『荒野―12歳ぼくの小さな黒猫ちゃん』桜庭一樹
荒野―12歳ぼくの小さな黒猫ちゃん
桜庭一樹
文春文庫
2011.1.10
★★★★☆
タカハシマコによるコミカライズ版『荒野の恋1』を読み、これは是非原作も読んでおかねば、と小説も読んでみました。
主人公が12歳の設定だからか、初出が2005年とちょっと時間が経っているからか、あるいはファミ通文庫というレーベルから出ていたためなのか、素朴なタッチの文章で今の桜庭一樹像とはちょっとだけ隔たりがありました。
悠也は少年の偶像のよう。ぎりぎり生身のデテールは保っているけれど、でも、ガラス細工みたいで、その印象はコミックス版ととても近いのです。う〜ん。こんな男の子がいたら、しかも身近にいてもなおガラスのようでいられたら、少女は恋せずにはいられないでしょう。そういう、少女漫画そのものの世界が描かれます。
タカハシマコ版コミックス一巻はこの原作一巻の六割くらいのところまで。原作小説はこのあと三巻まで続きますが――それはまた別途感想を書こうと思います。
(女好きだけれど)存在感の希薄な父と、ガラス細工の悠也。男性陣はどことなくファンタジーですが、少しずつ大人への階段を上っていく荒野の視点は生身の女を描いていきます。う〜む。初出のファミ通文庫ってライトノベルレーベルのような気がするのですが、少女向けレーベルならまだしも、よくこういう方向の話が出せたなぁ、と思います。少女から女へ。ファンタジーから現実へ。ちょっとお芝居めいた現実だけれど、それは桜庭一樹らしい何かで。
コミックス版、原作のどちらから読んでも問題なく楽しめるのではないかと思います。コミックスは完結までにはまだしばらく時間が必要かもしれませんが。
続編の感想記事もあります。
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