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『終電にはかえします』雨隠ギド

終電にはかえします
雨隠ギド
新書館
2013.11.30

 とても楽しみにしていた雨隠ギドの単行本。『ひらり、』vol.1掲載の「一瞬のアステリズム」を読んでこの人は百合もの向いてる!とびびっと来て、単行本を心待ちにしていました。まとまって読んでみるとやはりとても好みなのです。描きおろしは「少女プラネタリウム」からのミニエピソード。

 お気に入りは、う〜ん、「ひらがな線、あいう駅より」と表題作「終電にはかえします」の連作のあさき先輩がふわふわしつつも妙に現実的で打算的なキャラであるあたりも大好きだし、「少女プラネタリウム」のスズキ×タカハシのそれぞれ異なる距離感がうまくバランスしているのも素敵だし、「一瞬のアステリズム」の三人の関係もなんでこんな空気が作れるのだろうと溜め息が出るし、「永遠に少女」のふたつにかけられた永遠もそれぞれ痺れるし、「大人の階段の下」の姉妹とおっとりしつつしっかりなヒロインとの関係も心地よいしで選べないかな。この作者のBL、男女もののお仕事とは少し違う雰囲気があるように思います。試し読みもあったので好みに合うかどうか確認してみられてはいかがでしょう。

 この『終電にはかえします』がとても良かったので電子書籍版の『甘々と稲妻(1)』も読んでみました。こちらは高校教師と女子高生の……食育もの、かな? 父子家庭のおとうさんをしている先生と小料理屋の娘さんがどたばたと日々のごはんを作っていく話、と要約してみても漫画のテイストはぜんぜん伝わる気がしない。まだ一巻で、食い気と家庭問題と異性としてのほのかな緊張が助走を始めている感じ。ここからドロドロしたりするのか、おおらかに(食べ物的に)おいしい話になるのかは予想がつきません。『終電〜』とはおおいに印象が違いましたがこちらも面白かった。

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『ひらり、』vol.12

ひらり、 vol.12
新書館
2013.11.30

 『ひらり、』の表紙は毎回作家さんのカラーが強く出ている印象。今回も「わ〜」となりました。磯谷友紀の絵柄好みだ〜。扉絵は藤生の「under the rose」から。風夏さんのミゼットⅡのぼこぼこおんぼろ加減に笑ってしまいました。

少女の魔笛 磯谷友紀

 ぉぉぅ。高校生(たぶん)の子供のいるお母さんと女子高生のお話。少女同士ではない年代をテーマにした数少ない百合漫画の中でも現実感とファンタジーのバランスの良いところを描いてきてました。『ひらり、』は『Wings』と共通要素の多いアンソロでファンタジー感の絶妙さも受け継いでいる作品が多い気がします。

恋に灰まみれ 四ツ原フリコ

 タイトル通りシンデレラテーマ。腹違いの妹の出現が何かと面白くない主人公と素直な妹のお話。Twitterでこういうお話はどうだろう、心配、的なことを作者が呟いていましたがOKです。GJです。すげー良かったです。『ひらり、』に来てからの四ツ原フリコ、絵もお話も二周りほど良くなったと思うのです。

ほんとのかのじょ 今村陽子

 今回も二話構成で後半のお話が珍しくもえ視点。このシリーズはなんというかその、理想のソフトSM入門本になっている気が。前号のお話でのゆーかのプレゼントでお話というか関係が一歩踏み込んできて、おもしろおかしいMの生態ではなく心情をぐっと描いてバランスする関係になってきたみたい。『ひらり、』で知ることができて良かったと思える漫画家さんの一人。

あじさいと加瀬さん 高島ひろみ

 陸上の大会に出場する加瀬さんと応援の山田。いつもの高校生男子のような加瀬さんの下心とドジっ子の山田が見られるのかと思ったら、ちょっと違ってストレートに甘く、でもちょっと苦い予感も。

聖純少女パラダイム 森島明子

 今回は美麗上級生ペアのお話。葵とリリのユキ&麗お宅訪問〜といった回で上級生ペア二人、というよりは主にユキ視点で綴られます。え、この先どうなっちゃうの?という部分もありますがそれも含めて楽しみに。

under one roof / parlor 藤生

 今回は海帆はお休みの風夏とその友人たちの回。ストーリーも小休止な感じかなと思ったらちゃんと進んでいたのでした。エッセイのparlorの方は靴下回……。なんだろうこの誰得感は。

