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『ヨハネスブルクの天使たち』宮内悠介

ヨハネスブルクの天使たち
宮内悠介
ハヤカワSFシリーズJコレクション
2013/5/24

 第149回直木賞候補に挙ったこの「ヨハネスブルクの天使たち」はハヤカワSFマガジンで連載されたものに書き下ろしを一編加えたSF連作短編集です。各話に共通するモチーフはDX9という少女型歌唱ロボットと世界各地の特徴ある建築物。

 歌唱ロボットのイメージの元はたぶんボーカロイド・初音ミク風の何か。舞台となるのは南アフリカ共和国のマディバ・タワー。アメリカの世界貿易センタービルのツイン・タワー。アフガニスタンのダフマ——沈黙の塔、あるいは黒い井戸という意味の名で呼ばれる風葬場。イエメンの泥のビルが並ぶシバームの旧市街。最後の書き下ろしは恐らく、日本の東京・板橋区の高島平団地。いずれの舞台でもそれぞれ異なる状況、イメージでDX9は落下します。空から降る少女型ロボット。
 選ばれた舞台のイメージがこの紹介を読んだだけで思い浮かぶならばきっとあなたは建築に強い関心を持っている人のはず。そして著者である宮内悠介もそういう人なのでしょう。恐らく、実地に訪れたことのある場所なのだろうと思います。それもほんのちょっとパッケージツアーで滞在したのではなく、土地の人とじっくりと触れ合うような旅の仕方で。各々の建造物とその土地に生きる人々がとても生々しく感じられるSF連作短編なのです。日本とは違う論理、違う空気、違う常識。時代設定は近未来ですし、DX9というロボットには人の記憶を載せてしまえるテクノロジーが描かれたりしますが、南アでもアフガンでもイエメンでも力強く臨場感ある人と風土が主役です。サイバーパンクの灰色の未来とは違う、現実の諍いの延長にある近未来の変わらない紛争を日常とする人々。リアル。

 土地と人、そして建物が何よりも魅力です。建物が魅力、といっても建築物そのものではなく立てた人、住まう人、訪れる人を介しての見えてくる建物が素敵なのです。DX9に代表されるSF設定は物語の重要な位置を占めるものの、不幸な死を生産し続けるヒトに変わるものとしてのDX9、というイメージとしての駆動力が中心でハードSF的なアプローチではなく、ガチガチのSFファンでない一般小説の読者であっても抵抗なく読めると思います。

 読めば宮内悠介の次の作品が待ち遠しく思えることでしょう。

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『百合姫Wildrose』Vol.7

百合姫Wildrose Vol.7
一迅社コミックス百合姫コミックス
2013.7.27

 久々の『Woldrose』シリーズです。Vol.6が2010年の8月だったので前回から3年弱。間に『Girls Love』とシリーズタイトルを変えたものが2冊出ていてそちらから計算しても2年振り。成年指定はないけれど性描写のある百合コミックアンソロジーです。帯は

溶け合うまで、感じよう。

百合姫Wildrose Vol.7 帯より

 表紙カバーは一番上に赤く鉢巻きが入り「女のコ同士のジューシー♥LOVEコミック」と入るのも、「Wildrose」のロゴデザインも以前の『Wildrose』シリーズのまま。唯一「百合姫」のロゴがリニューアル後の『コミック百合姫』と統一されたフォントとなっているのがデザインの違いでしょうか。

 掲載作家はサブロウタ、コダマナオコ、大朋めがね、ロクロイチ、ちさこ、百乃モト、こるり、天野しゅにんた、南崎いく、倉田嘘と現在の『百合姫』本誌の作家たちを中心に馴染みのある顔触れ中心。大朋めがねは『つぼみ』常連でしたが『百合姫』系は初でしたっけ……?。

