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『ヒトはいかにしてことばを獲得したか』正高信男・辻幸夫

ヒトはいかにしてことばを獲得したか
正高信男・辻幸夫
大修館書店認知科学のフロンティア
2011.7

 言語学の本が好きです。
 学生時代にソシュール言語学の解説本を読み「こんな世界があるんだ」と驚きました。品詞や活用を覚えるだけの実用的だけれど味気ないものが文法だと思っていたのに、背後にはこんな面白い研究がされていたのだと。その後、チョムスキーの生成文法というものを知ってヒトの仕組と言葉を関連づけようとする考え方にまた驚きました。文法や言葉だけを相手にしているように見えた言語学がヒトの生物的な構造に踏み込んでいたのです。
 でも、そこまででした。言語学はかな漢字変換や機械翻訳に大いに貢献したようですし、言語同士の系統関係も明らかにしました。辞書だってただ意味が書いてあるだけではなく言語学が明らかにしたことばのルールに基づき用法が分類されています。成果は膨大です。けれど普遍文法の実体はいつまでたっても明らかにならず、チューリングテストをパスする喋る機械は現れず、機械翻訳の精度はあまり改善されなくなりました。音声認識や合成音声は情報処理技術の進歩とともに洗練されてきましたが、意味を扱おうとするとそこで頓挫します。

 言語学は無力。

 そう思うようになりました。この本の中でも指摘される、文法いじりへの偏重に原因があるのだと感じていました。ソシュールやチョムスキーの言語学の分派もロジックで言葉を分析して正しく言葉を分類・解体できるルールを発見しようとするものばかり。辞書的に固定化された意味を想定するために言葉自体の変化を捉えられず、常に生まれ続ける非線形な(単語の意味と文法から演繹される言葉の表面的な意味とは異なる「李下に冠を正さず」のような)用法や言外の意味に対応できなくなります。学問のための学問のように思え、言語学の本を漁る機会が減りました。時折思い出したように読んだ痕跡が『町田健のたのしい言語学』『非線形言語モデルによる自然言語処理』といった感想記事になっていますが、その度に残念に思ったことも滲み出ているのではないかと思います。
 しかし、最近は脳機能イメージングの進歩によって機能している脳の活動状態をリアルタイムで観測できるようになりました。併せて実験心理学や脳損傷者から脳の神経学的機能を浮き彫りにする(昔からあった)手法も脳科学の進歩によって整理されてきたようです。結果、言語学も神経学や認知といった視点で洗い直されつつあるらしいのです。その更新されつつある言語学について紹介しているのがこの『ヒトはいかにしてことばを獲得したか』でした。

 面白かった!
 しばらく言語学関連本から離れていたこともあり久しぶりに興奮する内容でした。神経学・行動科学・霊長類学の専門家と認知言語学の専門家が対談形式で「認知」という実践的なアプローチからの言語研究を紹介しています。対談といっても雑談的なものではなく、あらかじめ筋書きを定めたテレビの解説番組風の構成で内容は濃く、説明も手順を踏まれているためにとてもわかりやすいです。サルの学習と乳児の学習。FOXP2遺伝子。身振りなども含めた汎用コミュニケーションとしての言語観。ミラーニューロン。自閉症と心の理論。ウィリアムズ症候群。手話。ロジックではなく実践的な研究から生まれる知見の力強さがあります。特に著者の一方・正高氏の上で述べたような従来の言語学にがっかりさせられた面への批判には「そうそう!」と共感させられます。ちょっと批判が強過ぎてお腹いっぱいにもなりましたが。

 視覚も聴覚も身振りも発話も、脳にとってはすべてシナプスの活動パターンであり、コミュニケーションの一種。そんな考え方を基に言語も一コミュニケーション方法として捉え、従来の言語学の示してきた言葉の特別視から逃れようという潮流が見えた気がします。認知科学の視点からの最新のことば研究のアウトラインの掴める一冊でした。読みやすく整理された内容でとってもオススメです。この本のおかげで読んでみたい本がたくさんできてしまいました。

