第十七回文学フリマ・書籍感想
第十七回文学フリマで購入した同人誌の感想です。
「マチ」黒い紅茶
百合ものが無料配布されているということで様子を見に行ったら並んでいた本たちも印象が良かったので新刊の「近づくなお姫さまがとおる」も買ってみました。こちらは非百合。お目当ての百合もの「マチ」はちょっとトゲのある、でもありそうなマチコとかなみの関係が好印象でした。
「夜道の星」雨降波近
短編集。「ヒカルセカイ」で知った作者さんで百合二本、たぶん百合だけど特殊ネタだったりシュールだったりするのが一本ずつ、星座神話風、童話風であったり私小説風であったりするものもありました。文章の、お話の感触が「ヒカルセカイ」の作者らしさたっぷりで好感触。猟奇的な話やスカトロジーネタもあり、シバリのない同人ならではの側面もあるので苦手な方は要注意ですが、「ヒカルセカイ」が気に入った人は読んで損はない気がします。
【宣伝】 文学フリマにて頒布しました短篇集『夜道の星』のPDF、TXT、そして表紙画像データのDL販売を開始しました! http://t.co/CHcSeNfY9B 当日お越し頂けなかった方も、是非お手にとってお読み下さいませ。
— 雨降波近 (@templymphatica) November 5, 2013
とのことで電子書籍販売もされているようです。
「百合嫁の出会い」藤間紫苑
シリーズの回想話ということで同性カップルの相方との出会いを割と淡々と回顧したもの。これはリアルタイム視点で綴ると心にキツそうで回想でワンクッションあるのが正解と思いました。淡々とした中に重く苦しい気配もあって。
「星屑ノート」朝来みゆか
聖クララ女学園を舞台にした掌編の連作。三話目の「ページの隅に夢とか理想を」が一番好みの感触でした。
「pinkie」ノップマット
サークル名がノップマット、作者が玉木サナさんでいらっしゃる模様。桜吹雪の光景に小学生の頃の約束を回顧するお話で、どきりとするような尖った要素が一瞬顔を覗かせるあたりが心に刺さりました。平綴じのコンパクトな本ですが表紙も印象的。
「仮想空間で逢いましょう」ソウブンドウ
神尾アルミ「夢の中ならあいつは泣いた」。転落し脳死状態になった生徒がひとり。関わりのある者が数名。仮想空間で行われる犯人探し。「おや?」と混乱が仕組まれ「ああ!」と手を打ち、ドラマの展開に「ああ……」と息を吐く。
若井芽衣「Shell-tar」。貝と海のイメージに繋ぎ合わせられる監禁の描写。海のイメージと重なっていくストーリーは幻想に寄り添いひとつになって。静かな張り詰めた文章。
空木春宵「The Indescipline Engine」。タイトルで思い浮かぶのが円城塔「Self-Reference ENGINE」。読み始めてみるとすぐに「Self〜」的な要素が目に入り、伊藤計劃&円城塔「屍者の帝国」への返歌要素の濃さを感じるコラージュ的な作品であることに気づきます。「繭の見る夢」やソウブンドウの前号「欠落少女コレクション」収録「感応グラン=ギニョル」での空木春宵のイメージとは少し違うものが読めるはず。
武田若千「箱庭の外 Nの肖像」。写真を撮る、という要素をキーに繋いだお話。シーン毎に独立しているようで進展とともに絞られてくるお話は最後に向かって急激にピントが合うかのような感触。鮮やか。
七木香枝「鏡の庭でおやすみ」。半身というイメージをお題の仮想空間にしっとりと融合させたお話。少年が、少年が、美しいのですよ。いえ、美少年が活躍するというのではなく、ありようが。対する少女が秘めるものにもまた痺れるのです。
今号はタイトルの「仮想空間」の文字にダイレクトに沿ったお話が5話中4話。今回もどのお話もクォリティ高かった……、と満足の溜息。
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