 お気に入りの作家さんが描いているなら買い。

 サブロウタ「パートナー」は『百合姫』の「citrus」で見せてくれる表現力をばっちり生かして期待通り・以上。えっちシーン自体は短めですがぐっと来る見せ方をしてくれました。
 コダマナオコは『百合姫』や『つぼみ』に載った短編や『不自由セカイ』でもですがエロス表現に加えて同性であることをお話のテーマに盛り込んでくるあたりとても好み。
 成人向けも描いている大朋めがねはその表現力を見事に発揮してました。“女”の恐さも感じさせつつ。ベッドシーンでも眼鏡を外さないのはこだわりでしょうか。
 ロクロイチ「夕方、部屋の中」は公にできない関係の寂しさをしっとりと。『女の子×女の子コレクション』ではかなり濃い性描写もある作者ですが『Wildrose』では表現若干抑え気味かな。
 「明日からはもう飲みません」のちさこ百合姫コミック大賞出身で『Wildrose』系への掲載は初めて。『百合姫』掲載でもおかしくないかもなふんわり調。
 百乃モト「ユウヤミメカクシ」は女同士の情事を盗み見てしまって、という話。窓越しに展開されるベッドーシーンが引き金になった出会いにじんわり滲むエロスは雰囲気あります。
 「flow blow」のこるりは私には初見の作家さん。頭身低めの丸っこいタッチで描写は割とこってり。
 天野しゅにんた「ENCORE!!!!」は『百合姫』本誌ではどろどろ渦巻いちゃってる作者ですがこちらはシンプルなお話。イメージ描写が日本のシュールレアリスム全盛時代っぽい昭和感でした。昭和的感性愛が漂います。
 南崎いくの「熱病解放区」『Sweet Little Devil』収録の「恋愛準備室」登場の二人の後日談。
 「夏の日」倉田嘘。予告で作者の名前が挙っていたのを見て「もしや百合男子勢がいちゃこらする話では」とちょっと期待?したのですがさすがにそれはなく倉田嘘久々の百合エピでした。

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『彼女とカメラと彼女の季節 3』月子

彼女とカメラと彼女の季節3
月子
講談社モーニングKC
2013.7.23

 記事カテゴリは「百合」を含めてありますが、そのあたりは異論が出るかもしれません。

 『彼女とカメラと彼女の季節』——略称『カノカメ』は1巻時点から百合オタに注目されつつ、オタ間での紛糾の対象にもなっていた作品です。注目されていたのは主人公・あかりがユキに対して同性愛的感情を自覚するお話として始まっていたから。紛糾の元はあかりとユキに加え、凛太郎という男性キャラが重要な位置を占めていたから、かな。2巻ではあかりと凛太郎の距離が縮まり、この3巻ではさらに親密になっていきます。
 男性キャラが主人公と深く関わってくるために一部の百合オタクからは批判的に扱われますが、私にはこの漫画は巻が進むにつれてますます百合漫画として面白くなっていると思うのです。無性的で写真しか見ていないはずのユキ、同性愛傾向を自覚しユキへの恋心を持ちつつも凛太郎を許容して愛情に近い感情を抱けるようになりつつあるあかり。変わらずあかりにまっすぐ想いを向ける凛太郎。主人公のあかりが自身の感情を手探りで確かめていく話となります。ちゃんと読んでみればこの漫画が明らかにあかりとユキの心を追っていることに気づくでしょう。

 狭義の百合ジャンル作品ではないかもしれませんが、少女の心を追った話であることは確かで、『ひみつの階段』や『ピエタ』、あるいは『丘の家のミッキー』や『クララ白書』、『赤毛のアン』や『若草物語』『小公女』の世界で描かれてきた少女のありように惹かれてきた身には、少女の視点で描かれ少女を見つめるこのお話はとても魅力的です。そういった要素が色濃く現れるのが百合漫画というジャンルであったから好んでこれまで読んできたのであり、求める物語は必ずしも同性愛である必要はなく、作中の男性の存在も不快ではありません。

 あかりは、あるいは巻が進むこの先、凛太郎と結ばれるのかもしれませんし他の男性と恋愛するかもしれません。けれどあかりにとっての一番はユキ。きっとこれは変わらない。凛太郎の存在が次第に重くはなってきてはいても。

