『スピノザの世界』上野修
スピノザの世界
上野修
講談社現代新書
2005.4.19
何冊かチャレンジしてみたスピノザの解説本の中で一番わかりやすく楽しく読めた本。まずは目次の紹介から。
- 企て
- スピノザ自身による入門書
- 純粋享楽を求めて
- 喜ばしい賭
- 剰余
- 目的とは衝動のことである
- 欲望は衝動を知らない
- 最高善を定義する
- 真理
- 道としての方法
- 方法は真理から自生する
- 何が何を真とするのか
- 真理の内的標識とは何か
- 真理の規範
- 知性の謎
- 神あるいは自然
- 『エチカ』
- 幾何学的証明
- 実体とは何か
- 神の存在証明(?)
- 唯一なる全体
- 内在的原因としての神
- 事物は別なふうにはありえなかった
- 人間
- デカルトの残した問題
- 真理空間
- 精神は身体の観念である
- 精神はメタンルな能力なしで考える
- 倫理
- 自由意志の否定
- 自分をゆるしてやること
- 神と世界をゆるしてやること
- 人間をゆるしてやること
- 社会をゆるしてやること
- 事物の愛し方
- 永遠
- 無神論(?)
- 神への愛
- 永遠の相のもとに
- 第三種の認識
- 神の知的愛
- そして至福
上野修『スピノザの世界』目次より
読み始めてすぐに、スピノザが非常に明解な、わかりやすくシンプルな考え方の組み合わせをしていた人らしいことが伝わってきます。3章で「ん? よくわかんない」と引っかかるかもしれませんが(私は引っかかった)大丈夫。まずは通読しちゃってOKみたいです。そして一旦最後まで読んでから3章に戻ってみれば何がわからなかったのかがわかります。
定義と定義から展開されるロジックの第一歩がわからなかったみたいです。
3章で紹介される『エチカ』におけるロジックの出発点がわかりにくいのは言葉の定義が馴染みづらいからではないでしょうか。「実体」や「属性」や「様態」という言葉が紹介されるのですが、これが後に展開されるカチカチのロジックに対応するかっちりした定義になっています。スピノザがどれだけカチカチなロジックを構築しようとしているのかイメージが湧かないとナニイッテルノ?状態に。ゆえに、引っかかって悩んでポイしてしまうくらいならまずはざっくり通読してしまえ、とお勧めしてみました。通読して、また3章に戻れば定義と最初のロジックを行ったり来たりしているうちになんとなくわかってきます。いえ、謎は全部解けた!というほど理解はできていないと思うのですが、少なくとも専門家が私たち読者に「こういうものだよ」と示してくれたイメージのアウトラインは掴めた気がします。
一通り読んで違和感があるのが「真理の規範」の項での懐疑論否定。この部分、別に懐疑自体を否定しなくても良いんじゃないかな〜と思えました。懐疑論は「自明」とする出発点の検証を迫るだけの存在で、論といっても仮説を提出しているわけではなく、何らかの考え方と対立したり接点を持ったりするものでもないはず。否定はできないけれど取りあう必要もない気はしました。取り合う必要のない立場の表明、ということのようなのですがここだけこの本の中で異質に思えました。
哲学に慣れない身には戸惑う3章までですが、3章までに示された結果からすると、4章以降は非常に馴染みやすいロジックと結論が示されます。オリジナリティの高い論理展開は数理論理学的で説得力が高く、独特の神の概念が示され自由意志が否定されます。虚無に向かってしまいそうな決定論的な考え方から発しながら『エチカ』――“倫理”に繋がるロジックの格好良さ。17世紀に、ニュートンの『プリンキピア』とほぼ同時期に書かれたのが『エチカ』なのだと気づくとなんていうスゴイ時代だったのだろうとも思います。万物に宿る魂は作用反作用の法則や物体が伝える力とイメージが重なりました。3章で示される「図1」
上野修『スピノザの世界』P.79 図1より
は『エチカ』がどういう論理構造を持っているのかを図にしたものだそうですが、一通り読み終えてからこの図を見直すと痺れます。なんという論理のお化けなのだろう、と。岩波文庫版の『エチカ』の分厚さにたじろぎますが、読んでみようかなという気にさせてくれました。
非常に現代的に感じられたスピノザ、先日読んだ『ゴシック・ハート』とも親和性が高く感じられました。また直前に読んだ『シャノンの情報理論入門』に書かれていたようなことをスピノザが知っていたらどう思っただろう、とも想像しました。
大雑把に「汎神論」くらいしか高校の教科書では習わないスピノザですがとんでもない知の巨人であったことが窺い知れ、感動がありました。この本を勧めてくださった方、ありがとうございます。スピノザ入門に絶好の本であったと思います。
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