『あの娘にキスと白百合を』(1)缶乃
あの娘にキスと白百合を1
缶乃
KADOKAWAメディアファクトリーMFコミックスアライブ
2014.5.23
とても面白かった。
事前情報をあまり集めておらず、Amazonのオススメに並んでいるのを見てポチ。帯には「少女たちは/青春を/謳歌する。」とあって少女主人公で少女たちのお話であると訴えてきますがタイトルに含まれる“百合”の文字以外に百合漫画であると謳っていなかったりします。帯の裏表紙側も「儚くも美しい少女たちの「恋」と「キス」の物語が始まる。」という文言はありますが、百合ものであることを示す売り文句はありません。
普通の学園物かな?と思いつつページをめくると百合の花のイラストが目立ち、最初のページで「タイが曲がっているわよ」の小書き文字。あ、大丈夫そう。百合ものだ。きっと。
読み進めていくと熱いライバルものであることがわかります。舞台は女子校。主人公のあやかは秀才で、対置されるライバル・ゆりねはぐーすか居眠りばかりの天才肌。なのに勉強、運動をはじめあらゆることであやかはゆりねの後塵を拝するのでした。でも、負けず嫌いのあやか。対抗心を燃やして頑張ります。優等生キャラのあやかなのですが、とっても熱いキャラでもあるのです。もうこの時点でめっちゃ楽しい。
百合漫画です。帯に「青春群像物語」とある通り複数ペアが登場し、友情であったりライバルであったりなのですが文句なしに百合ものです。キスシーンなどもありますが恋愛ものとしてのキスシーンかは微妙でありつつ、百合漫画であると断言できます。しかも面白い。
百合漫画ではありつつ、百合漫画好きだけが楽しめるようなものではなく、ごく普通の漫画として面白いのです。一般向けのエンタメ性がしっかりあります。でもヌルくない。百合漫画専門誌以外ということで比較に挙げると『彼女とカメラと彼女の季節』が写真と人間関係が浸食しあう尖った人々の話であり、『青い花』が「マリみて」発展型でしょうか。対して『あの娘にキスと白百合を』はコメディ要素強めで“友情”や“大切”を自然に、熱く感じさせてくれるのです。
とにかく、読め!と勧めたい。
作者はこの漫画で初めて知った方で、ネットで検索してみても今回が初単行本のようです。ご本人のサイトとpixivに漫画・イラストがありました。
新人であるようなのに、あれ? なんか新人離れしてない? 絵も安定していて、お話の見せ方、お話の組み方がこなれていて。宮原るりや石田スイを初めて知ったときと同じくらいびっくりです。作者サイトに置かれた漫画も十分に面白いものの、今作でのジャンプアップもまたハンパない。
百合漫画という観点でも素敵です。ドキドキワクワクポイントを確実に押さえにきて、ちょっ、あざとーいと思いながらもジタバタ萌え転げさせられてしまいます。友情要素濃いめでありつつ、濃い友情と恋愛感情に境界などないのだといわんばかりに互いにただ一人住まわせる心の奥底。これがコミックアライブに掲載されていると知って、百合漫画専門誌の立つ瀬がない、と思ったのでした。
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