『コミック百合姫』2012年11月号
コミック百合姫 2012年11月号
一迅社
2012.9.18
★★★★☆
表紙 なもり
一年かけての仕掛けが炸裂。表紙だけじゃなくてそのまま中身に続く展開です。発売前からネットでは「ドロドロ」と話題になっていたようですが、ただの修羅場で終わらない? 一昨年のカズアキ+深見真のイラスト+ストーリーの表紙も良かったし、次号からは浜弓場双が表紙だそうですがどんな趣向で来るのか楽しみ。
センチメンタルダスト 河合朗
百合姫コミック大賞から出た方で、これまで掲載なしの状態からいきなり連載です。幼稚園からいっしょの幼馴染二人が同じ高校に進学したところから始まるお話。予告イラストでは「癖のある絵柄かな?」と思ったけれど漫画になってみると馴染みやすく読みやすい作風で、濃いめに揺れる感情となかなかややこしくなりそうな想いの交錯が描かれてとても印象が良かったです。素直に面白かった。
犬神さんと猫山さん くずしろ
牛若先輩も変態でした。まる。
いや、ほんとに。今回はこれに尽きました。そしてもう一話では素敵アイテム投入。
少女惑星 柏原麻実
柏原麻実は百合姫出身作家たちとはちょっと違う空気。絵柄自体に清潔さと王道の雰囲気があって。「少女惑星」というシリーズタイトルはついていますが登場人物固定の続き物ではなく連作短編の模様。今回はちょっと切なく、同性のパートナーを欲している主人公が自分を一番に見てくれる相手を求めて……というお話。
ふ〜ふ 源久也
今回は前回で一段落した新vs.白雪のフォローから。この作者のお話は波乱を作りつつ、納得の行く形にきちんと収集を付けてくれる丁寧さが心地良いです。
彼岸の境界 黒霧操
なかよし三人組から一人が欠け、時が過ぎても残った二人の時間は動き出さないまま。そこから一歩踏み出せるだろうか、という重めのお話。
六花にかくれて 大北紘子
近いけれど少し違う世界の話。コントラストが高くぱりっとした緊張感のある絵柄に演劇の一シーンのような独特の情感と淡々とした空気。少しエグい設定。大北紘子独特の作風が今回も全開です。
ショコラと 慎結
髪の毛テーマで。最近は以前ほど女性性の象徴という印象ではなくなってきましたが、それでも重い気持ちは髪に宿るというイメージはぞっとくるものです。今回の慎結の話も髪と鋏というひやりとするイメージが描かれます。
欲望パレード ちさこ
物欲まみれと無欲無感動が出会って起こる化学反応。
黒霧操とちさこの二人は『なかよし』系タッチ&ちょっとダークな内面や関係を描く作家で百合姫コミック大賞から出てきた時期は一年くらい違うようですがライバルな気がします。どちらも少しぎこちない感じが残ってて、それぞれうまく脱皮していくといいなぁ、と思いながら読んでいたり。
天使なカノジョ 森島明子
今号でカメラマン設定のお話が二つあるのは『彼女とカメラと彼女の季節』の影響だったりするのかな。写真ネタ大好きなのでウェルカム。
作者曰く「ちょっとワイルドローズ風味」というTwitterでの紹介通り、冒頭からベッドシーンが展開します。アニメの「ゆるゆり」から『百合姫』に辿り着いた読者が上のタイトルたちを読んで来てここで初めてダイレクトなラブシーン、しかも森島明子の表現力で、となるとインパクトもあったのではないでしょうか。マジメなのに男子高校生みたいな煩悩キャラ、というのもぐっときました。
目次では読切にカウントされていますが、全三話予定だそうです。続きが非常に楽しみな話でした。
ロケット★ガール 田仲みのる
単行本『ロケット☆ガール 1』も今号と同時発売の「ロケット★ガール」、今回は前回の盛り上がり回の余韻と次展開への橋渡しでした。
ゆるゆり なもり
今号はなもり充。表紙漫画+「ゆるゆり」合わせて四十ページ以上。京子に向かって揃って「頭」のシーンは笑ってしまいました。
あまいゆびさき 宮木あや子/ロクロイチ
百合ジャンルでは希少な小説。字が小さくて読みづらいけど今回も面白かった。前々回山場シーンから「えっ、ここにきて雲行きの怪しい展開に?」とハラハラさせられ今号でもまさかの展開。『雨の塔』の宮木あや子らしさも炸裂。鬱屈したところからの爽快な展開は『百合姫』という媒体にぴったり合わせて来た印象です。『百合姫』掲載小説はネットであまり話題にならないけれど良作揃いだと思うのです。百合小説好きの人にはお勧めしたいな〜。
月と世界とエトワール 高上優里子
『なかよし』誌でいじめテーマの作品が印象的な高上優里子の『百合姫』初登場&初連載。紙の質感を出したカラーイラストは美麗そのもので、絵柄も『なかよし』誌で活躍している作者らしいもの。エンゲージ、
step by step 竹宮ジン
二組の教師×生徒連作シリーズも今回で一段落、かな?
