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『あの娘にキスと白百合を』(1)缶乃

あの娘にキスと白百合を1
缶乃
KADOKAWAメディアファクトリーMFコミックスアライブ
2014.5.23

 とても面白かった。

 事前情報をあまり集めておらず、Amazonのオススメに並んでいるのを見てポチ。帯には「少女わたしたちは/青春を/謳歌する。」とあって少女主人公で少女たちのお話であると訴えてきますがタイトルに含まれる“百合”の文字以外に百合漫画であると謳っていなかったりします。帯の裏表紙側も「儚くも美しい少女たちの「恋」と「キス」の物語が始まる。」という文言はありますが、百合ものであることを示す売り文句はありません。
 普通の学園物かな?と思いつつページをめくると百合の花のイラストが目立ち、最初のページで「タイが曲がっているわよ」の小書き文字。あ、大丈夫そう。百合ものだ。きっと。
 読み進めていくと熱いライバルものであることがわかります。舞台は女子校。主人公のあやかは秀才で、対置されるライバル・ゆりねはぐーすか居眠りばかりの天才肌。なのに勉強、運動をはじめあらゆることであやかはゆりねの後塵を拝するのでした。でも、負けず嫌いのあやか。対抗心を燃やして頑張ります。優等生キャラのあやかなのですが、とっても熱いキャラでもあるのです。もうこの時点でめっちゃ楽しい。
 百合漫画です。帯に「青春群像物語オムニバスストーリー」とある通り複数ペアが登場し、友情であったりライバルであったりなのですが文句なしに百合ものです。キスシーンなどもありますが恋愛ものとしてのキスシーンかは微妙でありつつ、百合漫画であると断言できます。しかも面白い。
 百合漫画ではありつつ、百合漫画好きだけが楽しめるようなものではなく、ごく普通の漫画として面白いのです。一般向けのエンタメ性がしっかりあります。でもヌルくない。百合漫画専門誌以外ということで比較に挙げると『彼女とカメラと彼女の季節』が写真と人間関係が浸食しあう尖った人々の話であり、『青い花』が「マリみて」発展型でしょうか。対して『あの娘にキスと白百合を』はコメディ要素強めで“友情”や“大切”を自然に、熱く感じさせてくれるのです。

 とにかく、読め!と勧めたい。

 作者はこの漫画で初めて知った方で、ネットで検索してみても今回が初単行本のようです。ご本人のサイトとpixivに漫画・イラストがありました。
 新人であるようなのに、あれ? なんか新人離れしてない? 絵も安定していて、お話の見せ方、お話の組み方がこなれていて。宮原るりや石田スイを初めて知ったときと同じくらいびっくりです。作者サイトに置かれた漫画も十分に面白いものの、今作でのジャンプアップもまたハンパない。

 百合漫画という観点でも素敵です。ドキドキワクワクポイントを確実に押さえにきて、ちょっ、あざとーいと思いながらもジタバタ萌え転げさせられてしまいます。友情要素濃いめでありつつ、濃い友情と恋愛感情に境界などないのだといわんばかりに互いにただ一人住まわせる心の奥底。これがコミックアライブに掲載されていると知って、百合漫画専門誌の立つ瀬がない、と思ったのでした。

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『コミック百合姫』2014年7月号

コミック百合姫 2014年7月号
一迅社
2014.5.17

表紙 武梨えり

 バトントワリングを題材にした表紙は華やか。

巻頭特集

 ショートアニメが放映中の『犬神さんと猫山さん』の話題を中心に。『ゆるゆり』アニメの劇場版情報も。『REX』掲載の男の娘ものの宣伝も紛れていたりとちょっぴりカオス。

にこちゅう/言わない言えない言いたくない/ラブデス/犬神さんと猫山さん くずしろ

 「犬神さんと猫山さん」のアニメに合わせたくずしろ四作・五本集中掲載。「犬猫」だけでなく読切や前号からの続きの連作の短編もありました。アニメの「犬猫」をきっかけに『百合姫』を手に取ってみた人には予想よりガチ&ダークなくずしろに驚く描写もあったのではないでしょうか。「ラブデス」は前号からの続き。

citrus サブロウタ

 先々号から登場した柚子の妹分的キャラに刺激されたのか芽衣の行動も揺らぎます。脳味噌筋肉的な行動に出るあたり「芽衣さんさすが!」と感嘆。バタバタ派手なリアクションを示すのは柚子ですが真のトラブルメイカーは芽衣ですね……。どーなる次回!

