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『残穢』小野不由美

残穢
小野不由美
新潮社
2012.7.20
★★★★☆

 ああ、小野不由美だ……。

 作者本人をモデルにしたような実録怪談風の心霊サスペンス。少女小説であった「悪霊」シリーズから華やかな成分を抜き、心霊事件に関わった作家視点でのドキュメンタリという体裁で“穢”を民俗学・宗教学的な観点も交えて綴られた――怪談。

 読んでいてじわじわと背後が気になるような導入部からの前半と、手繰った糸から明らかになっていく不可解な事件たちが示される怒濤の後半。本格ミステリの資質を色濃く感じさせるロジック。恐怖の形を“理”によって顕現させたかのような不思議な怖さ。
 背後が気になるのはこの話が現実との地続き感を強く感じさせるところにあるのでしょう。単に作家の分身的なキャラの登場する心霊ドキュメンタリ風小説だから、ということではなく作中世界を読者の現実に浸食させるような力があるのです。ロジックを強く感じさせる“穢”の説明とともに独特の説得力、実在感こそが小野不由美の作品なのだと溜息が出ました。

 小野不由美作品では必ずシステムが背後に用意される気がします。心霊現象においても恨みや執着といった人の感情に直接結びつけようとせず、摂理的なものが姿を現してくるのです。摂理が描かれるからこその、怖さ。法則らしきものを示してきても単純化しすぎず不可知の部分を残すのが絶妙で、それによって揺らぎを残した摂理は私たち読者を“穢”の圏内に捉えにきます。ロジカルな作風ならではのゾクゾク感。

 手に取ることで、読むことで、“”に触れられるかもしれない本、です。

 明かりを消した続き部屋の仕切りを開け放ち、夜に一人きりで読むのがお勧めです。

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