 この巻ではあかりと凛太郎をモデルにユキが撮影するという形でお話が展開します。カップルを演じるあかりと凛太郎、撮影者としてのユキ。撮られ撮る経験から写真に対する視点を持ちはじめることであかりはユキの世界をいつの間にか感じ取れるようになっています。技巧や理屈は語らずとも生の感情に駆動される十代のキラメキにカメラを向けてシャッターを切ること。リアルタイムでは無意識の向こう側に流れていってしまう光景が、印画紙に焼き付けられて留まり、向かい合える面白さ。写真漫画の増えた最近にあっても『カノカメ』は写真の面白さの表現ではぶっちぎり。蘊蓄もマニア指向のメカ描写も裏方なのに、随一の濃さを持つ写真漫画になっている奇跡。痺れるとしか言いようがありません。

 写真という趣味に親しんでいる人、憧れている人にお勧めしたいガチの写真漫画です。

 写真には必ずしも真実を写すものではない、という側面もあります。ないものは写せない。けれどあるものだってあるがままに写るわけではない。世界を時間と画角で切り取ることで変容させることができるのです。今後はそのあたりにも触れられると面白いかもしれません。
 この先、どんな漫画になっていくのか楽しみです。

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『citrus』サブロウタ

citrus 1
サブロウタ
一迅社コミックス百合姫コミックス
2013.7.18

 実本はインパクトがあります。

見ないで。

サブロウタ,citrus 1 帯より

 この一言が大きく刷り込まれた帯が巻かれます。見る人をまっすぐ捉える茶髪っ子の視線。片肌が脱げているあたりから下が帯に隠され見えなくなっていて、羞恥をこらえているかのような表情が帯の文言との相乗効果で想像を刺激します。全体にシックなチョコレート色で抑えた色気が滲み出るような。
 帯の小さめの文字にある「純情ギャル×黒髪ビッチ」の純情ギャルが表紙イラストの右側の子。
 主人公は外見&言動はギャル・中身純情の柚子。母親の再婚を機に転校した先がガチガチのお嬢様校。服装チェックで遭遇した生徒会長は黒髪ロングのシャープでクールな美少女で良い香りがして——。と紹介するといかにも百合漫画風ですが、違うのです。作者は『調教カレシ』といった作品を描いているバリバリのTL作家さん。掲載誌『百合姫』ではこれまであまり載らなかったタイプの作風で強烈な新風となっています。
 展開がとにかくTLっぽい。別フレっぽい。男性キャラも登場しいかにも「優しげで不実そうなイケメン」が百合漫画にあるまじく黒髪ヒロイン・芽衣とのちゅーを展開したりして百合漫画的にはタブーっぽくもあるのですが嫌味はないので大丈夫。突発的にちゅーしたり押し倒したり押し倒されたり義理の姉妹になったりと息を吐かせない展開でぐいぐい引っぱっていきます。芽衣はドSっぽいクールビューティなのに何かを諦めているかのように大人たちに流されていく受け身キャラでもあるのですが、主人公の柚子にだけ攻めに転じてみせるのもたまりません。

 内容紹介は散漫になりましたが予備知識なしでジェットコースターっぷりを期待すれば間違いないはず。所々のキメ台詞や小ネタに思わずツッコミを入れつつ文句なしに楽しく読めました。転校先で柚子の友人となる隠れギャル・はるみんとのやりとりも楽しい。

 巻末には掌編・小ネタの複合描き下ろしが8ページ。あとがきのイラストも「さすが芽衣さん」な感じの素敵なのが入ってます。

 収録は『百合姫』2013年7月号分まで。2013年9月号から買えば単行本1巻の続きが読めます。掲載誌は隔月刊行ですが一回のページ数も多いので進展も速いです。

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『残光ノイズ』コダマナオコ

残光ノイズ
コダマナオコ
一迅社コミックス百合姫コミックス
2013.7.18

 表紙がカッコイイ。
 コダマナオコはすっきりと整理された線が印象的なタッチの漫画家さんで、『残光ノイズ』はシャープ感を生かす幾何学模様的な背景が合わされて非常にキレのある表紙カバーデザインに仕上がっていました。今年購入の本・漫画の現時点ベストデザイン。カバーを外して広げて眺めてもやっぱりカッコよく、目次もまたカッコよかったり。帯もネガポジ反転でカバーデザインをビシッと締めてます。表紙の二人とカラー扉絵のキャラは描き下ろしの表題作「残光ノイズ」から。

