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『ぼくには数字が風景に見える』『天才が語る』ダニエル・タメット

 ダニエル・タメットの本を二冊、読みました。



 著者のダニエル・タメットは自閉症スペクトラム、アスペルガー症候群でサヴァン症候群なのだそうです。映画『レインマン』で取り上げられ、フィクションの世界では便利な異端的“天才”の記号になってしまった観もあるサヴァン症候群。そのサヴァンの当人によるエッセイです。

 一冊目の『ぼくには数字が風景に見える』ではタメットの生い立ちが綴られ、彼の持つ数字や文字に対する視覚的共感覚が語られます。サヴァンやアスペルガーが自閉症スペクトラムに含まれること、相当な苦労をして対人コミュニケーション能力を確立していること、数字に対する詩的ともいえる感性。自閉症スペクトラムというのは対人関係で大きな困難を伴う障害なのだとわかると同時に、その数字に対する圧倒的な能力に驚かされます。九九を覚えてそこから少しずつ計算法を覚えて広げていく常人とは大きく違う独特の計算方法の発明、工夫。確かにそこには天才と呼ぶべき才能が現れます。統計・確率にめっぽう強い一面、数字に対する思い入れを反映させることのできない代数が苦手であったりと意外な側面も知ることができたり。といっても超人的なエピソードばかりでなく、対人関係の困難と苦悩を中心に据えた切実な内容です。数字への愛情とともに明るく前向きさを感じさせてくれる著者の性格が前面に出ていて非常に好感の持てる内容でした。

 二冊目の『天才が語る』は内容的には一冊目同様楽しめたのですが、日本語版のタイトルに抵抗を感じます。“Embracing The Wide Sky”がなぜ「天才が語る」になるのか。内容的にも才能の数値化に疑問を投じ、天才論的なものを否定しようとしているのにこのタイトルはあんまりだと思うのです。邦題を決めた人は中身を読んだのだろうか、と疑いたくなるくらい。

 天才は確かに天才であったことと同時に、サヴァンも自閉症スペクトラムの一部に含まれることを納得させてくれる二冊であると思います。多少のほろ苦さもともないつつも興味深く読めました。

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『くちびるためいきさくらいろ』森永みるく

くちびるためいきさくらいろ

森永みるく
芳文社アクションコミックス
2012.4.12
★★★★☆

 『百合姉妹』『百合姫』での掲載が途絶え宙に浮いていた連作短編シリーズ。来ました。完結版。

 一迅社百合姫コミックスで一巻は出ていたのですが、続刊もなく、増刷もされないまま、古書店でもあまり見かけなくなってきていて、読みたかったけれど読めなかったという人もけっこういたのではないかと思います。『GIRL FRIENDS』『ひみつのレシピ』
で森永みるくを知りファンになった人には本当に待望だったのではないかと。
 もちろん、続きの気になる所で途絶えていた瞳&奈々のその後も新たに追加されて改めての単行本化。(続編部分は『コミックハイ』で連載)

 メインの二人は森永みるく得意の黒髪ショート&茶髪ロングの奈々と瞳。プラス、この二人の周辺で展開される百合ペアの短編集で、奈々と瞳のエピソードのみ長編ストーリー。『百合姉妹』から『百合姫』へと切り替わっていく時期に描かれた作品で、王道の観もある高校生百合女子たちのお話たちですが、百合漫画の普及に明らかに大きな役割を果たしたこの「くたちめ」シリーズ、以前に描かれたパートも(すでに何度も読み返しているけど)やっぱり面白いし、新たに描かれた瞳&奈々エピソードもがっちりハートを持っていってくれました。

 2巻のあとがきにあった通り「もっとめんどくさくしようと思ってた人達」がめんどくさくなる話を予想していたのですが、割とあっさり&コミカルなところに落ち着いたかな。森永みるくは『コミックハイ』での百合もの新連載も始まるようで楽しみ。

 オススメ対象は――表紙買いでおっけー。カラー絵だけ可愛いってことはなくて、中身も表紙の雰囲気から想像したものに近いお話だと思います。

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小説創作とiPad

 創作系ブログとしてはiPadでの小説執筆に触れないわけにはいきません。

アイデア整理

 iPadの購入前から「このアプリはiPadで使いたい!」というものがありました。Idea SketchというiPhone/iPad Appです。

小説のアイデア整理中

 この種のダイアグラムはチラシの裏に書くのが一番実用的な気がするのですが、デジタルは試行錯誤を繰り返せる強みがあります。iPod touchでも印象の良いアプリで、iPadの大きな画面になって実用性がぐっと上がりました。

お・も・し・ろ・い!

