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『TUKIKAGEカフェ1』川原由美子

TUKIKAGEカフェ(1)
川原由美子
朝日コミックス
2011.3.16
★★★★☆

 月影カフェは星ノ井なのだな、と思ったのでした。
 #1の、囲まれたビルの隙間に覗く月。深く降りて行った底にある月世界。深い井戸の水面に映った月が月影カフェなのでしょう。#2の扉絵は――細胞のようでもあります。

 

 『ななめの音楽』以来活動ペースの上がっている川原由美子の新刊です。
 『ななめの音楽』では全ページ横長四コマで映画のスクリーンのようなページを作っていました。今回はコマとフキダシを極端に減らしたモノローグ調で、全編を通じて詩のような印象に。一、二ページだとこういう作りの漫画も見かけますが、全てこの構成で綴られた漫画はにわかには思い出せません。これでストーリーが載せられるのだろうか、と不安に思いつつ読み進めてみれば杞憂であることがわかりました。

 すごくイイ。

 幻想的に綴られるのは“月のひと”の訪れるビルの谷間にある不思議なカフェ。

応募もしていない
アルバイトの
採用通知が
やってきた

みはらしのよい
山頂カフェ
高給優遇

はて?

 こんなシーンから始まる『TUKIKAGEカフェ』。不思議で、ファンタジーで、ポエムで、ときどきSF。作画の印象は『観用少女』より『ななめの音楽』寄り。メカ成分は少なめで花、服といった華やかな要素が強調されるのでそういう点からは『観用少女』的だけれどコミカルな要素は少ない大人の雰囲気です。
 物語は最初は希薄に感じられ、幻想的なお店で給仕をする少女の不思議な日々が淡々と綴られる連作短編集なのかなと思いきや。じわじわとこの世界のイメージが広がって行き、緩やかな繋がりを持ったお話たちへと展開します。ハリウッド映画のような明確なドキドキワクワクも劇的感動ストーリーもあるわけではないのに、あれ? あれ? なんか感動しちゃってるよ、うわぁ、大好きだこれ、となっている自分に気がつきます。お話の骨格はきちんとありつつ、あまり出しゃばらずにすーっと染み込んでくるみたいな。

 ああ、#4に登場した青年の淹れたお茶、飲んでみたい。

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