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『10万年の未来地球史』カート・ステージャ

10万年の未来地球史
著:カートステージャ
訳:小宮繁、監修・解説:岸由二
日経BP社
2012.11.15

 この本のタイトルを、帯を見て手に取った人がたぶん思い浮かべるのは、人為温暖化阻止を訴える本なのだろう、というイメージだと思います。

 ですが、違います。この本は温暖化阻止の行動を起こそう、今すぐに起こさねば間に合わない、と説く本ではありません。すでに手遅れであることを示し多少でもマシな撤退戦が可能であることを示します。即座に温室効果ガスの放出をやめるべきだとか、温暖化で街が沈むぞと読者を脅す本ではないのです。

 人為温暖化による危機を不必要に強調することもなく、温暖化説の問題点を厳しく追及しているわけでもありません。強調されるのは人類はもう莫大な量の炭素を大気環境に放ってしまい、その影響が解消されるまでには万年単位の時間が必要である、ということ。少なくとも計算を試みるならばそういう時間スケールで影響の残ることを我々人類文明はすでにしてしまっていると。
 そして温暖化による影響を具体的に示しますが、それは映画やアニメ、科学ドキュメンタリで見せつけられる「水没都市」のイメージではありません。すでに世界は温暖化による海水準変化以上のペースでの地盤沈下や隆起を経験していて、これから訪れるかもしれない海面上昇も同様に対応するだろうと語ります。東京湾沿岸のゼロメートル地帯、地盤沈下が原因ですが温暖化による水位上昇はあれよりもゆるやであるそうです。世界中の似たような土地の例を挙げ、私たちはコストを支払いつつも対応できてしまうだろう、と。
 海水準以外にも二酸化炭素濃度の上昇によって酸性化する海についても語ります。水温の上がった海は今の馴染みの海産物とは違うものを私たちにもたらしそうだと。氷の消えた北極海は豊富な水産資源の得られる海となり、pHの変わった水では殻を脱ぎ捨てた既存の生物が別の姿に育つかもしれないことを示唆します。

 ありきたりの温暖化説とも温暖化説批判とも違う視程の長さが魅力かと思います。SF的な感覚を刺激される本でした。


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