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『お友達からはじめましょう 1』乙ひより

お友達からはじめましょう1
乙ひより
一迅社コミックス
2013.7.25

 乙ひよりは『百合姫』で知った作家さんでおっとりのんびりぼんやりとした空気のある少女漫画タッチの百合漫画であることがたいへん気に入っていて『かわいいあなた』をはじめとする乙ひよりのタイトルはとってもお勧めなのです。ところが2010年あたりを最後に『百合姫』では見かけなくなってしまいました。人気もあったはずなのに。その乙ひよりが『ZEROSUM』で連載を始めたと聞いて楽しみにしていたのが今回のこの「お友達からはじめましょう」。
 『お友達からはじめましょう』の帯を見ると「ガール・ミーツ・ガール+ボーイ・ミーツ・ボーイ」「まったりハイスクールライフ」という文字が踊るように百合とBL要素があり、乙ひよりの得意などこかのんびり感あるキャラも健在と思われました。
 読んでみれば「ああ、やっぱり乙ひより」。
 『ZEROSUM』での掲載とあって百合オンリーのお話ではなく、姉と弟それぞれの同性の友人との交流が交互に描かれる微百合&微BLっぽいお話たち。お友達から、以前の問題でお友達になるための苦労からが描かれます。コミュニケーションが苦手らしい姉は特に。
 登場人物たちのセクシャリティははっきりとせず、概ねヘテロセクシュアルに疑問を抱いていなさそうではあります。なので、百合&BLを期待して手に取るのはあまりお勧めではないです。セクシャリティのあまりはっきりとしない、意識しない少年少女たちのお話として楽しむのが良いように思います。

 とにかく、乙ひよりの作品がまた読めてよかった……。

 2巻が来春とのこと。『百合姫』掲載作よりはずっと速い刊行ペースになりそうです。続刊が楽しみ。

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『チャンネルはそのまま!6』佐々木倫子

チャンネルはそのまま! VOL.6
佐々木倫子
小学館 BIG SPIRITS COMICS SPECIAL
2013.7.30

 佐々木倫子のテレビ業界もの“バカ”ストーリー「チャンネルはそのまま!」シリーズ、第六巻で完結です。

 6巻は一冊丸ごと使って完結に向けてのまとめに入った流れでした。
 ひぐまTVが☆TVを目の敵にするというエピソードの「HHTV」、電波の送信所のある低山にまつわる「特別な山」、スキーのジャンプ選手の取材「K点を越えろ!」、花子初の殺人事件報道「真実のピース」、ヴァイオリン演奏の収録「街の灯」、☆TVとひぐまTVの因縁のワイドショー対決「夕方ビッグバン」、小さな食堂の閉店に際してのドラマ制作「北のさくら」、「北のさくら」の顛末とバカ枠の真実?に迫った「花吹雪」の8話とあとがき漫画が収録されています。それぞれ独立したエピソードではあるのですが、ひぐまTVとの確執が描かれることが多く、最終話を読んでみると「ここに向かって伏線の回収がされてきたのだな」ということがわかる一冊でした。

 読む前は、きっと☆TVは倒産してしまってひぐまTVに吸収合併されるのだろう、と予想していました。☆TVのバカたちがひぐまTVに吸収されたことでバカの遺伝子がひぐまTVに感染し、吸収した側であるはずのひぐまTVが☆TV化しバカ枠TVとなってしまい「そしてみんなバカになった」オチなのだろうと。違いました。お話の作り方としては「Heaven?」と同じとでも言えば良いのか。