友達じゃいられない! 蕗

 プレーンな感じのする作風に「おや?」と少し意外性のある展開。作風の確立目指して進化中といった感じの百合姫コミック大賞出身作者。

friendship+ まに

 ちんまり感ある絵柄の可愛さが際立つまに。どういうシチュエーションなのか戸惑うシーンもありますが、なんというか、とにかく可愛い。

私のヒーローさん 源久也

 スーツアクトレス(特撮ヒーローの中の人)と特撮ヒーローオタのカップルの話。源久也お得意のげろ甘な二人です。

無酸素恋愛 コダマナオコ

 『百合姫』でのコダマナオコの得意とする、キャラクターそれぞれの思惑の違い、欲求の違いを抱きつつの微妙な距離感が今回も素敵でした。部活動のトップとリタイア組のコントラストが緊張感ある関係に。

ナチュリーズ(後編) あおと響

 百合姫コミック大賞翡翠賞受賞の受賞後第一作。童話の主人公たちの生まれ変わりであると信じる少女たちのお話。前号からの続きとなります。この作者の描く漫画には独特の空気がある気がします。次にはどんなお話を読ませてくれるのだろうと期待せずにはいられません。

キスからはじまるコイゴコロ 仲原椿

 タイトルの通り、ではあるのですがタイトルから連想しそうなレディコミ的ストーリーではなく少女漫画寄りです。さわやかあっさり系の絵柄。キスをきっかけにした瑞々しいお話で、印象も良いのですが一点。見開きのキメシーン、直前のページとの繋がりでちょっと戸惑うことに。これはもったいないなと思ったのでした。

ゆるゆり なもり

 櫻子の家に集まることになったり、りんご剥きを題材にしたり。いつもの楽しい「ゆるゆり」なのでした。

BGMRSPボウソウガールズテキモウソウレンアイテキステキプロジェクト 河合朗

 アニメの『メカクシティアクターズ』を見て、ニコ動の「カゲプロ」一連の動画を見て思ったのですが、カゲプロ的なものが好きな人は特にこの作者のお話が響くんじゃないかと思ったのでした。巻中カラー扉のついた掲載です。

ホーム・スイート・レシピ 井村瑛

 前号、憂鬱なお話で来た井村瑛、今回は甘々な雰囲気で来ました。登場したお菓子のレシピおいしそう……。と思ったらTwitterで作者さんに「作ってみた」レポを出していた方がいらっしゃいました。これは作りたくなるよね、うんうん。

先生卒業(後編) 大沢やよい

 前回からの話の続きです。先生に交際を申し込んだ主人公。進学のための諸々も済んでいよいよ先生の返事を、というところで拒絶の言葉がもたらされ、その理由を求めて先生の回顧が始まるのでした。後編では回顧シーンから“今”へと物語が繋がれ……。しっとり落ち着いたほっとするお話でした。

喃喃喋喋なんなんちょうちょう 竹宮ジン

 前回からのダイレクトな続きです。ほのかな思いを寄せていた友達が百合カップルとして違う相手を得てしまったことで心寂しくもあるあおい。そんなあおいを見かねたのか微妙なアプローチをしかけてくる奈緒。期待通りに落着してくれるのだろうか、と次号が楽しみ。

