『専門家の予測はサルにも劣る』ダン・ガードナー
専門家の予測はサルにも劣る
ダン・ガードナー
川添節子訳
飛鳥新社
2012.5.28
★★★☆☆
この本のタイトルを見た人はきっと「ああ、外れた予測を列挙して専門家がいかに頼りにならないかをあげつらう本なのだな」と思うのではないでしょうか。私もそんな内容を予想しました。読んでみると、実際その通りの外れ予測のオンパレード。でも、予想と違ったのは「専門家など頼りにならない」と扱き下ろすだけではなく、社会心理学の成果を元に、ヒトという生物の特性として予測はうまく働かないのだ、と説く本であったことです。
読みやすい本です。ほぼ、日常的な語彙だけで書かれていて登場する“予測”やその批判についても専門用語は抜きです。「キャリブレーション」や「判別」、「ヒューリスティック」、「バイアス」といった言葉も登場しますが、それらは挙げられた例に付された記号のような扱いで、きっちり把握していないと先が読めないということもありません。
この本で紹介されるのは主に社会心理学の視点で浮き彫りにされるヒトの習性。とにかく予想は当たらないんだよと例が示されますが、あくまでも「そういうもの」として習性を示すだけで理屈付け、シナリオ付けをしていません。それはこの本で示される過ちの原因=物語を避けているということなのでしょうが、どうしても説得力という点で不満が残ります。ヒトが騙されやすい/間違いやすいのは××な構造が頭の中にあるからだ!という仮説をばばーんと提示してしまうと読んでいる側も「おお!」と思えますが、それはこの本が警戒対象とする“認知バイアス”にはまってしまう道なのでしょう。
それにしてもこの本でいうところの「キツネ」路線(曖昧さを曖昧なまま認める戦略)の華のなさったら。
この本を読む前に読んだ『心は実験できるか―20世紀心理学実験物語』ともども、何らかの法則や真理が導けるわけではないですが、ヒトという生物の行動をそれなりに浮き彫りにしてくれる心理学実験というのは面白い、と思わされました。
一方で科学は未来を予測するための手段でもあります。鉄砲の弾を狙った場所に飛ばすということはニュートンの運動方程式から始まる工学によってごくごく小さな範囲ではありますが、未来を予測・想定した範囲に収める方法です。経済学だってそんな未来予測や未来制御のひとつ。頼りにならないのは自称専門家たちの直感による未来予測であって、計算と検証で導き出す科学がまったく完全にダメなわけではないはずです。まっとうな科学はその手法がどの程度頼りになるかも示すことができます。「科学は万能ではない」ですが、有効な範囲と有効な度合いが示せるのも科学。このあたりももうちょっと取りあげられていればな、批判により過ぎの本だっかな、という感想になりました。
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