 この巻での名エピソードは最終2話のさくら食堂の話ではあるのですが、ヴァイオリン回もキレが良く、ファストフード店でコーヒーフロートを口にしつつ読んでいて噴き出しそうになってしまいました。とぼけた味わいはやはり佐々木倫子。巻末には登場したヴァイオリン曲の楽譜もあり、この曲を初音ミクに歌わせた人もいるようです。以下にリンクを張りますが作中でのネタバレも含むため未読の方は見ないことを推奨。読後で、音にして聴いてみたかったという方向け。

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『Cut』2013年9月号

Cut 2013年9月号
Rockin' On
2013.8.19

 先週、宮崎駿監督の『風立ちぬ』を見てきました。素直に「面白かった!」と言える映画ではなかったですが「良かったかもしれない」とじわじわと考えさせられる映画でした。そして恒例、ロッキン・オン別冊の『Cut』で渋谷陽一が宮崎駿に三万字インタビューをしていると知り、買ってきました。読んで思ったのが、

「そんなに作り手側の意図と外れた見方をしてなかった」

でした。ほっとしました。
 記事の内容は、掲載誌を実際に読んでいただくのが良いでしょう。印象に残ったエピソードをいくつか紹介するに留めます。

 劇場で本編が始まる前に予告編が流れました。『ガッチャマン』や『かぐや姫の物語』もあったでしょうか。『永遠のゼロ』の予告も流れていました。

今、零戦の映画企画があるらしいですけど、それは嘘八百を書いた架空戦記をもとにして、零戦の物語を作ろうとしてるんです。神話の捏造をまだ続けようとしている。

Cut 2013年9月号 「風立ちぬ」三万字インタビューより

 これのことかなぁ……。零戦神話的なものを嫌っているらしいことがインタビューの中で強調されていましたが、予告を眺めた限りでは的中していそうです。

 堀辰雄の『風立ちぬ』についても触れていて「よくわからない」から始まり「掴めそうで掴めない」というあたりはなるほど、と大いに思ったのでした。同時に宮崎駿の『風立ちぬ』もまた掴みきれない映画でした。そういう部分まで含めての映画化だったのだなと改めて。納得行かなく感じた部分もまた堀辰雄的であった気がしてきました。

 『Cut』の渋谷陽一によるインタビューシリーズは理解者っぽいスタンスが少し鼻につくのですが、でも、毎回楽しく読んでしまうし、宮崎駿から面白い話を引っぱり出せているあたり優れた記事なのかもしれません。『風立ちぬ』を観て何か語りたい!語ったよ!という人はこの記事で答え合わせをしてみると楽しいかも。高橋源一郎の『風立ちぬ』評はありきたりの視聴者の感想になっていたように思いました。

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アニメ『風立ちぬ』

 遅まきながら8/16に見てきました。
 『風立ちぬ』

 ネットで「物作りをする人間にはたまらない」「飛行機好きにはたまらない」といった感想を見ていたので、きっと宮崎駿自身の創作への思い入れや飛行機愛で埋め尽くされた映画なのだろうと思い描き、見に行きました。

 ネタバレありの感想となります。否定的な面も列挙してしまうので映画未見の方は読ない方が良いはず。

★ ★ ★

 新宿バルト9で見た。
 上映時間が長く感じた。正直、途中で集中が途切れかけた。近くの席に座っていた中学生くらいの男の子たちは明らかに退屈していた気配。映像も、シーンのひとつひとつも、飛行機も、ヒロイン・菜穂子さんも文句なしに素敵なのに、ストーリーがやや散漫に思えた。題材となったであろう堀辰雄『風立ちぬ』を読んだときの感じに近かったろうか。これまでの宮崎アニメではなかった。『ハウル』にはちょっとだけ近いかもしれない。けれど『ハウル』にあった幻想の華々しさはなかった。どういう面白さ・感動のある映画にしたかったのかがわからなかった。

 飛行機づくり、ものづくりの魅力と恐さ。二郎と菜穂子のラブストーリー。この二本の柱で作られていることは間違いない。ストーリーははっきりと恋愛物で、宮崎駿としては珍しく真っ向力技のラブストーリー。ことに終盤の二郎と菜穂子はこれでもかと涙を誘いにきた。