月と世界とエトワール 高上優里子

 作中では夏休みモード。岸辺世界と帰省……というか郷里の祖母の元に避暑に来たよぞら。世界とよぞらを結ぶ因縁が明かされていきます。前回と今回、非常に楽しみな展開で来ていて読んで満足感。カラーがとても映える作者だしここらでカラーページ来ないかなぁ。

himecafe

 今回のhimecafeゲストは井村瑛。アンケ葉書の質問を元に編集者と対話形式で進めていくコーナーなのですが、前号の「天使がいた日」の創作発端エピソードがとても面白かったり。お笑いが好きエピソードとか意外なネタも。

百合SSを書こう

 「百合SSを書こう」コーナー、しっかり連載化していて今回は「二次創作百合SS作品大募集!」だとか。…… ( ・_☆)キラーン

ガチ百合道 ねこ太

 三次元の生ものはけっこう際どいネタなのではとふと藤枝雅の声優漫画を思い出したり。どきどき。

Vespa 大北紘子

 中世〜近世ヨーロッパのような世界、女ばかりで男はどうやら絶滅しかかっている模様。テクノロジーでヒトの繁殖はできているらしいのであるいは中世文化が復興している未来のお話なのかもしれません。大国の女王に求められて嫁ぐことになったお姫様。男勝りの気丈さを持つ姫を待ち受けていたのは女王による陵辱の日々。姫を取り戻そうと襲撃を企む主人公。その結末は、というのが今回の最終話。三回の短期集中連載だったけど短く感じました。嗜虐キャラの女王にも見えないところにきっともっとドラマがあり、姫にも主人公にもやはり細かなドラマがありそうな気がしたのです。六月予定らしい単行本『Vespa』を読んでからあらためて感想を。

あやめ14 天野しゅにんた

 少し前から聞くようになった“マイルドヤンキー”という言葉があります。そしてかなり市民権を得た“中二病”という言葉も。「あやめ14」シリーズはこのどちらの要素も含んでいるテイストのお話。でも、ちょっと、多分に、昭和っぽくもあります。ダジャレ感漂うあたり。もう、なんで三銃士なんだ〜。

君が千年のかざとしぞみる 河合朗

 BGMRSPを掲載していた河合朗、二本目です。時代物です。花魁ものです。絵柄もBGMRSPとは変えてきていてすっきりさせて、パース感もどことなく浮世絵風。『百合姫』では現代物・女子校物が中心で時代物は新味がありました。

ハニースイッチ ちさこ

 香りをテーマに。同性の同僚に愛用の銘柄と同じハンドクリームをプレゼントしてみたらお揃いであることが妙に気になり始めて……。作者得意のフェミニンな要素たっぷりのお話。

ストレンジフレーバー 慎結

 怪談ネタです。ちょっぴりホラー調。でもこれ以上説明するとネタバレてしまいそう……。

Cerasus Yedoensis 片倉アコ

 「桜」と名付けられた主人公の前に現れた「ヨシノ」と名乗る少女。どことなく小説のような、詩のような調子でしっとりと展開するお話。厭世的になったり自己嫌悪を感じたりしがちな年頃の一コマ。

百合男子 倉田嘘

 百合女子たちと百合男子が紡ぐ大きな網が引き絞られて同人イベントで一同に会する啓介たち百合ファン。テンション高く面白かった! しか〜し、なんということでしょう。作画がちょっぴり間に合わなかった部分があるみたい。そして最終ページ。「第一部完」の文字が。ええっ?と思ったのですが、次号予告にも「百合男子」のタイトルが並んでいるので間を空けずに続くようです。

★ ★ ★

 今号には百合姫コミック大賞の結果発表もありました。そういえば峰なゆかのyuri-noteは隔号掲載なんですね。続きが待ち遠しい……。

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艦これ日記・サーモン海域北方5-5攻略

艦これ 5-5クリア

 現時点での艦これ最難関EXSTRA STAGE「サーモン海域北方」、通称5-5をクリアしました。スクリーンショットは海域ゲージを破壊する直前……。

戦績
試行回数ボス到達回数
5-55010
春イベE-55015
消費資材
燃料弾薬鋼鉄ボーキ
5-546694607304356419145
春イベE-54085637028395627469

