ひらり、 vol.13

新書館
2014.3.29
表紙
雨隠ギドの表紙は「終電にはかえします」のヒロイン二人から。旅先での光景でしょうか。通学の“あいう線”からどれくらい遠くまで辿り着いたのかな。
春のメヌエット 伊藤ハチ
聴覚障害を持つヒロインとのお話。障害が設定に織り込まれてはいますが極端に重い話ではなく、けれどもイメージのみで実際と乖離しているわけでもなさそうなバランスの取れた好感の持てる話になっています。聴覚障害者とピアノ大好き少女。おや、と思える組み合わせですがこれがうまく噛み合ってました。
太陽と加瀬さん。 高嶋ひろみ
作中の季節は夏。加瀬さんも真っ黒に日焼けして陸上のトレーニング。そして水着回だったりします。高嶋ひろみは少女漫画的な絵柄なのに少年漫画的なツボをきっちり押さえていて、男の子が女の子を意識するかのような視点を感じさせてくれます。もちろん百合漫画なので異性を見る眼、的な緊張も女子同士。下心度というかむっつり期待度は加瀬さんの方が高そうですが、山田もしっかり意識するようになっていて少し唐突気味な行動に結びついたり。シリーズ単行本第2巻も7月刊行予定だそう。
ほんとのかのじょ 今村陽子
今回はお泊まりイベント。もえハウスが舞台です。今回もひどい……いえ、素敵なオチが用意されていてぶはっと噴き出してしまいました。冒頭、もえが言い出した「人をだめにする布団」はたぶん無印良品の通称「人をダメにするソファ」的なものでしょうか。
まことごはん 縞野やえ
料理ものです。ごく普通の食材で、ごく普通の日常の、でも心を込めて作られる料理のお話。一読した感想は「なんて地味なんだ!」でした。すごく日常感。百合カップルでパートナーにごはんを作るというそれだけの話で、食事を用意する主人公の気持ちがものっそく丁寧にじっくりと描かれています。料理の描写は濃いですがグルメ漫画ではまったくなく、理想の作る側と食べる側のお話、かな。丁寧な日々の暮らしがとてもうらやましく思えたのでした。
アネモネ 大朋めがね
「ピュア百合」をテーマに始まったアンソロとあってこれまで性描写は控えめであった『ひらり、』ですが性描写の比重の大きな作品で来ました。『百合姫Wildrose』vol.7掲載の大朋めがね作品と同程度の描写、と書くとイメージしやすいでしょうか。
彼女の隣。 袴田めら
今号は袴田めらも意外な作風。主人公は冴えない女の子。これまでのめらのお話に登場したキラキラのヒロインも脇役として登場するのですが、見事に冴えない子らしく描かれます。でもたぶん、どこにでもいる普通の子、のはず。ところがその冴えない普通の子がふとしたことから目覚めてしまうのです。百合に、ではない——少なくとも少女同士の憧れや思慕といったものとは少しばかり違うものに目覚めたのは確かで、それはオタクとして悲しい共感のようなものが湧かないでもないですが、困惑を見つけてもしまうのです。
聖純少女パラダイム 森島明子
少女小説的なコテコテお嬢様校設定のシリーズ、今回は文芸部の碧と正美の二人に焦点が。碧はしばらく前の回でも登場しましたが今回は相方の正美とのエピソード。かつてつきあっていた二人も今は良い友人、のはずなのだけどという森島明子得意の関係。
お姫様のひみつ 森永みるく
恋人ごっこを演じているはずのこのシリーズ、期待に違わずちょっとずつ……いいえ、きっかけがあるたびにぐぐぐっと気持ちが近づいていく展開が素敵です。
染まる。あふれる。 橋本みつる
日常的な寄宿ものなのですがファンタジー感ある橋本みつるの連作。今回の話は『ひらり、』vol.1掲載の「星ちゃん」に登場の二人のその後。「星ちゃん」は単行本『さらば友よ』
に収録されてます。今回のお話を読んであらためて読み返してみると「あ……」という繋がりが見えてきてしっくりくるのです。