 登場させる飛行機の選択も「ああ、宮崎駿だ……」と思える(飛行機オタクとしては)ポピュラーでありつつ魅せ方にマニアさも香り、見終えてから調べものをしてみると「おお。おお。おおおお」というオマケも当然のようにある。
 なのに工学者としての二郎のセンスを魅せる場面がよくわからない。『紅の豚』同様、ベテランに唸らせることで新米のセンスをわからせようという方法が今回の『風立ちぬ』でもあるが、技術者にフォーカスした割にベテランが何に感嘆したのかを伝える気がなく思わせぶり止まりで工学部出身者的に「ちょっ、どこに共感すればいいんだよぉ」となってしまう。吉村昭や柳田邦雄の技術ドキュメンタリや谷甲州の技術SFから立ち昇る工学モノの肌触りが、ない。もちろん、工学という意味でもマニアックなはず。応力計算、フランジ、計算尺、サバの肋骨の曲線、弁丸出しで力強く歪むエンジン、震えしなる翼、固定ピッチペラから可変ピッチペラへ。なのに私が工学部で夢中になって触れてきた技術の面白さの一番おいしい何かが、どこかに隠れてしまっていた。飛行機好きが外側から見た飛行機の面白さはあっても機械工学の感触がない……。
 ここにきて何を遠慮してる、宮崎駿。雑草ノートには確かにあった気配が消えているぞ。

 恋愛物としては、シーンひとつずつは力強いし全体で見て宮崎アニメ最強の恋愛物であることは確かだけれど、飛行機パートと恋愛パートがちぐはぐだ。菜穂子のサナトリウム描写も当時の珍奇な治療法ばかりが印象に残った。紙飛行機で通じさせる想いも技師らしい精巧な作りのペーパークラフトと落っこちそうなハラハラドキドキが印象に焼き付けられて「菜穂子さんはこれで楽しいの?」となってしまう。余命を悟って激務の中わずかでも共にいる時間を選んだ二人であるのに、肺病の妻の隣で「タバコが吸いたい」と言い出してしまう二郎。菜穂子の側から「タバコを吸うあなたが見たい」「あなたの吐いた煙が愛しい」といった前振りをしていれば説得力ある名シーンだったのにそれをしないために二郎の行動に共感を持ちづらく喫煙者の身勝手さが表面に出たように見えてしまった。菜穂子が「うつるわ」と形ばかりにしても触れ合いを留めたこととの対称が崩れてしまっていた。二郎と菜穂子が死に直面した恋愛を展開していることは頭を使えば理解できるけれど、問答無用で肌でわからせる宮崎アニメであって欲しかった。
 設計者としての正味の「十年」。妻との時間も十分に取れず、戦場に命を散らさせる機械に集中した「十年」は少年の日の志の残り火でしかないように思えた。風が立ったのは幼少の頃の二郎であって、以降の二郎はただ駆け続けていただけに見える。あまりにストーリーにノレない。ストーリーが見えない。要所要所の演出の強烈さがあだになってしまっていた。こんな宮崎アニメ、初めてだ。
 けっしてつまらなくはなかった。むしろ良かった。Blu-ray出たら買う。かつての日本映画が持っていたすっきりさっぱりしない矛盾と解決しない葛藤の魅力が現代のアニメの中に立ち上がってきている。堀越二郎や飛行機を盛り込んだのはあくまでも監督の趣味で、堀辰雄の『風立ちぬ』の映画化だったのだろうと思う。飛行機に魅せられ国の滅びと道行きを共にし、妻を孤独のうちに死なせ、死後の妻が夢の草原で自分を待っていた幻想を見る二郎の身勝手さは宮崎駿自身の自画像でもあるかもしれない。
 この先、そう何本も作品を作る時間が残されていないであろう——少なくとも監督自身で絵コンテを切り丸抱えで作れる作品のタイムリミットは目前だろう宮崎駿の、代表作は更新されなかった。宮崎駿ファンとしては、彼が好きなもの作れて良かった、と喜ぶべきかもしれない。失われた戦前の生活、ピラミッドを構成する社会、戦争、テクノロジー、ただ駆け続けること、とメッセージはてんこ盛りだ。こうして長文の感想を、観た人々が綴るのであれば大成功なのかもしれない。