 収録内容は

残光ノイズ描き下ろし
邂逅エフェクトコミック百合姫2013年7月号
ガールズトークつぼみ Vol.4
恋愛のできないお仕事つぼみ Vol.19
サマー♥スプラッシュGirls Love -strawberry milk shake-
ヘビロテ★ランジェリーGirls Love

と『百合姫』関連以外にも芳文社の『つぼみ』からも採録。コダマナオコは『つぼみ』からは『レンアイマンガ』という編集者×漫画家ペアの百合ストーリーも出ていて楽しく読みました。今は入手困難かも。

 「残光ノイズ」は秘密の隠れ家を持つ主人公と闖入者のお話。同じ学校の同じ学年であってもタイプの違う二人には接点などなかったはずだけれど、と女子グループの連帯の煩わしさや異なるスクールカーストのギャップにも軽く触れつつ、出会いと出会いからの一歩を描きます。
 「邂逅エフェクト」は百合姫掲載時も印象的でした。女子高病で済んだはずの関係が同窓会を機に思い出されて、という話でベッドシーンもあったりするのですが女性の体が美しく見えるポーズがばちーんと決まっていて素敵なのです。男性向けグラビアにありそうな感じのポーズなのに男性読者へ媚びたような嫌らしさがなく、かといって健全過ぎてエロスが欠けているわけでもないGJ感。コダマナオコの絵にはファッション誌や写真集で見かけるビシッと「きまった」感じがあってぐっと来るのです。
 「ガールズトーク」は努力でカワイイを獲得した主人公と天然モノ美少女とのお話。牽制をしかける主人公とやや協調性を欠いた天然美少女ふゆっぺ。この話はとにかくふゆっぺの美少女っぷりが文句なしに良いのです。『つぼみ』掲載時にこの話を読み、ふゆっぺでコダマナオコのファンになったのでした。
 「恋愛のできないお仕事」は色物アイドルユニットの話。ポップでコミカルな感じなので『百合姫』掲載作や『不自由セカイ』でコダマナオコを知った人には珍しい感じがするかも。
 「サマー♥スプラッシュ」「ヘビロテ★ランジェリー」は性描写のある百合アンソロジー『Girls Love』シリーズからでともにベッドシーンあります。ベッドシーンといっても成年指定がつくほどではなくレディコミやTL誌、青年誌くらいの感じでしょうか。構図の決まる素敵な裸体/下着描写があります。絡みは少しぎこちないかな。でもたぶん、成年漫画そのものが見たいわけではない気がするので程よいバランス。七月末発売のアンソロ『百合姫Wildrose Vol.7』にも掲載がありました。
 あとがきには各話の解説が2ページあります。

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『ヒカルセカイ』雨降波近

ヒカルセカイ
雨降波近
一迅社百合姫コミックス
2013.7.18

あらすじ

 不幸の女神(候補)であるミレットの視点で語られるお話です。神様候補であるミレットは正式の神様になるための試験として人間の世界へ訪れます。不幸な人間を選び、不幸にして死なせる、というのが課題であり不幸の女神候補であるミレットの使命。ミレットが選んだのはガールズバンドのVo&ギターの彩乃。女子高生。
 「不幸の女神」の設定が浸食していく明るくポップなガールズバンドの日々を描きます。百合姫レーベルからの作品ということでミレットと彩乃の少女同士の関係も濃く描かれていきます。

帯の「最果てに疾走する期待の新鋭、百合ノベルデビュー作品」というアオリの意味不明さにちょっと笑ってしまいました。

 以下にネタバレ込みの感想&紹介。

続きを読む "『ヒカルセカイ』雨降波近"

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『コミック百合姫』2013年9月号

コミック百合姫2013年9月号
一迅社
2013.7.18

 七月は『百合姫』本誌に加えコミックス四冊、ノベル一冊と百合姫関連の出版物の多い月。月末には『百合姫Wildrose』Vol.7『ひらり、』 vol.11、『ひらり、』発のコミックス『ライカ、パブロフ、ポチハチ公』(四ツ原フリコ)『さらば友よ』(橋本みつる)と『つぼみ』からの『総合タワーリシチ3』(あらた伊里)も控えています。

