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『know』野崎まど

know
野崎まど
ハヤカワJA文庫
2013.7.24

 良かった。
 分類するならば情報化社会SF、あるいはサイバーパンク、かな。

 人々が電子葉なる脳の電子的脳補助器官を装備するようになり、電子葉普及後の世代が青年期を迎えつつ、年長世代は電子葉がなかった時代をまだ記憶に留めている時代。エリート情報官僚・御野・連レルは情報格差社会に問題を覚えつつも、時代の流れには逆らえずに節を折り、情報処理技術の天才でありながら投げやりな日々を過ごしていた。そんな折り、彼が師と仰ぐ電子葉の発明者であり謎の失踪を遂げた道終・常イチの捜索以来が連レルの元に舞い込み——と始まる話。
 スターリング、士郎正宗の系譜を受けたサイバーパンク、ではあるのですがプログラマーの皮膚感覚的なデテールが投入され、同時にライトノベル的側面をも備えていて現代日本で紡がれたお話なのだ、という実感がありました。入り組んでいながら洗練されたプロットは物語らしさが濃く、電子戦物としても質感があり、新しい世代を代表するSFを実感しました。『マルドゥック・スクランブル』シリーズで冲方丁を知った時のような「おおっ」という感触。良い作者を知った、とデビュー作の『[映]アムリタ』を読んでみることにしたのでした。たぶん、そちらも近いうちに感想が書けると思います。

 ネタバレのない範囲で書くならば「輪を描いて回る炎の剣」のイメージが非常に格好良くて痺れたッ!と感じ、その時点で立てたオチ予想が見事に外れてやられたッ!と二倍おいしく楽しめたのでした。

 脳科学のデテールというか意識観や知性観がもう少しラディカルな方が現代の脳デバイス物としてはしっくり来たんじゃないかな、などとも思いはしたのですが、物語としての面白さの前には些細なことでした。
 和製SF好きな方はぜひ。

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