コミック百合姫2013年7月号

一迅社
2013.5.18
今号はカバーの表面加工で何かやっているらしいとの事前情報で楽しみにしていた『百合姫』。実物を手にしてみると「なるほど!」と。
同日発売の百合姫コミックスも五冊とお財布に痛い18日となりました。
表紙
表紙加工は「グロスニス+はじきニス」という方法で行っているとか。以下にクローズアップ写真を。

はじいてるはじいてる! UV硬化ニスをはじく下地インクを使った部分だけこんな感じにシワができるそうです。このシワのできた部分がザラザラした触感になり他の部分がツルツルになるようなのですが、この質感の違いは表紙画像では伝わらないはず。実体のある紙書籍ならではの可愛い演出。表紙を開いた見開き目次ページも続きになっています。
ボウソウガールズテキモウソウレンアイテキステキプロジェクト B.G.M.R.S.P 河合朗
作者がTwitterに貼った一枚のイラストをきっかけに掲載が決まったらしい新連載。前作「センチメンタルダスト」はとてもウェットでタイトル通り“センチメンタル”感たっぶりでしたが今回は「アホっぽい百合」がコンセプト。(Twitterのイラストに付されていた言葉) 以前はバトル漫画にも挑戦していたという作者は少年漫画的なギャグ顔表現もこなし、デビュー二作目とは思えないこなれたタッチを見せます。主役二人を見れば落着点の想像ができる……のは恋愛漫画の宿命ですが、そこに至るまでにどんな“アホ”を見せてくれるのか。今作も割とウェットな背景設定がすでに覗いていて“アホ”一本ではなさそうです。
ギャグ路線では『百合姫』にはすでに「百合男子」という強敵がいます。あちらは登場人物たちは思いっきりシリアスに“おばか”をやっています。B.G.M.R.S.Pともどもそびえ立つ“おばか”と“アホ”の双璧になるといいな。
正式タイトルが長くて覚え切れなさそうな略称B.G.M.R.S.Pですが読者側には「アホ百合」で通りそうな気もします。
正しいぱんつの捨て方 ちさこ
ぱんつに始まりぱんつに終わる。
下着プレゼントは男→女だと想像するだけで「おっさんのダメプレゼント」のオーラ出まくりですが同性だと変なバイアスもなくて日常的な小物の範疇かもしれません。ぱんつネタも少年・青年漫画だとお約束フェチな感じが出てしまうけれど純正少女漫画タッチのこの作者で百合漫画であれば違和感もなく。ぱんつを握りしめた主人公で絵面的にほのぼのしたおまぬけ感が漂うのもキュートです。
くらやみのアスタリスク・前編 百乃モト
工エェェエ工。ここで「後編に続く」なんですかぁ〜。連載物の引っぱりとは微妙に違う一段落ありつつの引きだけどすごい生ゴロシ感。次号に掲載予告あって良かった。でも待ち遠しいぞ。メインキャラの一人の“紘子さん”は『キミ恋リミット』にも登場したキャラと思われます。幸せになってくれるといいな。
犬神さんと猫山さん くずしろ
新キャラ投入。日常ではなかなか見られない体を張ったぎりぎりのギャグが身上のキャラようです。このキャラは印象強い。後半・二話目では猫山さんのお姉さんもしっかり登場。
邂逅エフェクト コダマナオコ
ちょっぴりWildroseっぽいベッドシーンの生きる大人テイストのお話。
『百合姫』から『つぼみ』や『ひらり、』に描くようになった作家さんは幾人かいるけれど『百合姫』外の百合誌から『百合姫』に進出したのはたぶんコダマナオコだけ。百合漫画描きの発掘、という意味で野心的な印象の『百合姫』では例外的な存在なのだろうと思います。先の描き下し単行本『不自由セカイ』もすごく良かったし、今回のちょっぴり破滅的な香りのするまとめ方も「このあとの二人どうなるの」感も良かったし。次号にも読切の掲載があるらしく、予告ページにはぐっと来るカラー絵がありました。七月予定の新刊単行本も『百合姫』掲載作だけだと足りないんじゃ、と思ったけれど『Girls Love』シリーズに掲載したものが二本ありました。次号も単行本も楽しみ。