表紙

 表紙画像が色ズレ風ですがこれはアナグリフという3D画像であるため。赤青メガネが綴じ込みでついてきます。いっそのことカラーページ、全部アナグリフにしてしまえば良かったのに。付録につけたメガネの活躍の場はもっとあっても良いはず。
 表紙の3Dを楽しんだ後にはNASAの火星探査の画像などを見ても楽しめると思います。リンク先以外にも「stereo」でNASAのサイト内検索をするとたくさん立体画像がみつかります。オススメ。Google EarthのMarsもアナグリフに対応していて面白いです。自前のデジカメでもフリーソフトでアナグリフ写真を撮影・作成することもできます。

citrus サブロウタ

 単行本1巻が同時発売の今号は巻頭カラー。39ページは隔月にしてもボリュームあります。副会長のツイン縦ロールは今回大活躍の面白キャラ。縦ロールは意地悪&引っ掻き回し属性という素敵伝統はいつからだろう。「大草原の小さな家」のネリーあたりからでしょうか。ネリーは両側二個ずつの縦ロールですが。こちらの副会長・桃木野さんも見事に引っ掻き回してくれます。
 それにしても芽衣は見事に毎回誰かに迫られてて総ウケっぷり半端ない。時々反撃に出るのもナイス。

百合男子 倉田嘘

 今回は小さく“YURI-JOSHI side:”と小題がついたショートストーリーが複数。魚屋の奥様・皐さんを師匠に百合女子初心者の沙織の悩みが描かれます。皐さんの変人度は魚屋の師匠以上の気がしてきた今回でした。でも藤ヶ谷も変人キャラの気もしてきた今日この頃。

姫さま林檎を召し上がれ 源久也

 源久也の読切短編。白雪姫をモチーフにポップにお妃さまと白雪姫と鏡の精がらぶらぶします。「ふ〜ふ」でもそうでしたがこの作者はド甘いベタベタ展開が最高。

くらやみのアスタリスク 百乃モト

 待望二ヶ月の後編です。今回はバーテンの紘子さんはどうなるのか。前編ではテンちゃん側視点でしたが今回は紘子さん視点でお話が展開します。感想を書いてしまうとネタバレになりそうで書くに書けない……。

わがままファズとぴかぴかさん 大沢やよい

 背伸び&性に対する認識が軽めのキャラとちょっともっさりなおぼこいキャラとのお話で、脇役として出てくる男性の存在——というよりも男性に対するはなちゃんの姿勢が百合漫画にあってはかなりギリギリな感じでアレルギーが出てしまう読者もいそうな気がしました。前途多難そうな主役二人だな〜と思いつつ、大人になることを焦ったはなちゃんの心の成長アフターストーリーが思い浮かんだりもします。

コキュートス コダマナオコ

 タイトルのコキュートスは地獄の最下層という感じかな。教室で孤立している子と接点を持ったら、というお話で後編へ続きます。同日発売のコミックス『残光ノイズ』も好印象だったし、今回の「コキュートス」も後編が楽しみだしでコダマナオコには良い風が吹いている気が。『百合姫Wildrose』vol.7にも掲載があるようでそちらも楽しみ。

犬神さんと猫山さん くずしろ

 今号はプール回+牛×犬回。犬神さんは旧スク水より競泳水着が似合うと思うのです。でもこの「いいのこれ?」感もこれはこれで。猫山さんと杜松さんは似合い過ぎ……。眼鏡オフで髪アップにしたら猿飛さんが誰だかわからなくて犬神さんは試しに押し倒してみるべきだったのではないかと思います。何書いてるんでしょう、私は。八月のニコニコ百合姫が楽しみです。そして牛若先輩コワイ。たぶん牛じゃなくてバッファローとか牛魔王そういう系の生き物。犬神さんはわんこのはずだけど圧されると覿面にチキンなあたり鶏かもしれません。

キャンディトラップ ちさこ

 表面的仲良し風女子の接近に彼氏の横取りを狙われているのかと思いきやターゲットは主人公自身だったのでした、というところから始まるお話。『百合姫』にはありそうな感じのする設定だけど、でも、振り返ってみると記憶にないぞ。導入部のインパクトもありました。