 春イベントE-5を上回る予想以上の資源浪費となりました。キラ付けや道中・決戦支援の使用率が高かったためでしょうか。装備も艦娘Lvもまだまだ不足していたからかな、ということで当面の目標もできました。

開発目標
烈風3
零式水上観測機1
徹甲弾1
46cm砲2

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第十八回文学フリマ雑感

 五月五日、東京流通センターで開催された文学フリマの様子を見てきました。購入した本の中から印象深かったものの簡単な感想を。

季刊 藍色茜色 特集:少女の終わり

 少女論の本です。面白かった。“百合”と少女論の近縁性。女学校。『少女の友』。『乙女の港』。創作の欠片。私好みの要素がいっぱい詰まった本でした。テキストに付された参考文献は少女論の宝庫。フィクションとしての“百合”をきっかけに「少女とはなんだろう」という側面に興味を持った人への良いガイドになるはず。オススメ。とても。

幻想コレクション(緑) 編:秋山真琴/雲上回廊

 水池亘、鳴原あきら、渡邊利道、泉由良の四人・四作を集めた短編集。文庫サイズのセンスを感じさせるパッケージングの第一印象も良く、収録されているお話たちも高水準。太陽系を舞台にした宇宙SFの渡邊利道「シャーロットに薔薇を」が特に気に入りました。

百合人yurist

 百合関連の総合誌的な冊子。A4、50ページ。フェミニズム、レズビアンといったキーワードをテーマにしたセクシュアリティにがっちり噛み込んでいる内容。百合漫画のふわふわのフェム的な話題が扱われているものではない、という前提でのオススメ。エッセイや対談的なものを集めてました。

非生物少女蒐集箱 ソウブンドウ

 文学フリマのお目当てはこのソウブンドウの本。今回も期待に違わない素晴らしい中身でした。星の擬人化と結晶がテーマが目映い「赤い瞳の少女座」(雪村星衣子)、人型機械と格闘アクションで力強く重く儚い「空蝉ハ望月ノ雫ニ濡レテ」(志保龍彦)、白と黒のコントラストの中の少女が印象的なイラストの「篝火少女」(稗田やゑ)、懐かしい馴染みあるような異世界をしっとりと描いた「微睡む糸の昼下がり」(七木香枝)、新たに加わった少女の人形と兄たちと打ち解ける様を描いたコミック14ページ「ほしどろぼう-VENUS-」(きのえ)、北欧神話が薫る結晶の少女を崇める狩人の物語「揺籠ラテルナ・マギカ」(空木春宵)、色濃いゴシック感が素敵なイラスト二点「墓標少女・棺桶少女」(machina)、心を失ってしまった少年と絵の中から抜け出した少女の少し童話的なファンタジー「君の終わりはきっとやさしい」(神尾アルミ)。質に信頼のおけるソウブンドウ。キーワード「結晶化」や「恒星擬人化」にびびっと来る人には強くオススメなのです。各話の紹介&サンプルもソウブンドウさんのサイトにあるのでぜひチェックを。


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『メバエ』vol.1

メバエ vol.1
少年画報社
2014.4.30

 どんな感想を書こうか悩みました。

 載っている漫画はそれぞれどれも面白くて、質も高かったです。「もよおす、百合漫画」というコピー通りのアンソロジー(雑誌)でした。好みからはちょっとだけ外れていました。

 電撃系の漫画誌や『チャンピオンREDいちご』のような18禁ゲームのコミカライズの載っている雑誌があります。成年コミックのように性器をもろに描写せず、けれど成年コミックの性描写手法を用いる作品を多く掲載する漫画誌です。あるいは青年誌に載っているエロ要素メインの作品たち。『メバエ』もそんな成年指定なしの男性向けエロを中心とした漫画誌で、女の子同士をテーマにした、というのが第一印象でした。
 でも、ちょっと違うかも。長月みそかの作品は少女漫画に近いテイストだったし。
 というわけで一覧にしてみました。

