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『月と世界とエトワール1』高上優里子

月と世界とエトワール
高上優里子
一迅社コミックス百合姫コミックス
2013.6.18

 『百合姫』に連載されている純少女漫画調の百合コミック。作者は『なかよし』でいじめテーマの作品を中心に描かれてきた方。
 表紙カバーは印刷された実物を見るとAmazonの画像サンプルと少し印象が違います。サンプル画像はコントラスト強めですが、実物はトーンの階調がなだらかで暖色の彩度も高く見えます。蛍光ピンクと渋めの金色の特色インクが淡い水彩調のイラストによく映え、綺麗です。

 中高一貫で音楽教育の充実した月光学園を舞台に、歌姫エトワール騎士シュヴァリエ、エンゲージ、恋人たちル・クプルといったコテコテ・キラキラの少女漫画設定が踊ります。主人公・舞坂よぞらはそんな学校に高校から入学し、女王のように振る舞う現歌姫の海百合やその騎士・永遠とわ、気ままに振る舞う岸辺世界といったキャラたちと出会うことになります。王道のお嬢様学園設定。本来の少女漫画であれば永遠や世界の位置には男性キャラが置かれるはずですが、女子校が舞台ということもありヒロインの夜更けの窓辺に王子様よろしく現れるのも、衝突アクシデントの相手も女子。女王ポジションの海百合さえも女性性の塊のようなキャラでありつつヒロインに接近してきたり。
 指輪の謎や地下室の謎など伏線も散りばめられつつ、純正少女漫画感たっぷりに展開していきます。

 試し読みは「ニコニコ百合姫」の6月公開号(8月号)にop.1丸々一話分が掲載されているのでそちらを覗いてみても良いかも。美麗な表紙&カラーも大判コミックスならではの大きさで楽しめます。カバー下も(漫画があるわけではないですが)カバー袖も愛らしくデザインされていて力の入った装丁。ページ数も216ページと百合姫コミックスのトップクラスで読み応えもあります。描き下しは掌編が五つ+あとがき2ページ。巻頭にはカラーページが収録されていますが、雑誌掲載時と同様ノンコートのカラーページで水彩感がよく出ています。

 オススメ対象は「少女漫画の百合物語が読みたい」層かな。絵柄もストーリーもキラキラの王道少女漫画の世界は少女漫画寄りの作風の多い『百合姫』にあっても長編となると珍しいはず。明確に恋愛とは意識されないまま少女同士の濃い感情が歌姫エトワールにまつわる事件に合わせて深さを増して行きます。百合漫画を専門に読む読者よりも『なかよし』読者層が手に取ると共感を覚えるのでは、というのは百合オタの願望でしょうか。

 

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