 ツールを使ったからといって良いアイデアが湧いてくるわけでもないですし、頭の中が整理されるわけでもない気はします。ただ、アイデアをいじるときには何かしら形になっていた方が楽で楽しい。
 アウトラインモードとダイアグラムモードの往復もスムーズで、使い勝手の練られたアプリだと思います。

 Idea Sketch以外にも、マインドマップやアウトラインプロセッサには優れたツールがたくさんあるので、お使いの環境、用途、好みに合わせたものを探してみるのも楽しいかと思います。MacだとScrivenerやOmni Outlinerといったあたりが有名でしょうか。WinだとWz Editorや秀丸、あるいはOfficeのアウトラインモードのユーザが多いかもしれません。

文字入力

 小説創作で気になるのはタッチでの文字入力。iPhone/iPod touchのフリックでは心許なくもありましたが……。

ソフトウェアキーボード

 iPadの大きさではフリック操作が合わず、文字入力は通常のキーボードをタッチ画面で操作するソフトキーボードが文字入力の主力となります。

  • iPhone/iPod touchでのフリック入力よりは高速に打鍵できる
  • 一応、タッチタイプができる
  • 日本語はローマ字入力だけでJISかな入力ができない

 微妙です。
 とても使えない、というほどダメではないのですが、デスクトップパソコンのキーボードほど高速/快適に打鍵はできません。VAIO Pやポメラよりも打ちにくいです。ZaurusやIS-01のような手のひらサイズの親指打鍵端末と比べてもイライラします。
 タッチタイプは可能ではあるものの、キーの位置が掴めずソフトキー表面に指を置けないためベースポジションの確認ができないためでしょうか、誤打鍵が多いです。iPadのソフトキーボードで小説書きをする気にはなれませんでした。せいぜいがメモ程度でしょうか。

Apple Wireless Keyboard
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 Apple純正のBluetooth接続・コンパクトキーボード。iOS5でJISかな入力に対応したそうで多少の設定が要りますが快適に使用できました。

 JISかな配列で入力をするには

[設定]-[一般]-[キーボード]の[テンキー]と[フルキーボード]の両方の項目で[ハードウェアキーボードの配列]を「JIS

に設定します。
 慣れた入力方法で使用するとiPadが非常に快適なテキスト入力環境に化けました。問題はキーボードです。Apple Wireless Keyboardはデスクトップ用としてはコンパクトですが、持ち歩くには少々嵩張ります。現在、持ち歩けるBluetoothキーボードを探索中。

 Apple Wireless KeyboardはMacとも共用できます。ただし、MacとiPad/iPod touchでの同時使用はできません。

 また、iOSではキーボードはあくまでも補助的なデバイスという位置づけであるようでカット、コピー、ペースト、検索といったテキスト編集でよく使う機能へのキーボードショートカットがなく、画面のタッチを求められる状況が多いです。かな漢字変換においてのカタカナ、かな→英字置換、全角→半角置換といったショートカットもなしです。かな漢字変換では推測変換もオフにできないため、煩わしく感じられる場面も多いです。

音声入力

120415_17_07_23 完璧ではありませんが、ソフトキーボードを使うよりはずっとスムーズです。認識率は予想よりも高く、この文章も音声入力した後に入力不可能だった語を補い、体裁を整えただけです。

  • 擬音
  • 専門用語
  • スラング

 このあたりは認識できない単語も多いです。くだけすぎない日常会話であれば問題なく認識できます。句読点は「てん」「まる」で入ります。機械に向かって喋るので、周囲に人のいる場所では使いづらいもののだけ打鍵の苦手な人にはとても便利なツール。初めて体験すると驚くこと請け合い。一単語ずつでも、文章としても入力できます。
 音声入力だけでは入力できない文字や記号もありますが、ソフトキーボードとの併用で十分に実用になります。しっかりしたキーボードを使っていても喋るより速く打てる方もそう多くないはず。ぜひ体験して欲しい機能です。
 弱点は人前で使いづらい、ということでしょうか。機械とおしゃべりしている姿を他人に見せるのは、少し抵抗があります。

テキストエディタ

 iPadの小説書きで躓くのは編集アプリです。アプリ自体は色々あります。短文の入力・編集程度ならばiOS標準の「メモ」でも良いくらい。
 ところが、長文となると話が変わります。欲しい機能はこの三つあたりでしょうか。

  • パソコンとの小説データの同期
  • プレーンテキスト
  • 縦書き表示

 前二項を満たすアプリの中で評判の良さそうなものを使ってみました。

 Dropboxが利用でき、範囲選択や検索といったUIも馴染みやすく好印象です。ただ10万字以上を編集しようとするとどちらも動作が重く現実的でないです。Plain Textの方が多少マシな程度。
 縦書き編集は

