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『不自由セカイ』コダマナオコ

不自由セカイ
コダマナオコ
一迅社百合姫コミックス
2012.11.17

あらすじ

ヒロイン・茗子めいこがレイプ被害に遭うという設定がスタート地点となり、保護者的立場にあったはずの礼央れおは茗子を守れなかったということへの後悔から一転、茗子のいうことをなんでも受け容れてしまう「奴隷」という立場に。互いに離れられなくなってしまった“不自由”な二人の関係を描きます。

ネタバレあり感想

 ネタバレありの既読の方向け感想となります。

 冒頭で茗子のわがまま描写から回想のレイプシーンへと繋がりますが、これはヘビーな設定を示すことによる「可愛いとか萌えですむ話じゃないよ」というサインと受け取りました。「奴隷」という帯に躍るワードも当初はTL漫画的な「強引なアプローチから始まる恋」的なものだろうと想像していたのですが読み進めてみればシリアス。正直、この時点では「え、(百合漫画として)ダイジョブなの」と不安を感じました。
 ところがところが。読み進めて行くとシリアスでがっぷり真剣勝負の内面を感じさせる描写にページをめくる手が止まらなく。
 礼央をレイプすると称する茗子のベッドシーンは扇情的である反面、とても苦い。茗子自身の傷跡をかきむしる行為でもあり、カワイイや萌えを優先する迎合的な読者サービスから遠ざかります。このあたりでどうやら百合漫画の定番を踏むつもりはないようだぞと読む側の覚悟も決まります。そしてますますはっきりとしてくる二人の関係の歪み。自傷的な性は終盤にも再び登場し「茗子強いな」という印象になります。茗子の求めは恋人に対するもので支配によるものではなくなっています。強さを感じると同時に「性犯罪の被害現場でのセックスは無理ではなかろうか」と動揺もしたのですが、同時によくわからないズシンと来る感じがありました。
 そして二読目以降では印象が変わりました。端から二人は切り離せない関係に陥っていることが読み取れ、トラウマをえぐりまくるような状況でのセックスを求めるのも茗子の側の自傷だけでなく、礼央とともに二人で傷に向かい合うという“ゴシック”に近いセンスを二人が共有できたのだと納得——以上に共感させられます。(フリフリのゴスロリ衣装が出てくるというわけではないです。念のため)
 シビレタ。

 これが百合漫画デフォ買いの百合オタクかコダマナオコ固定ファンしか手を出さないような売られ方でいいのだろうか、と複雑な気分になりました。
 面白い、という言葉で表現するのは(レイプ設定を軸にしていることもあって)ためらわれるのですが、読んで心掴まれる層はそれなりにいるはず。埋もれさせたくない!と思ったのでした。
 一方で作者のTL的、エンタメ世界で鍛えた表現力・方法がベッドシーンを扇情的でロマンチックなものにしていたり、美しく桜の散るかつての犯罪現場を再度の濡れ場に選んだりしているのは読者の倫理観と対立しかねない種類のヤンデレ——戯画化されたステレオタイプではなくぞっとできるダークさ——です。拒否感を抱く読者もそれなりにいそうな気がしましたが、あえてそこを描きに来て、少なくとも私はハートを鷲掴みにされました。
 このコダマナオコを私は支持したい。これまでの楽しくクールなTLや百合、ラブコメを描いていたコダマナオコも失わずにいて欲しいのですが、今回のようなチャレンジを感じさせる作風もすごく良かったと思うのです。

 男が出てくるから、レイプ設定があるから、という理由だけで忌避している百合漫画好きさんには「もったいないよ」と言いたくなったと同時に、百合漫画読み以外にもいるであろうこのお話にぐっと来る人たちに届くといいなと心底思った一冊でした。

 百合漫画だから面白い、のではなく百合漫画の中から出てきたぐっと来る漫画、と紹介したいです。

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