 不満の感想が多くなってしまったけれど鳥肌のたったシーンだってあった。たくさん。しかも鳥肌度がすごかった。例えば七試艦戦のエンジン始動シーン。手動式のイナーシャを回して始動前のうなりが上がるのだけれど、それが“呪い”“化物の目覚め”のようでゾクゾク来た。効果音を人声で吹き込むシーンを多用したそうで、それがもっとも効果的だったのがココと津波のような関東大震災のシーンだったと思う。夢の中で翼上を歩くシーン、靴底が機体外板を歪ませていたのだって足の裏に感触が生まれそうな錯覚を覚えた。数え上げればきりがない。素敵なシーンはいくらでも挙る。

 滂沱の涙を流したという感想も見る。確かなのは、観なければ文句の言いようも、涙の流しようもないということ。

★ ★ ★

 映画誌『Cut』が「宮崎駿はなぜ、はじめて自分の映画で泣いたのか? 「風立ちぬ」三万字インタビュー」なる特集を組んでいて興味深く読めました。

 映画の前でも後でも良いけれど堀辰雄の『風立ちぬ』と『菜穂子』も読んでおかれることを勧めます。

青空文庫堀辰雄作品リンク


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『脳はいかにして〈神〉を見るか』アンドリュー・ニューバーグ、ユージン・ダキリ、ヴィンス・ローズ

脳はいかにして〈神〉を見るか
著:アンドリュー・ニューバーグ、ユージン・ダキリ、ヴィンス・ローズ
訳:茂木健一郎
PHPエディターズグループ
2003.3

 SPECTという脳機能イメージング技術を利用して瞑想中の脳の活動状態のスナップ写真を撮り、それを元に神秘体験と宗教をどう位置づけるかという本。

 この本の基本的な立ち位置は科学です。スピリチュアル、宗教、神秘体験といったことを扱いはしますし、それらに必ずしも否定的ではないどころか神秘体験については肯定的ですが科学の側からのアプローチとなります。
 もっとも神秘体験について肯定的、といってもスーパーナチュラルな現象や能力、特定の宗教の神を全肯定しているわけでもないです。この本で言う神秘体験はヨガや仏教のような瞑想がもたらす特定の感覚、「神秘的合一」や「絶対的一者」と定義するもののことです。霊と交信したりするような部類の体験は対象とはされていない模様。
 客観的な物質世界の実在は大前提。神秘体験も基本は「神経学的な現象のひとつ」というスタンスです。

 脳の基本的な構造、機能分布の大まかな解説をし、それを基礎知識として宗教と神秘体験を神経学的現象と位置づけるという展開の本です。論理は非常に明解で、文章も読みやすく、用語も平易です。デネットの『解明される宗教』ドーキンスの『神は妄想である』といった“ブライト”派のように宗教に対する蔑意も露わで信仰を持つ人々を門前払いにする冷たさもありません。宗教に対する視線が優しいのです。
 とはいえ宗教の側に立っての論理展開ではなく、脳の構造や機能にヒトの精神活動のすべてを帰そうという立場で論じられるものなので宗教を解体する思考には違いはありませんが……。

