『戦後SF事件史』長山靖生
戦後SF事件史
長山靖生
河出ブックス
2012.2.11
★★★★☆
ハヤカワSFコンテストに絡めて
この感想を書いているのは2012年10月半ばで半年ほど後に来る話ですが、“第一回”としてリニューアル・再開されるハヤカワSFコンテストへの応募を考えている人にも勧めておきたい。『戦後SF事件史』では非常にタイムリーに第一回の空想科学小説コンテスト(第二回からSFコンテスト)についてまとめられてます。
初期のハヤカワSFコンテストの様子を知るにつれ、今年“第一回”として再開されるハヤカワSFコンテストはSF第一世代を生み出した最初の空想科学小説コンテスト再現を狙ったのかな、という気が。半ば伝説となりつつある伊藤計劃、芥川賞の円城塔、直木賞候補となった宮内悠介とSFへの追い風が吹いているこの時期を、SF誕生期の再現としたいのではないか、と。
扱われているのはSF小説だけではないです。『日本SF精神史』ではSF小説の黎明期を中心に取りあげていたけれど、こちらは戦後が対象ということで何かと生々しく、学生運動や共産主義思想、芸術などと絡んで成長してきた昭和のSFが示されます。『S-Fマガジン』、SF大会、コミケ、あたりまで来ると私も知識として知っている範囲に入って来て現在と地続きになり、宮崎アニメ、オウム真理教と私の世代のリアルタイムに。そして、最終章では2011年の東日本大震災における原発事故にまで言及します。
そしてSF的想像力から目を背けた日本は、政治的にも経済的にも凋落を深めてゆく。そんなSF的想像力忌避の姿勢が、二〇一一年三月の東京電力福島第一原発の「想定外」の人災事故に繋がっていると私は思う。
長山靖生『戦後SF事件史』p.255
私は原発事故は、ここで作者が指摘した90年代後半以後ではなく、20世紀中——いや、人類史上ずっと継続してきた想像力の欠如に由来している気がします。先に「建てる」ことが決まった原発の建設に際しての安全評価が適正であることなどありえない。そんなことは当時からわかっていて、今もわかっていながら無為に放置せざるを得ないのが社会というものなのでしょう。原発だけでなく、災害対策も資源も高齢化も。何か重大事が起きるたびに想像力の欠如を思い知る、その繰り返しに、というようなことを考えさせてくれる本でした。
SFへの期待で締めくくられ、前著に続いて読後感の良い一冊でした。
| 固定リンク