つばくま! 中村カンコ

 今号の『ひらり、』で絵面的にいちばんインパクトの強かったのがこの漫画の一シーン。こ、こういうのもありなのか……と新鮮でした。金髪美少女と脳筋タフガールのコメディ。作者ブログによると数回の連作の予定らしく、導入編的な初回でした。

逃げたい親友 くみちょう

 前号でとても印象の良かったお話「OUT OF THE BLUE!」の続編エピソード。生真面目・淡々メガネのキャラの押し出しっぷりが意外と繊細な硬派ヤンキーキャラの相方とうまくバランスしていて今回もぐっじょぶ!な読後感。作中の舞台は関西なのかな。関東人的には生のイントネーションで聞きたい気がする。すごく。

悪魔女と引きこもり2 佐藤沙緒理

 vol.10掲載作の続編。今号の『ひらり、』は「おや?」と思う路線変更というか方針の拡大があったのかなという印象に。エロス濃いめの絵柄の作者でしたが今回は色っぽささらに大増量。関係ないですが作中に登場するカメラが私の持っているカメラと同じ機種でした。わーい。ほんと関係ないですね。

まっしろなうそ 犬丸

 witch meets knightシリーズ。静かな空気で描かれる演劇部の日常は『ひらり、』には欠かせないものとなってます。今回はちょっと大きめに動きがありつつも、でも、演劇部のいつもは続いていくのです。きっと単行本になって、まとめて読めるとぐっと印象の変わるシリーズ。

卒業の日 芥文絵

 小学校の頃の仲の良かった友達を振り返りたくなる小さな、素朴なお話。たったこんだけ、シンプルな情景、としか言えない14ページだけれど恋しくなるような時間が濃く描かれます。

箱庭コスモス 桑田乃梨子

 まさかの最終回。エンドレスに続きそうなふしぎ研究会の日々に終わりがくるとはびっくりでした。春には単行本も予定されているようです。

少女アソート3 シュトーレン 藤たまき

 藤たまきはずるい。だって、お話が始まる前の扉絵見ただけで毎回「いいな」って思えてしまうんだもん。今回はクリスマスに日本でもおなじみになりつつあるシュトーレンを素材に。脱線しますが、シュトーレン、買ってきてもあっという間になくなっちゃいます。一月かけて食べるとか無理。食べ始めるとどんどんおかわりしたくなる……。

もちに願いを 雁須磨子

 なんじゃこのダジャレタイトルは〜と思ったら、ちゃんとお餅出てきました。なんでこのお餅、と思って登場したお餅の名前を検索してみたら納得。グルメものじゃなくてあくまでも小道具としての登場なのに、夜中に読んだらお腹が空きました。

ピンクラッシュ TONO

 さりげなく仕込まれているネタに「ぶはっ」と噴き出したり。今回はめずらしく女の子と絡んでも嬉しくなさそうなサナが見られたのでした。

アンタレスの少年 吉田丸悠

 こういう時期は確かにあるだろう、とじんわりときつつもオチには釈然としなくて、ではなぜ釈然としなかったのかというと男の子と同じように振る舞っていた女の子に突きつけられる女性性というのがとても残酷なことで、けれど、けして珍しくはないことでもあって、ジェンダーというものとも絡んで受け止め方の難しい話に戸惑った気がします。この戸惑いは共有してほしいなぁ、とお話からは離れてしまいつつも思ったのでした。

夢解き蘇芳 大沢あまね

 webウィングスの方でも掲載のあるシリーズなので時系列の遡りのあるエピソードは「もしかしてwebで読みのがしていた話があるかも」と戸惑ったり。今回は夢解きをするようになった蘇芳の第0話に相当する話……かな。ああ、これ単行本になったのまとめて読みたい。

思い出をふたりで カザマアヤミ

 八方美人の友人に対しての独占欲がテーマのお話。前号は「銀河鉄道の夜」が素材でしたが今回は「枕草子」。文学テーマというと難しげですが、そんなことはまったくない「本が好き」というきっかけの話です。

ハートに春風 きよたとも

 吉田丸悠、芥文絵とともにひらり、GLコミック大賞からの出身者である作者。ぎこちなさもあるけれど独特の話運びのリズムとテンションもあり成長も著しい気がします。後輩を可愛がり過ぎて奇行に走り気味な主人公をちょっぴりドタバタ気味に描いてます。

★ ★ ★

 今号ではひらり、GLコミック大賞の結果発表もありましたが「もう一歩!」までで入選はなし。『ひらり、』掲載作からの同日発売の単行本、雨隠ギド『終電にはかえします』吉田丸悠『きれいなあのこ』はどちらもあらためてまとめて読んで楽しめたのでした。

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