といった選択肢もあるにはあるのですがデザインに馴染めなかったり、クラウド対応がなかったり、更新が止まっていたりと決め手に欠けます。

 文章の入力に専念するならきちんとしたキーボードのある端末が向いているでしょう。iPadに加え外付けキーボードを、となるとノートPCの方がずっと使いやすいはず。

まとめ

 iOS搭載デバイスは総じて文字入力が苦手です。基本はビューワなのでしょう。
 今回試した中で唯一、Idea Sketchはパソコンでする同種の作業よりもずっと快適で、直感的で、iPad環境ならではの良さがありました。

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Scansnap+新しいiPad=?

 iPadの購入目的にScansnapで電子化した、いわゆる“自炊”データの利用がありました。
PCニュース系サイトでも特集記事が組まれていたりしますね。

 PCニュースサイトでもしっかりした“自炊”記事が出てくるようになって、個人ブログでは手順やレビューの必要もなくなった気がします。

iスキャミルもどき?

 初代iPad、iPad2では解像度不足でスキャンデータの閲覧には向いていませんでしたが、新しいiPadの2048×1536、264dpi表示は印刷品質に近く、スキャンデータも実用的に表示できると思い購入に踏み切りました。
 感想。

ようやく“自炊”データの表示環境が整った。

 この一言に尽きます。
 もちろん“自炊”環境としてはまだまだ問題山積みです。

  • iPadのフラッシュメモリ容量が足りない
  • 上記を補うために自宅NASのデータをパーソナルクラウド化して参照したいが煩雑でまだ実用度が低い
  • Spotlight(デスクトップ検索)が自炊データを対象にしていない
  • パーソナルクラウドのセキュリティが心配
  • “自炊”はやっぱり面倒臭い

 最後の「面倒臭い」はiPadとは関係なく“自炊”についてまわる問題です。以前の記事「ドキュメントスキャナ ScanSnap・その5」にもまとめましたが、結論だけ書くと「労力対効果で“自炊”は割にあわない」という話です。

 2048×1536ドットの液晶はScansnapでの作業も変えそうです。以前は300dpiでスキャンし200〜250dpiに縮小していたのですが、260dpi超のiPadで縮小は無用です。300dpiのままコントラスト調整と、モノクロ原稿の場合にはプラス・グレースケール化で十分。トーン部分のモアレ対策も特に必要なさそう。これまで作成した自炊データは微妙に見劣りするようになりました。
 Scansnap自体も第3世代iPadの登場で画質の向上が期待されるようになったのではないかと思います。

 高精細画面のiPadで恩恵を受けるのは電子化した書籍を読む人です。
 「何を当たり前のことを」と思われるかもしれませんが私はScansnapで電子化した本は検索して使うばかり――辞書のように使うのが主でした。通読することには使っていなかったのです。パソコンもモバイルも、モニタに十分な解像度がなくて楽しむ水準に達していませんでした。
 新しいiPadではスキャンした漫画も小説も雑誌も十分に快適に楽しめます。
 2012年型のiPadでようやくスキャン書籍を“読める”ようになった気がします。結果、冒頭の「“自炊”データの表示環境が整った」という言葉となりました。

 でも、新しいiPadにはひとつだけ大きな欠点があります。

 重いっ!

 650gは手に持って読むにはキビシイです。

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新しいiPad(第三世代)購入

 iPadを買いました。

3/15注文
3/26発送準備
3/30発送
4/3到着

 注文から受取まで長かったです。3/16以降に注文した人が先に届いていた、なんて話もネット上で見かけつつヤキモキしながら待った19日間。

新しいiPad到着

 届きました。

 Apple製品お馴染みの「この××はあなたと出会うために作られたのです」云々はiPadもありませんでした。Mac miniを買ったときはあざといと思いつつも嬉しくて、iPod touchのときにはそんな言葉もなくて少し寂しくて。
 説明書らしい説明書もなく、小さなカードに電源の入れ方が指示されているだけ。

iPadパッケージ内容

 本体と、電源アダプタと、USBケーブルと。

MOBILIS IN MOBILI 動中の動 待つことになった一因はアップルオンラインストアで注文したため。刻印サービスがあるのです。

 発売時期が投稿していた小説新人賞の結果発表と重なったので、何か賞でも取れたらそのお祝いの文言にしよう、などと目論んでいたのですがそれはならず。残念賞を刻みました。この一年は静かに深く潜航せよと雌伏を誓って“MOBILIS IN MOBILI”。これで私もナウティルス号のクルーです。

 書籍の自炊データ閲覧や原稿書きなどなど、iPadでやってみたかったことを色々試して記事にしていこうと思います。

 まずは購入報告のみ。

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