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『96%の大絶滅―地球史におきた環境大変動』丸岡照幸

96%の大絶滅―地球史におきた環境大変動
丸岡照幸
技術評論社知りたい!サイエンス
2010.3.26
★★★★☆

 先に読んだ『決着!恐竜絶滅論争』は内容のしっかりした最新の恐竜絶滅仮説の本でしたが、あまりに衝突説寄りであるのが気になっていたので、読みのがしていたこの本を手に取ってみました。『決着〜』より古い2010年出版の本であるものの『決着〜』で端折られていた衝突説の詳細部分が詳しく解説されているのと同時に、衝突説自体の堅牢さがどの程度のものであるのかを多面的に解説しているフェアな視点の本でした。

 タイトルの“96%”という数字は恐竜絶滅――中生代末の大絶滅ではなく、古生代末の大絶滅を指します。ただし、より詳しいことがわかっている衝突説の検証と解説にページ数が割かれていて、古生代末の絶滅に関しては全210ページ中の65ページ程度が費やされています。

 中生代末――KT境界における絶滅のシナリオについてはわかっていること、わかっていないことをきっちりと挙げていき、衝突説以外の仮説がなぜ脱落するのかを明確にし、衝突説にまだ不足している部分、反証となり得そうな部分をわかりやすくしめしてくれます。隕石の衝突自体はほぼ確定的なのだと、この本でも先の『決着〜』でも思えましたが、恐竜の絶滅原因としては最有力候補というだけでとても確定的とはいえないとこちらの本を読んで感じました。
 実際、2010年の論文紀要にもKT境界より新しい地層から得られた恐竜化石をウラン−鉛同位体年代測定法で直接年代を計測した、なんてのもあって相対年代(KT境界を挟んだ上下)からも絶対年代からもKT境界以降に恐竜が生き残っていた可能性が示されます。この報告は先の『決着〜』の元となっていてる論文が発表された半年ほど後のものです。これに対する反論は衝突説側からはなされているのでしょうか。

ウィグナルによる絶滅への連鎖モデル サムネイル 古生代末の大絶滅に関してはチュクシュルブ・クレーターのような決定的なイベントの痕跡が見つかっていないようで、海洋無酸素事変や硫化水素の痕跡から複雑な連鎖モデルが提案されていて、これが非常にややこしいながら魅力的です。白亜紀末の隕石衝突もこの種の連鎖モデルが必要なのだろうと思います。
 右の図はこの本の中で紹介されていた「ウィグナルによる絶滅への連鎖モデル」をIdea SketchというiOS Appに入力してみたものです。

 最後は現代の人類による進行中の絶滅イベントについて触れられていたりして、古生物の話もまた現代にリンクする話であるとまとめられます。

 文章は比較的平易で、グラフもたくさん用いられており、全ページ二色刷りということもあって見やすい本ではあるのですが、情報の密度が高いので「すらすら読める」類の本ではないです。特に紹介されているグラフは重要で、これをちゃんと消化しつつ読むとなると速読は無理です。
 2010年代のPT境界絶滅仮説進展が楽しみになる本でした。オススメ。

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