 非常に興味深く、好ましく読めた本ですが大きな欠点もあります。それは病的な妄想・幻覚と神秘体験、客観現実世界の三つのリアリティを並べたときに妄想・幻覚だけを低く置くのですがその根拠が「主観」によるリアリティ感覚の度合いでだけであること。瞑想による神秘体験と客観現実は単にリアリティ中枢が刺激されているだけではないのか、という指摘に著者らはどう答えるのか疑問です。
 また宗教全般の根源を神秘体験にだけ帰結させるロジックも今ひとつ納得が行きません。

 それでも脳機能イメージングと神秘体験を対象に実際の現象を観測し、そこから神を論じようと言う実証的なスタンスはとても好ましいものに思えます。精神活動にそれなりの物質的根拠を与え、論理の迷路から抜け出す足場を作っているように思います。脳機能イメージング技術の発展でリアルタイムに、いつでもどこでも脳の活動をモニタできるようになっていくだろうこれからの時代、胡散臭さの漂いがちなオカルト、スピリチュアルの世界の客観的な基準になるのではないかと思います。

 一応、念のために書いておくと私は宗教やスピリチュアル的なものを信じていない科学の信奉者です。その上で宗教や神秘体験に対する関心がある、という立場での紹介・オススメとなります。この本を底本に、より瞑想者側の立場から述べた『瞑想する脳科学』も併せてオススメです。

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『ひらり、』vol.11

ひらり、vol.11
新書館
2013.7.30

 手に取って重い、厚い、と思ったら416ページもありました。

砂浜と加瀬さん。 高嶋ひろみ

 修学旅行で沖縄に行った山田と加瀬さん。前回、往路の飛行機の中でもお熱いところを見せてくれましたが今回はお風呂があったりちょっと擦れ違いがあったりと一進一退でじりじりさせてくれました。びびるな山田〜と声援を送りたい。

聖純少女パラダイム 森島明子

 漫画らしい絵でありつつ、脇や腿周りのお肉感も素敵な森島明子。今回は32ページ。一番友達のリリと葵で一歩ずつ進みながらもやっぱり友情なんだけど、でも、と。まじめっ子とお洒落と。恋への淡い憧れと。

お姫様のうそ 森永みるく

 vol.9掲載の「お姫様の鏡」の続きです。ひょんなことから王子様っぽい同性の先輩と交際のマネをしてみる約束を取り付けたお姫様体質の主人公、というのが前回で今回はチグハグデート回なのでした。森永みるくはギャル寄りのお洒落っ子と地味っ子の組み合わせが主人公になることが多いですが、このシリーズはどっちも割とまじめそうな王子&姫キャラ。二回目でまだ二人の関係はぎこちないけれど、良い組み合わせの気がします。

ほんとのかのじょ 今村陽子

 ゆーかの「くず虫ラップ」聴きたい……とか思ってしまうくらいには染められてきつつあります。このシリーズ楽しい、すごく楽しい。SとMがどういう関係なのかとっても勉強になります。掲載ページ数的に単行本化はしばらく先だとは思うけれど今から楽しみ。ゆーか様はナチュラル・ボーン・ドSでもえとは出会うべくして出会ったのだなぁと改めて。

OUT OF THE BLUE! くみちょう

 『ほうかご!』でバスケ部漫画が印象深かった作者。今回はスケバンもの……とはちょっと違うかな。ケンカ番長っぽい女の子とマジメメガネな主人公のお話。マジメというよりは神経図太いかもしれない……。落ち着いた友情の話でありつつメリハリも利いていて最後のまとめかたもばっちり。今号のMVP。

男装レイヤーとその幼馴染 佐藤沙緒理

 作風の幅が広いです。毎回違う印象の話で、今回はブス設定のキャラがヒロインなのですが、ほんとに可愛くなく描かれていて、でもキラキラに可愛いキャラじゃないことがとっても生きてくる話なのでした。

終電にはかえします 雨隠ギド

 vol.6に掲載の「ひらがな線、あいう駅」の続編。プリン頭のヤンキー風少女・ツネとアナウンサー志望の普通に打算的な主人公・瀬戸先輩のデートエピソードから始まる32ページ。ツネの兄貴ズ面白しょーもなっ。瀬戸先輩の人として、女としての生々しさもそこはかとなく盛り込みつつ。単行本の発売も決まったようです。やったーっ。