my sweet clover 慎結
人間関係ちょっとややこしい三人のお話。ちんちくりん?の七葉を中心に出会い系サイトに出入していたヒイと高校生モデルのエリンが牽制しあうという構図に。あれ? でもちょっと待てよと、おいしいトコを突いて来ます。
美しくなる日 井村瑛
異文化を描いた「熱帯のリリオン」やテビュー作「リバーサル」の印象が強く、作画が洗練されお話が『百合姫』スタンダードな現代恋愛ものに寄ってきているのがちょっともったいない気もします。今回のお話もフツーの女の子への切ないメッセージがあってこれはこれでとても良かったけど、井村瑛だけにしか描けないものが読みたいな。現代恋愛にしてもギリギリ感のあった「感情的日常」とかとても好みなのです。本誌と同日で単行本『ツミキズム』
も発売。
おやすみsyndrome 蕗
双子もの。絵もお話もまだ少しぎこちなさ漂いますが、でもデビュー直後のこの時期にしかけ描けないだろうお話であるような気もします。最後のページの「女の子だから双子だから」の部分を読んでふいに「男の子の双子でこの話だったら……」と連想してしました。
ゆるゆり なもり
京子宅での鍋を囲むごらく部の面々。そこに停電が。嵐の山荘的シチュエーションの中ですがやはりごらく部なのでした。
インソムニアガール 大北紘子
タイトルの“insomnia”は不眠症のこと。エグいと評してしまいがちな大北紘子のお話ですが、今回はハッピーエンドな気はしつつ。けれど設定や状況に覗くトゲの存在と「夢で会えるまでには時間がかかるらしい」というモノローグに「亡くなった母以外も指していたりはしないだろうか」と警戒したくなるのは作風に調教された身ゆえでしょうか。いえ、たぶん素直に読むのが一番だと思うのですが。同日発売のコミックス第二弾『月と泥』もとても良かった。
きものなでしこ 八色
前号で一気に関係の進んだ観のあるサーヤとかの子。「ぎくしゃく」という話から始まる今回はまさにぎくしゃく。というよりもこのお話の進行のぎくしゃく感は作者が甘々シーンを描くのに照れていることがストレートに出ているのではないでしょうか。読んでいてなぜか妙に気恥ずかしくなりました。
恋に××は関係ないよね! まに
百合姫コミック大賞の紫水晶賞作品。見やすく整った作画で丁寧さもしっかり感じられます。ぷに感のあるキャラデザも可愛い。三つ子の魂百まで的(三つじゃなくてもうちょい上みたいだけど)な刷り込み?のお話です。
コミック百合姫と区別企画ページ・ユリシィ
何かの特集ページなのかなーと思ったのですが「ユリシィ」というタイトルからして何かのパロっぽい。なんだっけ、と考えること三十秒。結婚情報誌「ゼクシィ」のパロディなのだと気づきました。ちょっと前の「ゆるゆり」キャラの婚姻届の元ネタは「ゼクシィ」的なおまけだったんだ……と改めて気づいた次第。「ゼクシィ」は付録がヘンテコなことで定評のある雑誌らしいのです。記事のような微妙な感じ〜と思ったら『ふ〜ふ』の宣伝に繋がるという企画。どーせならイラストタッチともども「ゼクシィ」をパチったデザインにしてしまえと思ったのでした。
百合魂収録レポート 百乃モト
百乃モトのアニメ塗りに近いタッチのイラストが新鮮でした。漫画だと割と泣いたり悩んだりのキャラが多いので笑顔ばかりの明るいレポートも物珍しく感じられます。
月と世界とエトワール 高上優里子
