『百合のリアル』牧村朝子
百合のリアル
牧村朝子
星海社
2013.11.26
タイトルを見て思いました。この本はきっと百合漫画を始めとするフィクションと現実の女性同性愛との関わりを論じた本に違いない、と。タレントのそういう本ならすぐに読まなくてもいいかな、と後回しにしていました。
ところが数日前、エリカ・フリードマンというアメリカにおける日本製百合漫画・アニメの開拓者のブログに『百合のリアル』のレビューが掲載され、勘違いに気づきました。急遽『百合のリアル』を読んでみることに。著者の牧村朝子——まきむぅはレズビアンであることを公言しているタレントで本のカバー帯の写真の通り、とてもきれいな方。文章は読みやすく、読者に語りかけるような感じの一人称パートと複数のキャラクター対話パートを織り交ぜて進展します。内容は、タレントの書いた興味本位の読者向けのレズビアン告白本というようなものではなく、セクシュアリティとジェンダーについて丁寧にガイドするもの。著者がレズビアンということで話はレズビアン寄りの話題が多いですが、男性同性愛も含めた多様な性のありかたについて説明していて、中学生くらいで性自認や性指向の揺らぎを感じて一人で悩んでしまっている子が手に取るととても良いガイドになるのではないかと思える本でした。著者の一人称パートでは主に著者自身の性に対する考え方、見方の変遷を紹介し、キャラ対話パートではキャラ同士の議論によって性指向・性嗜好・性自認といったものに対する理解を深めていくことになります。
著者の肩書きはタレントであると同時にレズビアンライフサポーター。この本は後者の立場から生まれたものです。内容は堅苦しくはなく、けれど(すでに述べたように)「レズビアンタレントが性を赤裸々に語る」的な扇情的な娯楽本でもありません。同性愛のセックスについて具体的な説明もありはしますが、基本的に自己の性別や性指向に悩んでいる少年少女のために書かれた切実で誠実で堅実な内容です。読者とは、学校の図書館や保健室にこの本が置かれていて「私は性的にヘンなのかも」と悩んでいる子が手に取る、という出会い方をすれば理想的なのに、と思いました。でもきっと、星海社の新書じゃ図書館や保健室に置く本を決める立場の人の目に届かない。岩波ジュニア新書あたりならばあるいは、なんて思いました。まきむぅにはぜひ少年少女たちにリーチできるレーベルから、性に惑う少年少女たちに直接届くメッセージを本にして欲しいと思ったのでした。これは「ふ〜ん」と読み飛ばす教養本でも感動を共有するための本でもなく、より切実な思春期の悩みのための“リアル”なガイド本であると思います。
著者自身があとがきで触れていたことにはちょっと反する感想になってしまったかな。
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