ゆるゆり なもり

 おまえも蝋人形にしてやろうか〜、とはちょっと違いますが絶好調です。

ヒカルセカイ 雨降波近

 書き下ろしノベル単行本『ヒカルセカイ』からの導入部抜粋掲載。掲載部分は冒頭なのですが、このお話、前半と後半で印象が変わってきます。割とライトでポップな展開をする前半とぎりぎりと心が痛む濃密な後半とギャップがあり、私の好み的には前半を踏まえた後半にこそこのお話の真骨頂があると思うので掲載部分のライトな雰囲気で合わないと見限るのは「待った!」と申し上げたい。別途感想記事書きました。

ボウソウガールズテキモウソウレンアイテキステキプロジェクト 河合朗

 今回は生徒会選挙回。むむ。なんで二人揃って副会長立候補なんだろう。学年別で役職の振り分けがある設定なのかな。紅子のキャラだと会長立候補しそうな気がしたのでした。

無人島へ持っていくなら タカハシマコ

 草ぼうぼうの背景はタカハシマコの絵であまり見ないからでしょうか、今回の話はぱっと見た感じのタカハシマコ感がこれまでのイメージとなんとなく違う気がしたのでした。でもどこが違うというわけでもなく。純少女漫画の作風でありつつ所々に理系や歴史や思想や、作中の少女には不釣り合いな単語がぽろっと紛れ込み、それがうまくハマるのがタカハシマコ。心象風景をメインにしたこのお話もふわふわの絵柄でありながら一発芸も決まりとても好み。九月には『乙女ケーキ』に続く百合姫コミックス第二弾がまとまるようです。バンザイ。

月と世界とエトワール 高上優里子

 今回も読み応えたっぷりの46ページ。地味キャラな感じがしていた生徒会長が重要キャラっぽくなりつつあります。伏線はこれまでもあったけれど今回は岸辺世界との対比で印象的に。出たばかりの単行本1巻も少女漫画感たっぷりでとても好みでした。単行本の収録内容は2013年5月号までなので7月号から読むと最新話に接続します。

きものなでしこ 八色

 掲載1ページ目の扉イラスト、なぜか妖しくSM感が漂っております。本編の内容も一段ブーストかかった感。少し前から百合度アップが進んでいましたがその変化から目が離せない感。

my sweet clover 慎結

 前号掲載作からの続きです。この三人組はバランス取れていて好印象。うまく続き物に展開できていて良かった〜。エリンと緋衣ひいのカケアイも楽しい。アンケ次第で第三弾もあるのかな。続きが読みたいような、これはこのまま読者側で後の展開を想像して楽しむのが良いかもしれないような。

himecafe

 ゲストは高上優里子。「百合魂」収録四コマ&妹語りのイラストがかわええーっ。

ガチ百合道 ねこ太

 ふぉぉおおお。髪の毛がスーパーサイヤ人になりそうです。

笑わぬ魔女の死刑宣告 片倉アコ

 百合姫コミック大賞・瑠璃賞の作者さんです。不吉な予言をしてそれが当たる、という同学年の変わり者は「魔女」と呼ばれ、予言は「死刑宣告」と言われていた。そして魔女から主人公への宣告。未必の故意というか予言や占いのメカニズムというか、そんなものをキーに展開するお話。ストーリーの流れがちょっとわかりづらかったりするものの、宣告の仕組をうまく使ったテクニカルなプロットが良い感じでした。

キスチュチュ 竹宮ジン

 さとみ×那奈話の回収がしっかりついたーっ、気がする。

この中に一人残念な子がいます! マニ

 作者はケモ耳属性強い方なのでしょうか。百合姫コミック大賞紫水晶賞受賞の前作でも登場させていました。可愛いキャラとほえほえの雰囲気を愛でる感じの作風なのかな。

私の世界を構成する塵のような何か。 天野しゅにんた

 れみあは悪役というか引っ掻き回しキャラでキャラ紹介欄では「恋愛マスター」になっているのだけれど、余裕ありそうに見せて崖っぷちにいるようなタイプに見えてしまいます。読んでいてハラハラ。この先どうなっちゃうんだろうなあ……。

