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紅茶の本

 紅茶の本を二冊読んだのでその感想を。

金の芽 磯淵猛

金の芽
磯淵猛
集英社文庫
2002.3.2

 読んだのは角川書店版のハードカバーで1998年刊のもの。リンクは多少なりとも入手が容易そうな文庫版に貼ってあります。

 多くの紅茶本を書き、インドの最高品質紅茶を日本に積極的に紹介している磯淵猛の紅茶産地探訪旅行記です。90年代末のインド情勢が描かれるので急速な経済発展を遂げている現在とは多少違うはずですが、それでもやはり外国人には危険な土地であることに違いはないでしょう。当時は恐らくこの本に出てくる紅茶農園の名はごく一部の人しかしらなかったはずですが、ネット時代を迎え、著者の活躍の成果もあって恐らく紅茶好きの人であれば「トワイニング」のようなイギリスブランドの紅茶以外に、トップレベルの農園の送り出すブレンドされないストレートの茶葉があることを知る人も少なくないはず。その、現在では(熱心な紅茶好きには)知られるようになった農園二(三)カ所の探訪レポがこの本の内容になります。アッサムのモカルバリとダージリンのグームティ&ジュンパナ。
 インドの外国人旅行事情が中心となりますが、そこに紅茶の歴史や実際に目にした茶園の印象が織り込まれて非常に面白い――というと語弊がありますが、感慨深い読み物になっています。訪れるだけでも危険で、インド人であっても行くことを怖がるアッサム。無茶な交通事情。植民地政策の遺産。カースト制度。私たちにもなじみ深い紅茶の背負うものがずっしりと感じ取れるはず。紅茶マニアで未読の方にも勧めたいですが、ティーバッグの紅茶くらいしかしらないよ、という方にも是非お勧めしたいと思ったのでした。

世界の紅茶 磯淵猛

世界の紅茶 400年の歴史と未来
磯淵猛
朝日新書
2012.2.10

 『金の芽』は紀行文でしたがこちらは紅茶知識本。紅茶の歴史を紹介し、世界的に有名な産地へ訪れ製茶の様子を伝え、ミルクが先か紅茶が先か論争やおいしい淹れ方、その科学的解説をします。巻末近くには世界の有名紅茶——リプトンやトワイニングといったブランドではなく産地別——の味覚チャートなどもあります。最高級茶の先鋭的な(マニアックな)おいしさにはあまり触れませんが、紅茶に関する知識が基本からきっちり押さえられる網羅的な読み物です。特に「ジャンピング」の科学的な解説部分はこれまで胡散臭かった理由づけをしっかり検証していて好感が持てます。あとがきでは「アインシュタインの眼」という科学番組での紅茶特集回にも関わった旨が書かれていて初めて番組の存在を知りました。見逃したのが惜しまれます。
 写真がいっぱいのお洒落な本やブランド紹介の充実した紅茶本も多いですが、中身の濃い実直な本としては断然こちらをお勧めです。

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