そうして私たちは 芥文絵

 ちょっと不思議で謎めいたお話。ヒロイン伏子ふしこは何かに取り憑かれているのだろうか、あるいは異形の存在なのだろうか、と気になる設定。ほのかに、というよりは間接的にではあっても色濃く漂うエロスと執着。この作者、絵柄と投入されてくるイメージがすごく好みです。百合に限らなくても、ファンタジーを描いても面白そう。ひらり、GLコミック大賞で第5回準グランプリの方です。

きらり、 紺野キタ

 シーンひとつのショートムービーのような話。海辺のじゃれ合い。登場する人物も表現も“今”でありつつ幻想の成分もあり。『ひみつの階段』で描いた少しレトロな女子校の世界とは違う、紺野キタ世界の模索が行われている気がします。

光の庭 袴田めら

 vol.8掲載の「花と稲妻」、vol.10に掲載された「真っ赤なブーゲンビリア」の続編となる椿と菊花のお話。

under one roof/parlor 藤生

 parlorに出てきたお店、ちょっと見てみたい……。

Restart 藤こよみ

 漫画家もの。で、このオチか〜いっ!と思わずツッコミ。『ほうかご!』の馬術部ものもちょっと思い出して「においフェチ?」と思ったり。

あさってにはハワイ。 ユキムラ

 水着選びで小エピソード。最後、へんな方向のオチがついてるとこも良かった。

あのこのしてくれなかったこと 平尾アウリ

 初読でちょっと戸惑って、読み直して、「ああ!」って。短編だからこその読ませ方でしょうか。三人組が二人になって、というお話。

三日月 藤たまき

 vol.10の「少女アソート」の二つめ。前回はチョコでしたが今回はパン。わがままなお姫様は食いしん坊でもあるようです。

放課後のまほうつかい 大沢あまね

 未来を垣間見る力を授かった主人公・めいは学校で占い研究会を作って活動しているのでした。千明という子と知り合いになったのだけれど予知の力は壁にもなり、というお話。大沢あまねの作風は好感度高いです。

ともだちのつくりかた 雁須磨子

 雁須磨子は毎回アプローチが独特で「百合漫画」のイメージに寄せてこないあたりが『ひらり、』を読んでいて良かったなと思うところなのです。典型的な百合に当てはまらないけれど「そう。こういうのも!」と言いたくなる感じ。

銀河に広がる世界をふたりで カザマアヤミ

 宮沢賢治好き同士の文学バトル。カザマアヤミの『ひらり、』掲載作では今回の話が一番好きだ〜。

ピンク×ラッシュ TONO

 今回、珍しくサナに彼女ができました。でも、TONOのお話だもんね。一筋縄ではいかないのでした。あと、サナのステージがあんまり過ぎて笑えてしまいました。

箱庭コスモス 桑田乃梨子

 ふし研の何気ない一日。本当に何気ないどうということのない話なのだけど楽しいのはなんでだ。

サワーグレープス 犬丸

 witch meets knightシリーズ・かなたの番外篇的な8ページ。

恋する★ぽっちゃり きよたとも

 第7回ひらり、GL大賞期待賞受賞作品。こんだけよく描けてて期待賞か〜。百合姫コミック大賞もだけど新人賞は採点厳しいとこが多い印象。タイトル通り太めの子が開眼するお話です。

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 今号も『ひらり、』は『ひらり、』らしくて良かった……。vol.11と同時に四ツ原フリコの『ライカ、パブロフ、ポチハチ公』と橋本みつるの『さらば友よ』も出てます。どっちも描き下ろしありました。画力が大幅にグレードアップした四ツ原フリコは『ひらり、』以前の作品の描き直し収録も。

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