« 2014年2月 | トップページ | 2014年4月 »

『コキュートス』コダマナオコ

コキュートス
コダマナオコ
一迅社コミックス百合姫コミックス
2014.3.18

 コダマナオコのコミックス、百合姫コミックスとしては速いペースで出ていますね。『残光ノイズ』が2013年7月、『不自由セカイ』が2012年11月。
 2013年9月号〜2014年3月号にかけての『コミック百合姫』に掲載された表題作「コキュートス」前後編、「モラトリアム」前後編&描き下ろし後日談。表紙カバー下にはあとがき漫画があります。

 今回収録の「モラトリアム」はたいへん好みの話で、同性愛といっても必ずしもフィジカルな欲求を持つわけではなくプラトニックな関係を望むセクシャリティの持ち主もいるのだというテーマが描かれます。同性に惹かれはするものの肉欲の対象にはならないという主人公。そこに生じる欲求、葛藤へのアプローチ。「こういうの読みたかった!」というところストライク。学生〜社会人への移行期が舞台になっていてタイトルである「モラトリアム」=猶予期間を脱しつつある年代のお話でありつつもヒロイン二人はモラトリアム的な関係のまっただなかにあるというあたりもステキです。登場人物たちが中高生であればセクシャリティの揺らぎ・悩みテーマに傾いていたかもしれませんがそれぞれある程度安定した大人。安定した関係でありつつも、ふと揺らぐ。水面下での綱引き。思惑。

 表題作の「コキュートス」は孤立しがちな性格のヒロインとヒロインに惹かれつつも孤立の怖い主人公のお話。舞台は高校でこのお話の出色はなんといってもヒロイン・クロネコさん。孤立を恐れず、というよりも協調性自体が欠け気味なキャラクターが魅力なのです。

 ばーんと(インパクトある見せ方で)示される裸体も読者サービスという感じよりもキャラ視点での「わわっ!」というのにシンクロしていつつかつ魅力的で、絵柄自体もカチッと瞬間をとらえる感じのスチル写真的なセンスが漂っている感じが好みです。

|

『ひとよひとよに乙女ごろ』今村陽子

ひとよひとよに乙女ごろ
今村陽子
少年画報社ヤングキングコミックス
2014.3.17

 百合アンソロジー『ひらり、』のSM百合「ほんとのかのじょ」で知って以来、追いかけて読んでいる今村陽子の新刊。近親、主従、SM、同性愛とセクシャリティや人間関係のややこしい話を得意とする今村陽子ですが今回はTS、性転換ものです。男の子が女の子になっちゃった!という話で大正ロマン的な世界観と軍人という要素が注ぎ込まれつつ、少女漫画的なタッチでコミカルに。掲載誌が『チェンジH』であるせいか男性のメンタリティで女性の体、という部分を際どい描写で見せる場面が多めです。濡れ場ではないですが扇情的な描かれ方や裸体が多いのでそういった要素が苦手な方は避けた方が無難かも。
 私の眼には女体がきれいに堂々と描かれているのが魅力で、扇情的ではあっても男性向け成年コミックのような極端さでもない匙加減がツボを刺激してくれます。少年画報社のサイトには試し読みコーナーもあるのですが女体描写の魅力がばーんと示される直前までしか見られないのが惜しいところ。
 TSコミック誌で始められたシリーズで、このブログで多く紹介する百合漫画ではなく百合漫画好きさんへのおすすめというわけではないのですが、『ひらり、』に掲載された「ほんとのかのじょ」が好みであれば、たぶんこちらも好みに合うと思います。「ほんとのかのじょ」もセクシャリティやSM嗜好を含めて“揺らぎ”がテーマになっているのは共通だと思うので。

 巻末に記された編集者の名前に見覚えがあって、手元の漫画をいくつか覗いてみたところお気に入りの『僕らはみんな河合荘』と同じ編集者でした。なんとなく嬉しい。

|

『citrus 2』サブロウタ

citrus 2
サブロウタ
一迅社コミックス百合姫コミックス
2014.3.18

 「citrus」待望の第2巻。
 2巻は桃木野さん大活躍です。親の再婚によってお嬢様学校に編入することになった純情ギャル主人公、黒髪ロングのクール系清楚風美少女が義妹となったのだけどその義妹は風紀の厳しいはずの学校で男性教諭とちゅーしてたりで「あれ? これ百合漫画なのに?」とところから始まった第1巻。義妹・芽衣はキリッとした美少女なのになぜか総ウケで主人公・柚子に対してだけ時折攻めに転じては動揺させてきます。なにかにつけばたこんばたこん押し倒し、押し倒され、キスシーンが展開されますが『桜trick』のちゅーだらけとはまた違った感じで、刺激的なシーンのあざとさを見せつけつつ熱血で直情で純情でもある楽しくお話が展開するシリーズ。第2巻では柚子と桃木野さんの小競り合いを中心に、芽衣の父親絡みのエピソードが展開されます。もちろん1巻同様、めまぐるしく話が展開します。刺激的なキスシーンにドキワクの種は尽きないことを見せつけてくれます。