私の世界を構成する塵のような何か。 天野しゅにんた
登場人物が多くてややこしいですが単行本『私の世界を構成する塵のような何か。 (1)』も出てまとめて読むとな〜るほどとキャラ同士の関係がわかりやすくなります。それにしても“鹿”Tシャツ……。
きものなでしこ 八色
タイトルページ、今回の十七着目を読み終えてからもう一度チェックしましょう。
感情的日常 井村瑛
シリアスで重くてウザい話なはずなのに、最後のページでつい「ぶはっ」と笑ってしまいました。いや、笑うシーンじゃないんだけど、でも。
ストレンジベイビーズ 大沢やよい
「ブラックヤギーと劇薬まどれーぬ」のシリーズ化連載。予告イラストではUSB端子や山積みモニターが目立っていて「まさかのサイバーアクション?」「serial experiments lainみたいなのだったりして」とちらりと連想。いざ始まってみるとブラックヤギーの続編っぽさが濃く、暴走気味のライバル・ネットアイドルも登場でいい感じ。
“ヘルズキッチン”の生放送見てみたい……。
恋愛遺伝子XX 影木栄貴/蔵王大志
非常に期待通りの展開でありつつ、こう、いちゃこらしているシーンを見ていると微妙にBLモノを読んでいる気がしてきたりもするのでした。女性だけの世界でありながらジェンダーが二分され、男性ジェンダーを担う二人がらぶらぶで、えっちぃシーンでは女性ジェンダー的表現が強調され……という不思議なものを読んでいる目眩のような感覚。そして今回も見事な引きで次回へ続くのでした。
世界の終わりとケイコとフーコ さかもと麻乃
テニスのダブルスペアのお話。お話はとても好み。ネタがスポーツで強豪選手ということになると体の故障との戦いみたいな側面が思い浮かんでしまうタイプの読者なのでうまく入り込めなかったのが残念でした。
Cirque Arachne 再田ニカ
再田ニカの話はすごく健全感というか明るくて前向きな感じがして、今作だとテティがその代表みたいなキャラで。ここに来て関係が進んでいくロッテとテティが自然に思えます。
百合男子 倉田嘘
百合男子が熱い。ジャンプ系格闘漫画みたいだ。そして、その熱さがホモい気がする。
啓介の「これは××の分」と暴れるシーン、ぜんぶ身勝手極まってるじゃないか、とお腹の皮がよじれました。そして今回はなんと64ページ。前回は不良漫画っぽい展開で「どこいっちゃうの〜」とちょっと不安でしたが、今回は色々ぶっ飛んで突き抜けて、でもちゃんと納得するところに戻ってきて一安心。
ウタカイ 森田季節
異能短歌バトル小説、今回も面白かった。
面白かったのだけれど、ひとつ辛い点が、私の素養の問題で。短歌にはあまり馴染みがないせいか、作中バトルで詠まれる短歌の出来というのがよくわからない。どういう情景・心情を謳ったものなのかは、(合っているかどうか自信がないけれど)一応想像できてると思う。けど、その短歌の楽しみ方がわからないのです。技術の巧拙、詠み人の個性。そういった漫画や小説を読むときであれば当然のように味わい分けられていることが、短歌だと私にはできていないみたいで悔しい。この「ウタカイ」でキャラやストーリーに編み込まれる短歌を読んでいくうちに、短歌入門的なプロセスを辿れているといいなぁ……なんて都合の良いことをちょっぴり思ったりもしました。
今号の『百合姫』はページ数も多くて670ページ超。内容面でも充実していたように思います。
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