『彼女×彼女』大沢あまね
彼女×彼女
大沢あまね
白泉社ひらり、コミックス
2012.11.30
★★★★☆
百合アンソロジー『ひらり、』で知った作家さんの楽しみにしていた単行本。
収録されているのは『ひらり、』掲載の四コマ6話、webウィングスからの四コマ8話、コミックハイからのストーリー漫画1話、描き下し「図書室の姫ちゃん」番外篇ストーリー漫画6ページです。あと、各話の幕間に四コマであったり一コマであったりのミニ漫画と、表紙カバー下とフルセット。
『ひらり、』掲載分以外は初見がほとんどで、『ひらり、』読者的にはお得な感じでした。
お話はストーリーの明確にある四コマスタイルが中心。『ひらり、』は百合漫画誌ですが「百合周辺」まで含めた大沢あまね短編集と考えるのが良いかと思います。
ネタバレあり感想
バレありです。感想というよりは批評寄りかな。
収録作のうちwebウィングスからの「白百合の乙女」前後編は女子校+ロリータファッションネタですが、ヒロインの一方・縁が性同一性障害で男性の体を持つという設定です。この設定を受け付けないという方はご注意を。
せんないことではあるのですが、作品そのものではなく批判的な作品評に対する批判を少々。
「白百合の乙女」を「百合じゃない」と批判する感想をネット上でいくつか見かけました。「百合」の定義を女性同性愛モノとするならば「白百合の乙女」は、あるいは百合ではなくなってしまうかもしれません。キーとなるのは性同一性障害という設定ですし、ヒロイン二人の間に描かれる感情も恋愛ではなく友情であることが明示されています。
ですが、友情であるからこそ、性同一性障害という垣根を越えさせていくロリータファッションという“思想”を共有する同志であるからこそ生まれる二人の絆は百合というジャンルが対象にしてきたエッセンスを濃く含んでいると思うのです。『百合姉妹』やそれ以前の『ピエタ』のような漫画たちではしばしば自傷や定まらないセクシャリティに揺らぐ少女たちが描かれ、同性愛という要素はむしろ脇役であったことを思い出します。作りの安さ、ぬるさから「こんなの百合じゃない」ということであればまだ共感は持てますが、(肉体の性別だけでも)男が出てくるとそれだけで「百合じゃない」とアレルギーを示す批判にはまったく共感が持てません。これは『百合男子』をあげつらう意見に対しても感じます。金田一蓮十郎の『マーメイドライン』が描かれたときの批判でも同様のことを思いました。逆に言えば『百合男子』に馴染めない人はこの「白百合の乙女」も受け容れられない可能性が高い、のかも。
もうひとつ。「白百合の乙女」には性同一性障害の縁を「受け容れられない」と表明する女性キャラがいます。実は私はこのキャラ、お気に入りです。漫画だからといって性同一性障害ではあっても男性の肉体を持つ者が必ずしも許容されるわけではないという、フィクションであるのに/あればこその楽園否定。そしてこのキャラは「男の肉体を持つ存在の女子寮での否定」を表明はしてもこのキャラ個人では縁を受け容れるタイプではないかと想像しました。心から否定するキャラなら「え〜」とだけ流していじめに走るキャラになるんじゃないかな、と。大勢の中にくすぶる不満を代弁することによってはけ口を作る律儀な子、を連想したのです。これこそドリーム……なのかもしれませんが、そんな夢を見たくなる作風である、とお勧め要素に挙げておきます。
また「下着屋の娘」ではヒロイン役の女性に痣を設定していますが、その際の主人公との会話が興味深い。誠実とは気遣いとはどうあるべきか、というのが盛り込まれてきていて、これを読んでいたからこそ上で縁を受け容れられないと表明したキャラの背後も肯定的に想像できたように思います。大沢あまねの描く世界は単一価値観の甘々世界ではないけれど、でもきっと何らかの形で調和するのだろうという信頼が置ける。それが好意を抱かせるのだと思うのです。
面倒臭い話はともかく、試し読みコーナーで作風が好みに合うかどうかわかると思います。
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