メバエ vol.1 エロス描写度表
タイトル著者性描写
ペルソナかれん玄鉄絢成年漫画的?
ほわんと長月みそかなし
呪いのあおいちゃんあらた伊里ほぼなし
プラクティス・プラスひげなむち成年漫画的
たべごろちゃんぐんのうさ成年漫画的
化け猫さんと飼い猫ちゃん
おんなのこぼくじょう!
犬丸
キツく抱いてハニー環望少年漫画的
歳の差姉妹に時々あることms
花と毒薬
純愛とろとろりっぷ
小鳩ねねこ濃いめ
亜熱帯HOTELFLOWERCHILD成年漫画的
鈍色に残す朱村咲なし
蒼い炎薫る土鳴子ハナハルなし

 性描写アリの作品は1/3弱と一読しての印象よりも控えめでした。エロス描写のインパクトに圧されて印象が偏ってしまったみたい。性描写ではないけれど演出でエロスを盛り込んだ「純愛とろとろリップ」のような作品もあります。芳文社の『つぼみ』にエロス要素を加えた感じ、かな。少女漫画寄りのものから成年漫画的なものまで幅の広い誌面というのが実際のところ。

 比較のために百合ジャンルの雑誌、アンソロジーをいくつか挙げてみます。
 成年指定を代表するのは『彩百合』シリーズ。これは18禁同人誌と似たテイストで演出方法は男性向け成年漫画の影響が強く、性器も描いてモザイク(墨消し)が入ります。成年指定なしながら性描写の主体の『百合姫Wildrose』や『Girls Love』(どちらも『百合姫』系)といったアンソロジーもあります。こちらは少女漫画・レディコミ誌的な表現中心。

 百合漫画各誌を描写別にチャートにしてみました。

百合漫画誌別性表現チャート

 各誌でオーバーラップしている領域は実際はもっと多いです。

 少し違う角度からも。
 私はポルノも楽しく読むタイプですが成年指定のない実質的なポルノには抵抗を覚えもします。表現の幅広さを求めて性描写や残酷描写を盛り込みたい作品であるならば全年齢対象の一般誌向きかもしれませんが、端からポルノを作るつもりなのであればR12、R15、Xといった描写内容によるレーティングは(行政による強制や業界団体による自己防衛ではなく読者に対する誠実な姿勢として)行って欲しい気がします。論理的な理由はないのですが、実質ポルノであるのに一般誌として売るのは姑息に思えてしまいます。一方で、『彩百合』が成年指定になっていることには好感を覚えます。
 『メバエ』も掲載作はどれも良いと思えたのに、ポルノの手法で描かれたものを含み「もよおす、百合マンガ」というコピーで売られながらポルノ扱いされずに書店に並ぶあたりに釈然としないものを感じました。そういう意味では『百合姫Wildrose』シリーズも性描写と売り方という点で同じ議論の俎上に載るかもしれません。
 う〜ん。鳴子ハナハルの色っぽい表紙で「もよおす、百合マンガ」という帯がついているのでパッケージングと中身の一致度は高いかも。成年指定まではいらない……のかな。

 また、『メバエ』が男性向けポルノと同じ手法・視点で作られている作品を含みつつ百合分類であることにも複雑な感情を覚えます。商品としての女性性を消費している——ネットスラング風に表現すると「俺ヨメ」で、男性読者が自身以外の男性キャラを見たくないという欲求を満たすアンソロに思えてしまうのです。男のための見せ物として作られる女性同性愛もの、というのはあまりに「マリみて」や吉屋信子の世界と隔たりすぎていることに戸惑います。とりあえず私は対象読者層ではなかったみたい。かつての『つぼみ』も性描写こそほとんどなかったもののコンセプトが『メバエ』と近く、正直「誰のための漫画誌なのかよくわからない」という戸惑いはありました。もちろん、掲載漫画の中には大好きな作品もあります。同様に、こうして違和感を並べてしまった『メバエ』からも好みの作品が出てくることでしょう。