 収録は『百合姫』2014年3月号掲載分まで。2014年5月号(3/18発売)から単行本2巻の続きが読めます。描き下ろしは9ページで2巻本編中イベントの回収ミニエピソードでした。

2巻の感想を一言にまとめるなら「あんたらもう結婚しちゃえ」でした。出たばかりですが3巻が待ち遠しい。

|

『コミック百合姫』2014年5月号

コミック百合姫 2014年5月号
一迅社
2014.3.18

表紙

 可愛い。構図や練乳を持たせていたりが微妙にあざとい気もしますが、有無を言わさずに視線を引っ張られました。2014年の武梨えり表紙シリーズは毎号違うペアで来るのかな。

巻頭特集

 この四月からショート・アニメが始まる「犬神さんと猫山さん」の特集で声優さんとキャラデザ紹介。PVも公式サイトにて公開されていました。原作がアクの強めの手書き漫画らしさの濃い絵柄なのですっきりしたアニメの絵とのギャップもありましたが、動いているのを見たら「良さそう!」な感じが。「ゆるゆり」のOVAの告知も。

きみの恋とわたしの恋(前編) べにしゃけ

 この作者の漫画は初めて。少女漫画度高めな感じでここ最近『百合姫』に登場している新人さんたちとも空気が近い気が。かなり好み。好感度高いです。カジュアル感のある王道の学園もの。前後編の前編は出会い編でした。少女の心のまっすぐでピュアな感じ、それが普通のことであるという感性がぐっと来ます。

犬神さんと猫山さん くずしろ

 くずしろのお話は固定カップリングを描くのではなく、「ここが好き」の矢印が一対多に向けられ、それが複数キャラに設定されるものでややこしいというタイプであるようです。百合版の諸星あたる的な? ありとあらゆるところで(主に犬神さんからではありますが)矢印が発生するので、途中の一話だけを読んでも(多分に誤解はするかもしれませんが)面白さがわかるはず。そしてあらためて最初から読んだときにややこしいことになっているのに気づいてにやにやしてしまうという仕組になっている気が。

ナチュリーズ あおと響

 百合姫コミック大賞の翡翠賞受賞者の手によるお話。「お?」と何か違うぞ、と伝えてくる絵柄が目に飛び込んできます。パーツでいえばまつげ周辺の描き方が目を引くのですが、絵柄全体で絵本に近い印象です。「不思議の国のアリス」「白雪姫」「赤ずきん」をモチーフとしていてその印象をさらに強化します。イマジナリーフレンドのような大人たちには認識できないものと戯れ幻想の世界に生きる少女たち。端から見ればきっとそれは“イタい”ことなのでしょうが当人たちは真剣で。インパクトある作風で初登場。続き物のようです。次回が楽しみ。

ラブデス くずしろ

 あ、あれ? 「犬神さんと猫山さん」の作者だけどストーリー漫画で初めて見るキャラだ……。アニメ化で猛烈に忙しくなってそうなのに、さらに仕事を増やすとはなんてタフ。なんというか、こう、激しいデスよ。暴れてますよ。しかもなんかシリーズ連載って目次にあって“To be continued.”で終わってますよ。

先生卒業。(前編) 大沢やよい

 学校の先生と生徒との恋。担当教科の教師が気に入っただけで苦手科目であっても頑張れてしまうのが女の子。そんな頑張る子の姿を中心に描いた前編。割とお話すっきりまとまりそうなところで“To be continued.”。

あやめ14 天野しゅにんた

 電車の中で読んではいけません。
 噴き出します。

恋に変タイはつきものです まに

 ぉぉぅ。大福餅のようなほっぺだ……。

Vespa 大北紘子

 娼館や性暴力、あるいは女性としての役割の社会による強制。百合漫画では描きにくい、あるいは悲劇として使われるがちなこれらの要素は大北紘子においてはよりえぐい形で現れるのです。今回も強烈な設定が示され読んでいて思わず「うわ」と呟くことに。敵役らしく登場した女王も強烈。続きがとても気になります。

キサとサキとあかいいと 源久也

 甘い。甘々です。うはー。

喋喋喃喃 竹宮ジン

 今回からの新シリーズは高校に進学してできた四人組のお話。群像劇っぽいアプローチ、なのかな。今回は志乃、奈緒、千尋、あおいの四人の中のあおいに主に焦点が当たってます。視点と時間経過にちょっぴり戸惑ったかな。あおいはいつから千尋に気があったのだろう、と。