ナツヤスミ 井村瑛

 今回の井村瑛はテクニカル。小説でいうなら叙述トリックもの……に近いかな。読み終えて、始めに戻って読み直して「おお!」と。

人型プラスティック 黒霧操

 今回も黒霧操は攻め。キービジュアルがひとつあって、それを軸に作られたお話の気がします。タイトルページの扉絵の感じ。さらにもうワンステップが展開します。まだまだ進化しそうな作者で楽しみ。

恋愛遺伝子XX 影木栄貴/蔵王大志

 しばらくお休みしていたのが再開したのを喜びつつ、今回12ページで次回クライマックスの予告あり。むむ。九重スミレとかもっと複雑に絡んできそうな気がしてたし、メガネや縦ロールももう一波乱ある予感がしてたのだけれど。今回のお話も一息にまとめに来た気がしてしまいます。

ロケット★ガール 田仲みのる

 しばらくのお休みから復帰して時間が飛んだことにびっくりしましたがどうやらがっちり回収していくタイプの展開になるようです。なんだいなんだい、面白いじゃないか〜。前回も良かったし。テンション高い方がこの作者のお話は輝く気がします。

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 今回は峰なゆかのコラムがお休みの模様。今号のMVPは「犬神さんと猫山さん」の牛若先輩でしょうか。
 八月は慎結の『星降り坂一丁目三番地』単行本が出ます。

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『神々の沈黙』ジュリアン・ジェインズ

神々の沈黙
著:ジュリアン・ジェインズ
訳:柴田裕之
紀伊國屋書店
2005.4

 タイトルだけ見ると一時期話題になった『神々の指紋』というトンデモ本にあやかったようでもあり、スティーブン・セガールが活躍する映画シリーズのようでもあります。少し前に読んだ『意識は傍観者である』の中で「内観する意識が生まれたのは三千年前」と説かれていると紹介されていたのがこの本で、それがなければこのタイトルでは手に取ってみる気にならなかったことでしょう。原題は"The Origin of Consciousness in the Breakdown of the Bicameral Mind"——「二分心の崩壊と意識の誕生」と訳せばいいのでしょうか、そんなタイトルであったりします。ただし『神々の沈黙』という邦題は読んでみると内容をうまく表したタイトルであることもわかります。

 この本は意識——内観し“私”を“私”と認識する機能が人間に備わったのは三〜四千年ほど前のことであると説きます。これだけ書くとトンデモ本のように思えますが、『イーリアス』や『オデュッセイア』で使われる表現、古代文明の発展様式を元にヒトが意識を持ち、明確な意思の元に行動するようになった時期を洗い出そうとします。邦訳は最近ですが書かれたのは1970年代半ば。脳科学や遺伝子工学、人類学の飛躍的な進歩が得られる前の時代であるだけに現代の目からはちょっと頼りない論拠を用いていたり、間違った知見を元にしていたりはしますが、大胆に人類の意識の進化に関する仮説を展開します。
 この本で説かれている“二分心”説や意識の発生時期は間違っているかもしれません。いえ、たぶん間違っていることでしょう。ですが、意識の発達する前の状態として現代で言う「心の理論」に相当するものを人が持たなかった時代があったとか、古代の人々が統合失調症的な幻聴——無意識の底から浮かび上がる行動指針・衝動を神々の声として聞き、従わずにはいられないものとしていたという意識の発達過程の提示はとても興味深いものです。ドーキンスの『神は妄想である』の中でも(辛辣にではありますが)興味深い本として紹介されているのも納得できます。

 この本はトンデモではない、と私は思います。
 論拠となっているのが文書——楔形文字で刻まれた粘土版の内容に関する独自の解釈であったり、大雑把な古代文明の特徴抽出であったり、1970年代当時でも間違っていただろう古人類学の知識であったりと科学的厳密さを欠くのは事実です。それでも、この本は進化や科学としての視点をギリギリで保てているように思えます。現代の霊長類研究や脳機能イメージングは意識の発生時期を三〜四千年前ではなく、百万年単位の過去であることを示唆していますが、時間スケールはともかく、ジェインズの示した意識の進化過程は時代に先駆けたものであったように見えます。心理学や哲学で心の理論が登場するのはたぶん70年代末。二分心というアイデアの面白さは今でも十分に興味を持って読めるのではないかと思います。

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