★ ★ ★

 『メバエ』を読んで改めて色々考えさせられました。
 百合漫画に対し、男抜きの男性向けポルノを期待したのではなく、レズビアニズムが読みたかったのでもフェミニズム運動の一部として賛美したかったのでもなかったことを再確認することに。私にとっては明治・大正期に成立した「少女」という概念の賛美としての漫画=百合漫画であるのだな、と。
 なんだか狭量な話となりました。

 念を押しておくと『メバエ』のような百合漫画が赦せない、というわけでは決してないです。単に、読みたいものとはっきりと違うアンソロ(雑誌)が出てきたというだけのこと。百合ジャンルの拡大を示すのでしょう。『つぼみ』では今ひとつ不明確であった“男性向け”要素をはっきりと打ち出してきたことによって「マリみて」みたいものというイメージが中心であった百合漫画の世界もターニングポイントを迎えたのだと思います。

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ひらり、別冊部活女子アンソロジー『ほうかご!』(2)

ほうかご!(2)
新書館
2014.4.30

表紙

 前号の『ほうかご!』でも鮮やかな色が印象的で今号もまた彩度の高い鮮やかな表紙です。表紙カバーイラストは高嶋ひろみの掲載作「加瀬さん」シリーズから。

ショートケーキと加瀬さん。 高嶋ひろみ

 好評らしい「加瀬さん。」シリーズ。『ほうかご!』(1)では「加瀬さん。」シリーズのスタート以前のエピソードを描いた番外篇でしたが、今回は『ひらり、』vol.13の続きが掲載されていました。いつも通りの高校生男子のような加瀬さんでありつつターニングポイントとなる回でもあります。「加瀬さん。」シリーズ愛読者は必読。七月末には『おべんとうと加瀬さん。』というタイトルで単行本第2巻が出るようです。

白百合とハルジオン 伊藤ハチ

 『ひらり、』vol.13の掲載作で障害を持つ子を描いた伊藤ハチ。オーソドックス&シンプルなお嬢様と庶民主人公のお話で接点のなかったはずの二人が園芸をきっかけに馴染んでいきます。お約束の設定こそが魅力。

杖をバトンに持ち替えて ふかさくえみ

 『購買のプロキオン』でちょっぴりのどかな雰囲気でほっこりする友情+αを見せてくれた作者。こちらではバトントワリングを題材に。期間限定の即席チームでお祭りでのパレードを演じます。ほのぼのした雰囲気の中に「バトンの楽しさ」が感じられたのでした。

茅野ユミは知っている 高崎ゆうき

 「モブ」=脇役を自称する主人公・茅野ユミ。頭のてっぺんをくくって「キヒッ」と笑う姿に「座敷童」と思ってしまいました。ちんちくりん可愛い……。高崎ゆうきは『むげんのみなもに』で可愛らしい絵柄や雰囲気とは不釣り合いにハードでシュールな作風にショックを受けたのでした。もっとも今回のお話はちんちくりんなモブ主人公の可愛らしさそのままのちんちくりん感が魅力のお話。構える必要はないです。

お腹をすかせて帰ってくるね くみちょう

 食育モノ、かな。以前いっしょにバレーボールをやっていた相方が家庭の事情でバレーボールを続けられなくなって料理部に。道は別れた二人だけど、あれ? この主人公、依存心が強くてそれぞれの道で頑張ってます!的なお話じゃないぞ。しかもかなりネガティブでウザい。という展開から魅せてくれました。

サッカー少女 大朋めがね

 汗臭いスポーツとの組み合わせが想像しづらかった大朋めがね。絵柄の印象かな? サッカーが題材ですが、やはり汗臭くはない印象。サッカー部の上級生に一目で憧れ、入部してサッカーと馴染んでいくお話。この作者得意のちょっとだけ刺のある人間関係がきらりと光ります。

