『動的平衡2』福岡伸一
動的平衡2
福岡伸一
木楽舎
2011.12.10
★★★☆☆
狂牛病関連の本ではとても印象の良かった著者。TVの科学番組でも最近は見かけることが増えました。最近気になっていた“エピジェネティクス”について触れているということで今回のタイトルを読んでみました。
ちょっと薄い、かな?
タイトル通りの「動的平衡」について生物学の視点から書かれたエッセイ集。全九章。各章は五〜八の節に区切られていて各節ごとに異なる――章題には沿った――話が連なります。指向しているのは「動的平衡」というタイトルそのものなので出オチならぬタイトルオチな感じはありました。
動的平衡、に生命現象をすべて繋げて考えるというのはイメージとしてはよくわかります。著者の説明する生命科学の詳細も魅力的です。ですが、読んでいて「新味がないなぁ」と思ったのでした。動的平衡という言葉もイメージはギリシアのヘラクレイトスが唱えた“万物流転”とほとんど同じもの。ヘラクレイトスがロゴスと呼んだ流転する自然の中の一貫したルールを明らかにした訳でもなく、様々な生命現象を並べて「動的平衡見えるでしょ」というのが繰り返されます。
一方でこの著者はドーキンス的な遺伝子中心的な考え方を批判――するのですが、そもそも私にはドーキンスと福岡伸一の主張が相反しているとは思えないのです。利己的な遺伝子説で一世を風靡したドーキンスですが、彼は著作の中で
DNA≡“遺伝子(複製子)”
と述べたことはないように思います。むしろ、
DNA ⊂ “遺伝子(複製子)”
と考えているように思え、DNAを用いた遺伝の説明はあくまで遺伝システムの一例でしかなく、エピジェネティクスやトランスポゾン、レトロトランスポゾンの振る舞い、環境要素まで含めたものを遺伝子と想定しているように思えます。(もちろん明示的に、DNA⊂遺伝子、などとはドーキンスは書いていない。むしろ、DNA≡遺伝子、と読者を誘導する書き方をしている) 利己的遺伝子という言葉が一人歩きをして遺伝子中心的な考え方の代表として捉えられ「DNAにすべての設計図」という考え方=ドーキンスというイメージなのかもしれませんが、利己的遺伝子説の大本であるドーキンスは、生命の本質がDNAのみにある、とは主張していない気がするのです。
つまり、福岡伸一の批判の矛先には実体がないのではないか、ということです。
そして、生命の動的平衡においてヘラクレイトスのロゴスに相当するものは、ドーキンスの遺伝子(DNAに限定しない)や模倣子とほとんど一致してしまうのではないでしょうか。
福岡伸一の筆ならば、動的平衡といった観念的な話より、エピジェネティクスやエヴォデヴォの詳しい解説が読みたいな、と思ったのでした。
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