わたしの好きなあの子のこと 芥文絵
儚いような繊細なタッチが印象的な芥文絵。整然として見えるけれどもけっこうどろどろとした人の心を描いていて絵柄と内容の一致度はすごく高いような気がします。これはきっと続き来るよね? 読みたい。アンケにリクエストしておこうっと。
指先の乙女心 水上カオリ
久しぶりの水上カオリ。うわー。もう絵だけで好き。
がんばるひとを応援するひと。 平尾アウリ
いかにも少女漫画タッチの絵柄なのに可愛いのに……シュール。あからさまに変じゃないのに変。平尾ワールドは危険な不条理ワンダーランド。学校のチア部の話。たぶん。
つばくま! 中村カンコ
ギャグ成分多め、際どいフェチ気味要素入りでドタバタ展開するおしかけ家政婦さんとちびっ子ヒロイン。『つぼみ』に載ってそうな感じ、というのはヘンなたとえでしょうか。
under one roof/parlor 藤生
under one roofの方が前回あたりから盛り上がってきていて先が気になります。今回は特に海帆が「おっと!」という感じの意外な反応を見せてくれたりもして。parlorはM属性を見せることで愛あるS読者がさらに増えていくというスパイラルの見本でしょうか。
石コロ殺意 矢直ちなみ
『ひらり、』vol.7にも掲載のあった作者、再登場。瑞々しさと素朴さを感じさせる作風で鉱物大好きな地味〜な子と明るく積極的な子の話。まっすぐな友情の話で『ひらり、』ならではと思ったのでした。
ゆゆのごはん 佐藤沙緒理
ゾンビもの四コマです。佐藤沙緒理は芸風の幅が広いというか、毎回違うジャンル・テーマの話を描いてきているような気が。
あさってまでハワイ。 ユキムラ
vol.11の続編です。修学旅行に備えて水着を着てみせた前回、雰囲気に流れて友達の枠から一歩踏み出しかけた二人。実際に修学旅行に来てみるとちょっとぎこちなく。大人っぽい高校生たちの正統派百合恋愛もの。
お菓子の家 藤たまき
「少女アソート」シリーズの4回目。わがままなお嬢様とわがままをかなえるために奔走する女執事。今回お嬢様がコレクションに加えようと思い立ったのはバレリーナ。藤たまきは絵柄とファンタジックな雰囲気とがとても好みで、お話が始まる前の一ページ目から痺れます。
ピンク×ラッシュ TONO
サナがとってもちょろいことが判明した回でした。つーか、サナのステージいったいどんななんだろう。どんだけMなファンで構成されいるんだ感。
私たちのしらない2、3の事柄 犬丸
witch meets knightシリーズです。時系列が複雑でキャラの数も多いのでややこしさNo.1ですが「今回のこれあの子!」が繋がると俄然面白くなるシリーズ。キャラ相関図があるともっとわかりやすくなる気がします。かなり細かくキャラ同士の関連の糸が張られていて繰り返し読むとそのたびに「ああ!」という気づきがあるのです。単行本が出て、新聞か文芸誌の書評欄に載ったら面白いことになりそうな予感が。
作者ご本人のTweetでキャラ相関図が来ました!(2014.4.23)
★ ★ ★
大朋めがねの描いたベッドシーンに驚かされた号でした。『ひらり、』は発足時のテーマからすると転換を迎つつあるように思います。少年画報社の新創刊アンソロ『メバエ』
も「メっちゃ可愛い女の子たちが バんばんチュッチュする エろすも有りな、百合アンソロジーです。」ということでエロスを投入する百合漫画誌になるようですし『桜Trick』の好評もあるしでプラトニックよりも“動物化”は自然な流れなのかもしれません。でも、ちょっぴり不安……。
四月末にはひらり、別冊 部活アンソロジーの『ほうかご! 2』
が発売予定とあって楽しみ。また、『ひらり、』次号予告には玄鉄絢の名も挙がっていました。