ピエタ 吉田丸悠

 これはきっと賛否分かれるはず。ネタバレ……気味になってしまいますが『ほうかご!』(1)掲載作の美術部ものの続編です。

空色の鳥と春の風 百合原明

 『ベツキス』で可愛らしく華のある吸血鬼を描いた百合原明。今回のテーマは心霊現象。オカルト同好会が舞台です。これは説明は野暮かな。

ふたり部のひとり kashmir

 部員が二人しかいなくなってしまい生徒会の雑用請負部と化している演劇部。しかし、演劇部には部員の増えないわけが密かに存在していたのでした……。

新入部員神田川葉子さんのレポート 犬丸

 witch meets knightシリーズの出張版四コマ。ゆいっちウォッチが趣味の下級生を中心に新入部員模様を。

シークレット*ニュース ミキマキ

 『少年よ耽美を描け』の作者による新聞部ネタ掌編。少女漫画タッチ+ギャグテイスト。百合漫画はギャグでも不条理であったりマニアックであったりするものが多いのでスパッとまっすぐな感じは新鮮。

三国ハヂメ ひとめあなたに

 前号からの続きとなる(模型の)フィギュア部もの。脚線美の飯住さん目当てで入部した主人公なのだけど飯住さんとの遭遇率があまり高くなくて悩ましく。造形趣味の説明を交えつつの四コマは趣味全開な感じですがそれだけに楽しい。

好きの距離 未幡

 陸上もの。走ること第一の陸上バカと、その陸上バカに憧れ陸上部に入った主人公。二人のスタンスの違いは関係の擦れ違いへと。この関係の緊張感がすごく格好いいと思ったのでした。

ねがい ユキムラ

 喧嘩をしたわけではないけれど気まずくなってしまった二人の微妙な距離。逃げ場を求める思春期の切実な気持ちが響いてきた気がします。あ、そういえば部活ネタではないかもしれない。でも良かった! とても。

本日の部活会議 小橋ちず

 部活のないお嬢様学校で「部活がしたい!」ということでちょっとコメディっぽくドタバタ展開する部活探求物語。

マーメードは旅をする 佐野妙

 前号掲載の「雨の日のマーメード」と同設定らしきオフの水泳部模様シリーズ。四コマらしい四コマです。人間関係の機微、多様さへのセンスみたいなものがあってポップでコミカルな中に関係性のリアリティみたいなものがあります。修学旅行に来た水泳部二年の面々は後輩へのお土産に頭を悩ませる、というのを中心に。

ぜんぜんかわいくないっ王嶋環

 陸上部もの。駅伝の大会で良い結果を出せたら、とご褒美をねだり——、と始まります。途中のオアズケ感にやきもきさせられたもののオチには思わず頬が緩んだのでした。ぶはっ。

いちごショートは今が旬だし 三嶋くるみ

 人見知りのみのりとみのりを引っ張る外向的なまゆこ。まゆこに連れられてみのりも料理部に入ったものの……。低めの頭身のちまっとしたところが可愛らしく、その絵柄にぴったりなお話。

花が咲くように きよたとも

 ひとつ前の三嶋くるみ作品のキャラの「人見知り」とは違って人と関わるのを厭うキャラが主人公。園芸部の上級生とのアクシデントで生まれた縁に嫌々つきあわさせられます。サガリバナや主人公の姓が瑞慶覧であることからすると舞台は沖縄近辺かもしれません。ひらり、GLコミック大賞出身の作者です。

★ ★ ★

 前巻の『ほうかご!』(1)での印象=『ひらり、』に比べると少し四コマ誌っぽい作風、は継承されてポップで明るいアンソロになってます。続き物はさらに次もあるのかな? 二巻目も楽しかったので三巻目も出るといいなぁ。でも出るにしてもかなり先かな。

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