『NOVA7』大森望編
NOVA7
扇智史、小川一水、片瀬二郎、壁井ユカコ、北野勇作、谷甲州、西崎憲、藤田雅矢、増田俊也、宮内悠介、編集:大森望
河出文庫
2012.3.20
★★★★☆
NOVAシリーズ、毎回気に入るものとあまり好みに合わないものと分かれてしまいます。今回は気に入ったもの二本、次点が二本。全十本中で。
- スペース地獄編 宮内悠介
NOVAシリーズに載った「スペース金融道」の続編。債券回収屋主人公のスペオペといった雰囲気のお話。宮内悠介は作風の幅が広い人なのだと感心してしまいました。好みとしては『盤上の夜』やSFMに掲載された「ヨバネスブルグの天使たち」を書いた宮内悠介が好みかな。
- コズミックロマンスカルテット with E 小川一水
小川一水は微妙に波長が合わないのですが今回もあとちょっと……というところで馴染めず。でも文句なしに面白いハズ。楽しめなかったのが悔しい。宮内悠介が金融スペオペならこちらはある日突然現れた美少女宇宙人が結婚を迫ってくるといううる星型スペオペ。ラノベっぽい設定で四角関係を楽しく展開させます。
- 灼熱のヴィーナス 谷甲州
『NOVA3』掲載の宇宙土木シリーズ。今回は金星大気中に浮揚させたプラント建築のお話。ああ、これが読みたかったのよの甲州節。谷甲州が書くならこれからもなんやかんやと言いながら読むと思います。たーだーし。今回はちょっと不満も。けっこう派手な誤植があることと、浮揚プラントの形状・構造を思い浮かべるのに苦労したことの二点。後者は『NOVA3』の「メデューサ・コンプレックス」でも感じたことなのだけれど、図解を入れてでも説明が欲しかった。読み進んでいけばわかることではあるのだけど……。今回の話ではプロジェクト管理をする上層部の話にも触れられていて、この部分は東日本大震災での政府や東電の対応を連想せざるを得なかったかな。今回一番のお気に入り。
- 土星人襲来 増田俊也
うーむむむむ。主人公であるヘルス嬢と自称・土星人のコメディ。コミュニケートできているのにディスコミュニケートが生じる通じない会話のまだるっこしさとその繰り返しがギャグになっているのだけれど、途中を読飛ばしたくなってしまった。この話、数枚のショートショートでも成立しそう。第二回創元SF短編賞に応募して選に漏れた人が読むと「これに負けたのか……」と頭に土星の輪っかが浮かぶんじゃないでしょうか。
- 社内肝試し大会に関するメモ 北野勇作
非常に掴みどころのないお話でした。職場での肝試しが行われます、と始まる話でイメージは「バイオハザード」シリーズのようだったりするのだけれど、ええと、これ以上説明するとネタバレになっちゃうかな。ストーリーは明確にあって、なるほどという構造が与えられていて、でも何を描こうとしたお話?みたいな。思えば北野勇作は『かめくん』からずっと掴みどころがなかった気がします。
植物標本集 藤田雅矢すごく良かった! 植物愛溢れる作品で本物の植物オタクであることがひしひしと伝わってくるとっても植物なお話。SFとしては素朴な部類の話ではあるかもしれませんが、専門家ならではのセンスを感じさせてくれたのが楽しかった。幻の新種植物が収められた
植物標本集 にまつわる物語。オススメ。- 開閉式 西崎憲
「扉」のイメージを描いたお話。主人公だけに見える扉が生き物にはついていて――という不思議な世界が描かれます。これもなんとも掴みどころのないお話ではあるのですが「扉」のイメージをただ描きたかったのかな、と思えたのでした。割と好印象。
- ヒツギとイオリ 壁井ユカコ
読み進めるのが辛かった。『原色の想像力2』での「花と少年」と共通する種類のストレスを感じる話でした。素材は「サトラレ」で、触感が周囲に漏れてしまう少年と、痛覚や温感を持たない少年の関わりを描きます。
- リンナチューン 扇智史
ライフログの未来を描いた話。詳細な
複合現実 技術で復元した死んだ恋人の記録を慈しみながら過ごす主人公。うーん。これはですね、ワタシ的には非常に趣味に合うというか素敵だなと思ったのですが、どこがどう素敵なのかを書くとネタバレてしまうという。いえ、重要なネタではないのですが。学園物の瑞々しさが読んでいてとても心地良かった、とだけ紹介しておきます。- サムライ・ポテト 片瀬二郎
ハードSF苦手な人にもお勧めしたい。素朴な感じのロボットもの。チェーン店の店頭に立つコンパニオンロボットたちのお話で、ちょっと切ないです。「花と少年」のストレスフルないじめネタとは打って変わったほのぼのストーリー。ハードSF好き的には意識や人工知能という点でもう一歩踏み込んだアプローチが読みたかった。
あとがきも面白かったです。掲載予定作が間に合わないかもしれない、ということであらかじめ代原を手配していたということなのですがそのいきさつに笑ってしまいました。昔であれば内輪ネタであったろう編集の内幕があとがきになってしまうのも“今”なのかもしれません。
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