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『決着!恐竜絶滅論争』後藤和久

決着!恐竜絶滅論争
後藤和久
岩波書店 岩波科学ライブラリー186
2011.11.9
★★★★☆

 発端は放送大学の古生物の授業をぼんやり眺めていたことでした。「衝突説は証明された」とう講師の言葉を聞いて耳を疑いました。恐竜絶滅の原因が小惑星の衝突にある、という有名な説です。以前からもう衝突説以外の説は可能性がほとんどなくなっているよなーとは思っていたのですが、さすがに証明は無理だろうと思ったのです。どうやら今回のこの本が解説の対象とした、決定打となった論文の存在がそういう言葉を引き出したようなのですが……。
 というわけでその論文を解説しているらしいこの本を読んでみました。

 安心しました。

 恐竜絶滅の原因が小惑星の衝突にあると“証明”しているという論文ではなく、衝突説と非衝突説の論争に決着をつけた論文、ということでタイトルの「決着!」となったようです。内容は非常にわかりやすいです。対立する仮説をひとつずつ丁寧に証拠を示して論破し、様々な角度から衝突説を検証してその揺るぎなさを示します。この本を読んで衝突説以外の説を支持し続けるのは困難でしょう。説得力が、圧倒的です。
 それでもまだ、衝突説は証明されたわけではありません。恐竜絶滅仮説の中でもっとも筋が通っていて、反証要素のない仮説であるということです。今後はさらに詳細に衝突のプロセスが解明されていくのでしょう。

 恐竜絶滅原因となった小惑星の軌道要素まで判明して、母天体群までわかったりすると面白そうです。単に数億年に一度の確率で小惑星が〜という確率論よりも、何らかの太陽系規模のイベントの余波で小惑星群の軌道が撹乱され、短期的な重爆撃期が……なんて想像はあまりにもSF的でしょうか。大陸上にクレーターが残っていないだけで、チチュルブよりもさらに大きなクレーターが海底に作られ、プレートテクトニクスで消えていったなんてのも想像するとわくわくします。そういった衝突説からの派生パターンも色々出てくると面白いんじゃないかな〜。
 そんなことに想像を巡らせるきっかけにもなった本でした。

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