『夜の図書館』ソウブンドウ
ソウブンドウ様の『欠落少女コレクション』というサークル誌に寄稿させていただいたご縁で同サークルのバックナンバー『夜の図書館』を読む機会をいただきました。その『夜の図書館』の掲載作の紹介&感想です。
『夜の図書館』の体裁はA5版で、1ページが25字×23行×2段組の78ページ。黒々とした文字がくっきりとした印刷で読みやすい仕上がり。収録は5作品。タイトルの“図書館”通りお話の集まりという雰囲気で、テーマは“夜”で統一されていました。
トリップ・クラップ・ガール 神尾アルミ
一迅社文庫アイリスで活躍中の神尾アルミ氏。お話の内容はどこまで紹介しようかな。オススメしたいジャンル読者がいるのです。でも、そのジャンルを明かしてしまうとネタバレになってしまうというもどかしさ。う〜む。伏せたままにしておこう。私の好みの設定であったとだけ。
主人公・聡子は身の上や境遇を軽く妄想する癖のある少女。読みやすく洗練された文章で聡子の妄想と現実を繋ぎます。秘めた恋と友人に対する顔と友人には見せられない顔。そのギャップが、噴き出してくる内心に“少女”を描いたお話なのだと感じます。そこからさらにもう一種類の“少女”が見出せもするのがまた素敵です。
夜方の夢 若本衣織
『夜の図書館』という本の中でさらに小さな夜のお話四つが入った、いわば入れ子の夜の図書館とでもいうべきお話たち。水族館、博物館、大使館、映画館と館in館の構造を思い浮かべずにはいられません。それぞれ異なる雰囲気を作るお話たちは様々な味のキャンディが詰め込まれた小箱のよう。
遊園地のよるに 木々津伊織
警備員の怪談話かと思いきや……の掌編。『攻殻機動隊』の影響もほのかに、冒頭とはちょっと違う種類の怪談的な、ケヴィン・ケリーやレイ・カーツワイルの言う特異点が密かに横たわっていると感じさせます。
女郎花織る蛛将 空木春宵
第二回創元SF短編賞で佳作に輝いた空木春宵氏の「繭の見る夢」(『原色の想像力2』収録)を読まれた方はご存知の、平安の香り漂う雅な文章がここでも読めました。平安末期を舞台に、蛛将と呼ばれる変わり者の貴族を語ります。“蛛”の文字の通り蜘蛛が絡むお話ですが、読んでいて連想したのは18世紀に実在したらしい蜘蛛の糸の手袋やストッキング、ドレスの逸話でした。「コロボックル物語」で小人たちが愛用していたロープ代わりの糸も思い出しました。いえ、そういうものが登場するお話ではないのですが作中で描かれる美しくオリジナリティあるイメージが蜘蛛にまつわる記憶を掘り起こすのです。文章から香り立つ色気、タイトルになっている女郎花のシーンが引き出すビジュアルなイメージの美しさ。すごい!があります。
サクラの木 平山翔
桜の樹の下で出会った幽霊のお話。梶井基次郎的なイメージからスタートする時代を越える想いを描きます。桜花の舞い散るイメージに情緒スイッチが入りました。
全体としてはウエットよりの、叙情に訴えるお話で構成されていたかなという印象でした。ソウブンドウのサイトでは「創作初心者からプロまで」のサークルとありましたがソウブンドウとして二冊目であるからでしょうか、いかにも初心者的な作品はなかったように思います。もちろん、商業小説の短編集のようにはいかないのも確かですが。
評価の定まった名作だけを読みたいのであれば本屋に並ぶベストセラーで十分。でも同人誌を、とあえて手に取る方であればキラメキみたいなものを感じられる作品がある本だと思います。
残部もあまり多くないそうですが、4/28の超文学フリマ【キ-35】での販売もされるそうなので気になられた方は覗いてみてはいかがでしょう。
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