ゆるゆり なもり

一挙五話60ページ掲載。「ゆりゆり」的な雰囲気の話もまた読みたいな。

citrus サブロウタ

 前回の最後で登場したキャラがいかにも「引っ掻き回すぞ」オーラを出していたのですが、今回見事に期待を裏切らない引っ掻き回しっぷりを見せてくれました。芽衣総受っぽかったこれまでとはちょっと違う展開に。これはワクワクするうぅぅ。単行本2巻も同日発売でした。

サヨナラの先の季節は 仲原椿

 百合姫コミック大賞白金プラチナ賞(最上位賞)をなかなか出さない賞なのですがそれ以外の受賞作品でも掲載されたものを見ると絵もお話もしっかりしていて「ぉ!?」と目を引く要素が必ずある気がします。このお話はプレーンな、素直な感じの青春感が気持ち良くて好印象。

ボウソウガールズテキモウソウレンアイテキステキプロジェクト 河合朗

 今回は私服回ということもあるのかもしれませんが描き込みが細かくなってきた気がします。そしてやはり紅子の中でとても大きな存在の葵を、紫乃×紅子デートでも感じたのでした。

きものなでしこ 八色

 えぇぇ。まさかの最終回。予告あったかなと3月号とニコニコ百合姫をチェックしてみましたが見当たらず。読み終えて、新入生が入ってきて新キャラ追加なのかな、と思ったのですが作者のツイートだったかブログだったかで最終回であると知って誌面を見直したら確かに扉ページに「店じまい」と。うう。これがないと『百合姫』の和服度がだだ下がりですよ。カラーページもっと欲しかったな。コミックスを楽しみにしよう……。ともあれ、楽しかったです。最初の、和紙っぽい紙のカラーページが今も印象に強く残ってます。

Dear... 慎結

 クールで淡々と振る舞ってしまう主人公と芸能人の恋人とのお話。24ページありますがぎゅっとコンパクトな読後感。感情の動きが細やかに感じられて素敵でした。

himecafe

 himecafeは黒霧操ゲスト。なんというか、こう、独特の黒霧操感が問答にも現れているようで興味深かった。ゲストの方の違いは毎回濃く反映される気がします。楽しみなコーナー。

Yurinote 峰なゆか

 『百合姫』の中でも超異色のコラム。今回はすんごく続きが気になるとこで「つづく」になっているのですがきっとこの続きは素知らぬ顔でスルーされて次回は別の話が何事もなかったように載るに違いないと予想したのでした。わっふるわっふる。

ガチ百合道 ねこ太い

 SKEやAKBのアイドル関連はよくわからないのですがすごく好きというのが強烈に伝わってきます。相方とのボケ&ツッコミも毎回楽しい。

月と世界とエトワール 高上優里子

 作中では少し季節のずれた夏休みで番外編的な夏祭り&海辺エピソードでも来るのかな、本筋はお休みかな、などと思いつつ読んでいたのですが、がっちり話進んでます。面白かった。

ひなたの罠 河合朗

 今号はくずしろも河合朗も二作ずつ載せていて頑張りモードの作家さん特集回に。BGMRSPもですが絵柄が繊細さを増してきていて好感度UP。お話の展開のさせ方も何か掴んだのではないかなという感触が。イマドキの子のざっくばらんなところと柔らかな空気とが共存していて、これまでのうんとウェットなメランコリックとギャグに加えて今回の情緒描写にと幅の広いところを見せてくれた気がします。GJ。

ロケット☆ガール 田仲みのる

 最終回予告があってどんな解散劇に繋がっていくか楽しみにしていたロケガ。こうきたか!で予想を裏切ってくれましたよ。なめこちゃんがうじうじモードから抜けられないまま時間が飛んで破局が示されたときはどうなることかと思ったのも懐かしく。雑誌だと二ヶ月置き&時々休載でストーリーのハラハラと掲載継続されるのかというハラハラが重なりましたがまとめて読めるのであればオススメ度急上昇。単行本が楽しみ。

雨宿りには白猫を 片倉アコ

 これはとても好みのタイプの話。『百合姫』を始めとする百合漫画が好きになったのは、少女小説の流れを汲む純正少女漫画調が色濃く残るジャンルだから、というのがあります。どうということのない悩める少女同士の会話が淡々と進むだけのお話ではあるのですが、微かに芝居染みていながらも真剣で選び抜かれた言葉がやりとりされるシーンに青春を感じました。クラスメイトが名付けたのだろう「ブランシェ」の件がちょっとわかりづらかったりするのをはじめ新人らしい荒削りな部分はありますが、描こうとした空気・演出・雰囲気……うーん適切な言葉が見つかりませんがそれは明確で、とても好ましく感じられました。

