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『化石の分子生物学』更科功

化石の分子生物学 生命進化の謎を解く
更科功
講談社現代新書
2012.7.20
★★★★☆

 失敗が、いっぱい。

  1. ネアンデルタール人は現生人類と交配したか
  2. ルイ十七世は生きていた?
  3. 剥製やミイラのDNAを探る
  4. 縄文人の起源
  5. ジュラシック・パークの夢
  6. 分子の進化——現生の人類は進化しているか
  7. カンブリア紀の爆発——現在のDNAから過去を探る
  8. 化石タンパク質への挑戦

 上は目次の引用なのですが本の内容が想像できるでしょうか。たぶん、最新知識がだーっと並んでいて古生物学は今やこんなこともできるようになった!という本なのだろう、と思うのではないでしょうか。

 違うのです。

 第1章のネアンデルタール人の話こそ化石から抽出したDNA分析の成功例として華々しい結果が示されますが、話が進むにつれ“化石のDNA”は分が悪くなってきます。ジュラシック・パークの話や化石タンパク質の話などはもうほとんど失敗史の話となってしまい、できるかも、と注目された一時期との落差に驚かされます。ほんとうに、失敗がいっぱい、という本なのです。

 ですが「古生物のDNAを知るのはダメでした」という本でもありません。分子時計の話や共通のタンパク質コード——DNAから始原生物を探るような過去へのチャレンジ手法の様々とともに探求の途上であることを示します。失敗が失敗であるとわかることこそが分子生物学の進歩と厳密さの証でもあることがわかります。一般向けの新書ということで「DNAって何?」というような説明から始まるためちょっぴり迂遠な面もありました。

 蛇足です。
 この本、タイトルだけ見てAmazonで購入したのですが、かなり勘違いしていました。“分子生物学”が指すのはタンパク質etcの生物による高分子バイオマーカーの検出で、高分子は直接検出しづらいのでその痕跡化石を化学的に探ろう、という本なのだと勝手な想像していました。実際に手に取って読みはじめてみると“分子生物学”は主にDNA絡みのことと判明。『よみがえる分子化石』みたいな本でなくて「あれ〜?」と。もちろんそれは私の勝手な思い込みで、中身を読んで改めてタイトルを見れば非常に納得が行ったのでした。

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