建物の緻密で美しいこと。トラスの組まれたイベント会場シーンは描いてるところを想像するだけで気が遠くなります。すごい。
さて。この漫画をどんな人に勧めると良い反応が返ってくるか、と考えると。
BL漫画ファンの半分くらいは違和感なく楽しめてしまいそう。男性コミックファンのかなり広い層は何これオモシレーとネタ的に接しながらハマれそうな気がします。逆に拒否感を示しそうなのが百合オタを自認する層の一部。『百合男子』作中でも取り上げられている2ch漫画板の百合漫画総合スレでは漫画そのままにアレルギー症状を露呈している人もいるようです。掲載誌でも拒絶症状を呈しそうな読者を想定してか多少悪ノリ的な鬼子扱い。
今アニメが放映されている『ゆるゆり』が『百合姫』の柱なのかもしれませんが、商業百合漫画というジャンルを開拓し、定着させてきた『百合姫』(『百合姉妹』)の百合ジャンル最前線で旗手となっているのが『百合男子』であると思います。
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