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『宇宙はなぜこのような宇宙なのか』青木薫

宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論
青木薫
講談社現代新書
2013.7.18

 タイトルの通り、私たちのいるこの宇宙はなぜ物理学が明らかにしたような法則を持っているのだろうか、というテーマで科学史を追いかけた本です。メソポタミアの天文学から始まり、様々な宇宙観の変遷を追いかけ、20世紀の劇的な科学の進歩をたどり、最後に「人間原理」によって転換を迎えつつあるパラダイムを紹介します。

 2013年科学解説本1位には断然これを推します。
 まず第一に読んでいて楽しい。天文を中心とした古代の話から近現代の原子論・量子論までを紹介していくのですが、科学史の要所の押さえ方が素晴らしく、天文や原子のイメージの変化に実感が持てるのです。太陽系モデルの確立までの道のり。宇宙像。アインシュタイン。そして人間原理。
 人間原理というと「この宇宙はなぜヒトに都合良くできているのだろう」的な思考から神様的な存在に繋がりそうな気がしてしまいます。この本の中でも人間原理のうさんくさくなりそうな解釈をまずは紹介するのですが、その先に量子力学の多世界解釈的な、でも多世界解釈とはちょっと違う「無数の宇宙」を立ち上げてきます。紹介のプロセスが非常にわかりやすく、美しいのです。シビレル科学解説書というのは滅多に出会えないのですが、この本にはそれがあります。物理法則の中のコイシデンス(偶然の一致)の抽出を踏まえて人間原理の一般的なイメージに繋げ、“弱い”と“強い”二種類の人間原理をじわじわと必然の側に繰り込んでみせる手腕。素晴らしい!

 この本で紹介される人間原理のツボは先に出したエヴァレットの多世界解釈と超ひも理論の示す多の宇宙法則を持つ多宇宙の違いにあります。エヴァレットの多世界解釈はSFでよくあるもので、量子の波動関数が収束するごとに平行宇宙が増えていきます、という話なのですが、超ひも理論は10500という超多様な物理法則の支配する宇宙のバリエーションを示す、という話です。我々の宇宙の物理定数とは違う物理定数を持つ宇宙がいっぱいありえるよ、と。このあたりの違い、読まれるときに意識すると面白さがぐぐっとアップするはず。

 数式も四則演算を示すものが一回出てくる程度で難しい本ではないですが、物理の香りの濃い話がどばーっと連なります。相対論の効果や量子論の不思議を面白おかしく紹介するタイプの雑学ネタではありません。科学のロジックそのものの面白さがぎゅう詰めになっている本。

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