天使がいた日 井村瑛

 これは読んでいてつらい。読む人によって評価がまっ二つになりそうな感じです。読んでいてつらいけど、でも、そのつらいこと悲しいことを描きたいというのもよく伝わってくるのです。

家具の品格 ねこ太

 井村瑛のずっしり重い話のすぐ後に載っていたこともありギャップにおののきます。SMというか主従というかそっち系のギャグタッチ。腹筋直撃です。今村陽子、ねこ太といった顔ぶれで主従系百合アンソロジー「めいれい!」なんてのも良いかも、と思ったのでした。

恋愛アルコール指数 ちさこ

 二股男の彼女同士が鉢合わせ、的なシチュエーションから始まるちょっとコミカルな感じのお話。正統派少女漫画の絵柄で、社会人もので「な、なんか変な状況」というところ+二股男で百合漫画的にうまく展開するのだろうかという疑問もコミカルに解消します。

百合男子 倉田嘘

 最近ちょっと悪ノリ煽りがなくて寂しい「百合男子」。ここ数回はじわじわと百合男子サミット的なイベントに向かって網が絞られていく展開が続いていて、今回は籠目がその網の中に。バンドマン・籠目のスキルはかなり高そうで、ふと思い浮かんだ(たぶん読者の多くが思い浮かべた)絵があるのですが倉田嘘ならカッコイイ絵にしてくれそうな予感がします。

★ ★ ★

 今号を読んでいる途中で「伊藤計劃の虐殺器官とハーモニーが映画化!?」という報が飛び交いました。Twitterでは百合クラスタを中心に三年ほど前の百合姫でのコミカライズ予定について触れられたツイートがあちこちに。これを機会にコミカライズ計画が復活するといいな、などと思ったのでした。

|

『百合のリアル』牧村朝子

百合のリアル
牧村朝子
星海社
2013.11.26

 タイトルを見て思いました。この本はきっと百合漫画を始めとするフィクションと現実の女性同性愛との関わりを論じた本に違いない、と。タレントのそういう本ならすぐに読まなくてもいいかな、と後回しにしていました。

 ところが数日前、エリカ・フリードマンというアメリカにおける日本製百合漫画・アニメの開拓者のブログに『百合のリアル』のレビューが掲載され、勘違いに気づきました。急遽『百合のリアル』を読んでみることに。著者の牧村朝子——まきむぅはレズビアンであることを公言しているタレントで本のカバー帯の写真の通り、とてもきれいな方。文章は読みやすく、読者に語りかけるような感じの一人称パートと複数のキャラクター対話パートを織り交ぜて進展します。内容は、タレントの書いた興味本位の読者向けのレズビアン告白本というようなものではなく、セクシュアリティとジェンダーについて丁寧にガイドするもの。著者がレズビアンということで話はレズビアン寄りの話題が多いですが、男性同性愛も含めた多様な性のありかたについて説明していて、中学生くらいで性自認や性指向の揺らぎを感じて一人で悩んでしまっている子が手に取るととても良いガイドになるのではないかと思える本でした。著者の一人称パートでは主に著者自身の性に対する考え方、見方の変遷を紹介し、キャラ対話パートではキャラ同士の議論によって性指向・性嗜好・性自認といったものに対する理解を深めていくことになります。
 著者の肩書きはタレントであると同時にレズビアンライフサポーター。この本は後者の立場から生まれたものです。内容は堅苦しくはなく、けれど(すでに述べたように)「レズビアンタレントが性を赤裸々に語る」的な扇情的な娯楽本でもありません。同性愛のセックスについて具体的な説明もありはしますが、基本的に自己の性別や性指向に悩んでいる少年少女のために書かれた切実で誠実で堅実な内容です。読者とは、学校の図書館や保健室にこの本が置かれていて「私は性的にヘンなのかも」と悩んでいる子が手に取る、という出会い方をすれば理想的なのに、と思いました。でもきっと、星海社の新書じゃ図書館や保健室に置く本を決める立場の人の目に届かない。岩波ジュニア新書あたりならばあるいは、なんて思いました。まきむぅにはぜひ少年少女たちにリーチできるレーベルから、性に惑う少年少女たちに直接届くメッセージを本にして欲しいと思ったのでした。これは「ふ〜ん」と読み飛ばす教養本でも感動を共有するための本でもなく、より切実な思春期の悩みのための“リアル”なガイド本であると思います。
 著者自身があとがきで触れていたことにはちょっと反する感想になってしまったかな。

|

« 2014年2月 | トップページ | 2014年4月 »