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『東京喰種』

『東京喰種』
石田スイ
ヤングジャンプコミックス

 6巻まで読んだ時点での感想となります。

 東京の区が数字で分けられた世界。文化や技術的には現代の東京と変わらないように見えますが、一点、喰種——グールという存在が人々の間に紛れて生きている世界であることが違います。喰種は人と見分けがつきません。ただ、人肉を好んで口にするだけ。人を狩る上位捕食者が潜む世界です。
 人間の主人公・カネキはある日、喰種に襲われます。助かりはするのですが負傷し、喰種の臓器を移植されてしまったのでした。カネキの身に生じる喰種としての特徴。どうなるカネキ!

 この導入部から岩明均の『寄生獣』を連想した人は多いはず。私もそうでした。
 『寄生獣』の最終回以降で人の世に溶け込んだ寄生生物たちはどうなったのだろう、というところから生まれたお話のように思えました。もちろん単に『寄生獣』に触発されたというだけでなく“悪”の側からの世界——喰種の視点が描かれます。ヒトの間に溶け込み、ヒトに近いアイデンティティを持つ喰種たち。環境問題からヒトの考え方に馴染まない上位捕食者を設定した『寄生獣』とは異なり、喰種はほとんどヒトであり、カネキは吸血鬼ものの吸血鬼ハンター的なダークヒーローの位置に立っていくことになります。

 『寄生獣』との一番の違いは掲載誌。ジャンプ系誌での連載であるためでしょう、ギリギリで矛盾しない範囲で、開始時点での設定に縛られないダイナミックさが身上といわんばかりに話が展開していきます。たぶん一巻半ば以降で設定に大幅な強化がなされたはず。開始当初からは想像できない奥行きのある話が見えてきています。
 テーマが食人怪物ということもありスプラッタ映画的に爽快?に人が死んでいく漫画です。カネキは喰種としての食人欲求とヒトとしての倫理の板挟みになりつつ、喰種退治を専門にする捜査官や喰種同士で殺し合うことを辞さない喰種と対立し、戦い強くなることでより喰種の側に近づいていく。ダークヒーローものとしては王道ともいえる展開にどきどきわくわくするのです。

 メアリ・シェリーの『フランケンシュタイン』でも“怪物”には高い知性と人の心があることが語られ、“怪物”として扱われることで殺戮を行う本当の“怪物”へと追いやられたことが描かれます。『デビルマン』も『寄生獣』も経た現代のゴシック『東京喰種』では喰種も喰種退治をする捜査官も等しく病み傷つき、歪み、今のところは光明も見えません。什造なんてすごく可愛いキャラなのに歪み具合が半端ないし美食家・月山は変人具合が突き抜けてしまって面白キャラに。酸鼻が日常になることでコミカルにすらなるのはゴシックの宿命なのかもしれません。

 この『東京喰種』の魅力は戦うカネキと凄惨なシーン、倫理の揺らぎといったあたりではあるのですがひたすら暗い話でもなく、非道だけれど濃くて面白おかしいキャラが続々登場したり、シリアスなのに珍妙な会話をしていたりと不思議なお笑いが潜むあたりも魅力です。設定が設定だけに万人向けとは言いづらいですが、スプラッタ・ホラー的なものでも楽しめる方にはオススメしたいです。

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