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『ななめの音楽Ⅱ』川原由美子

ななめの音楽Ⅱ
川原由美子
朝日新聞出版社眠れぬ夜の奇妙な話コミックス
2011.8.19
★★★★☆

 は限りなく五つに近い四つ。Ⅰ巻とⅡ巻通じての印象です。

 『ななめの音楽Ⅰ』では主人公こゆるが光子に魅せられて飛行機レースへと参加したところまでを描き、あちこちに散りばめられた「ななめの音楽」というキーワードの正体がいよいよ明かされる、という段階になってⅡ巻へと引き継ぎました。Ⅱ巻は執事のラウラと光子の出会いを振り返るエピソードから始まり、光子の空とこゆるの空、あるいはまな希の空を示します。空へ向かう人々の背中に翼を幻視するこゆる。過去。連合軍の圧倒的な爆撃隊を迎撃する夜間戦闘機。雲を赤く染めた街を焼尽す炎。現実と過去が渾然となった光子の空に同行するこゆるの目が捉えたのは……。

 少しばかり要領を得ない紹介となったあらすじですが、これは実際に読んで確かめて欲しいところ。ネタバレもしたくないのでこれ以上ストーリーには触れないままにします。

 百合漫画の紹介の多いブログなので、この記事を読まれている方には百合漫画ファンも多いかもしれません。こゆると光子、二人の少女が空に向かう話ということで百合漫画好きにも楽しめるのではないかと思います。いちゃいちゃしたり、らぶらぶだったり、ほのぼのしたりといった萌え要素はなく、ハードな航空ロマンのお話ではありますが、現実よりも真実を見てしまう少女の視線で描かれた大空は幻想的で、少女小説に源流を持つ百合小説や百合漫画と共通のエッセンスを含んでいるように思います。川原由美子の絵で表現されているということもあって幻想的な空気との親和性もとても高い。
 一方で『観用少女』や『前略・ミルクハウス』とは明らかに違う感性——演出で作られてもいて読者を少しばかり突き放したアプローチに思えます。でも、私はこの川原由美子が好きです。

 航空機ファン——特に大戦機好きにも楽しいのはⅠ巻の感想で紹介した通り。Ⅱ巻末では登場した航空機の解説ページも付されていて作中での位置づけがより興味深くなるのではないかと思います。謎のHe299Bは、明記はされていませんが架空の機体だったのだろう、と思いました。ベースとなったHe219との比較図もあり、全備重量がHe219比半減という設定におののきました。これはFw190Dより強力な縦の機動性を持ってしまうかも。計画が実在したらしいHe319やHe419ではなくHe299というコードを与えたのは純夜間戦闘機の発展型という意味なのかな。

 キーワードとなる「ななめの音楽SHRÄGE MUSIK」については、航空機ファンには予備知識のある人も多かったかもしれませんが、知識の有無に関わらずに楽しめるエピソードが用意されているので心配ご無用。まな希が歌った「ななめの音楽」がどんな曲であったのか気になるところです。

 久しぶりの川原由美子の新刊、夢中で読んでしまいました。好きな要素がいっぱいで楽しかった。傑作だと思います。

 こゆると光子のお話でなくても良いので、いつか火星の空を飛ぶ飛行機の話を読みたいな。

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