巻中カラーは非コート紙で水彩っぽさがよく出ていて蛍光ピンク特色も華やか。読み応えたっぷりの40ページ。歌勝負の第一幕も終わり次の舞台に向けての助走が始まったのですが、おお、なんという少女漫画展開。波乱のシーンで次号へとがっちり引っぱります。
アッチ/コッチ/ドッチ 竹宮ジン
那奈×さとみシリーズ。この二人の話ぎっしりの単行本が出せそう。意外とバイオレンス行動の多い那奈なので最終ページ付近でもぱしーんと来そうな気がちょっとしたのでした。
citrus サブロウタ
あわや退学!?というところで突発イベントに救われたっぽい柚子。作中の小ネタに『ももいろ姉妹』ってなんじゃそれ読みたいわ!はるみんツワモノだな!などと呟きつつ。いや〜、押し倒し&寸止めに振り回されまくります。「月エト」と「citrus」の(中高一貫教育校でいうところの)外部生組の見せ場どんどこ盛り込んでくる話作りがたぶんこれまでの『百合姫』には少なかったのだと改めて思ったのでした。この「キター!」感が文句なしに楽しいのです。こちらも七月に単行本だそうです。
G.G.P 黒霧操
Girls Guard Projectと題しティーンの妊娠による不幸を避けよう!と声高に叫んで避妊具をかざすキャラは百合姫的にはかなりインパクト。良い意味で“捻り”を効かせようという指向のある作者ならではの印象の強いお話しになりました。前号・前々号あたりから躍進著しい黒霧操、その進歩した漫画力とキレの良い題材と好循環が続いているように思います。同日発売の単行本『マテリアルキャンディ』
の表紙の鮮やかさの素敵なこと。
楽園の条件 side:A side:B 森島明子
同時発売のコミックス『初めて、彼女と。』からの切り出し掲載。感想は単行本の記事にしました。
ロケット★ガール 田仲みのる
少し前に一時お休みしていて再開と同時に数年が過ぎていたり、今回も回想にどーんと飛んだりでめまぐるしいロケガ。回想回の今回はテンション上がる39ページ。そんでもってかなりハードな設定も明らかに。ぉぉぅ。でもこれでこそ次回が楽しみに待てるというもの。
私の世界を構成する塵のような何か。 天野しゅにんた
見開きの扉絵のちびキャラ可愛いな。とてもこのお話のどろどろドラマを展開する子たちに見えな……。今回はなんだか思いがけないカップリングの予感が二組。いやその組み合わせ合わないだろうダメだろうと思いつつ組み合わせたらどーなるのか気になるのは読者という位置がレミに近いということなのかもなんて思ったり。
ストレンジベイビーズ 大沢やよい
最終回。ヤギー&まど組はしっかり決着がついたけどココットとアリス側が不消化気味だ〜。ちょっぴりもったいない感じもしました。
百合男子 倉田嘘
今回の百合男子は素敵回。啓介がうっかり格好良く見えるシーンがあったし、宮×藤的にも百合漫画らしい見せ場があったし。それにしても藤ヶ谷、百合女子開眼したのが原因なのか啓介っぽさが伝染してきてるような。そのうち手からビームが出るようになったりしそうで恐いです。今回のストーリー進展、松岡さんが内心でどう思っていたのか気になったのでした。
★ ★ ★
新刊の予告が続々と。
と特に「ゆるゆり」関連がハイペースで画集まであっておサイフ直撃の夏に。百合姫Wildroseも久しぶりに出るようです。小説では雨降波近『ヒカルセカイ』
も七月刊予定。こちらは情報がまだ少なめで著者と同名のミュージシャンがいらっしゃって音楽ネタであるらしく、一迅社文庫大賞アイリス部門への投稿作が元になっているとか。イラストはタカハシマコの模様。
「恋愛遺伝子XX」がここのところ掲載が不安定になっているのが残念。次号予告にはあるので無事掲載を祈るばかり。