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『アルラウネ』H.H.エーヴェルス

 古い本の紹介です。
 国書刊行会の世界幻想文学大全シリーズに『アルラウネ』という物語が収録されています。1911年に書かれ、1980年代末〜90年代に日本語訳されたようです。今となっては新本で入手することは難しそうですが、大きな図書館であれば全集が揃っているのではないかと思います。私も地元の中央図書館から借りて読みました。

 きっかけとなったのは少女漫画です。川原由美子の『観用少女』シリーズが好きなのですが、このシリーズに登場する少女の姿をした植物・観用少女を連想させる幻想小説の古典があると知りました。いわゆるマンドラゴラを扱ったお話であるらしい、と。

 正直、あまり関心が持てなかったものの気にはかかっていました。植物についての調べ物をしていて思い出し、図書館蔵書を発見。というわけで読んでみました。H.H.エーヴェルスの『アルラウネ』。

 読み始めて最初の印象は「古めかしいゴシック小説」でした。メアリ・シェリーの『フランケンシュタイン』に近い時代感覚・ゴシック感が漂います。登場する人物は皆退廃的で、身分とお金のある下衆という感じなのです。読むの辛いな〜と思いつつ読み出したのですが、売春婦やら犯罪者やら自堕落な日々を送る坊々ぼんぼんやらがいかにも不快なキャラとして登場しながら、描写の面では意外に品を失わない節度・美意識のようなものがあって心地良く読めることに気づきました。輝くような華やかさと直喩を避けた美しい官能描写にも魅せられました。

 「妹へ捧げる物語」としての体裁が取られていますがその作中作のみを楽しめば良いタイプのようです。エーヴェルスの他作品との繋がりを持たせるためのメタ構造である模様。死刑になった罪人の断末魔の精液が滴った土から生じるというアルラウネ——マンドラゴラの伝説と、畜産で実用化されつつあった人工授精のヒトへの応用を融合させた物語です。
 ヒトの人工授精は今となっては医療として普通のことですが、当時はまだ人工授精に「未知の技術に対する恐怖」が存在したのでしょう。現代でもちょっと前までは臓器移植でドナーの人格がレシピエントに宿る、みたいな話がホラーとして通用していました。単なる人工授精に伝説を重ね、マンドラゴラの属性を持たせたヒトをこの世に送り出そうとするお話なのです。
 な〜んだ、と思いませんでしたか。私も最初の方でネタが割れたときに「ただの人工授精じゃん……」となりました。でも、この物語はそれでもなお魅力的なのです。退廃的な人々。論理的とは言いづらい恐怖の設定。生まれ出たアルラウネにまつわる奇妙な出来事の数々。それらが非常に魅力的な文章でぐっと来るイメージを喚起して来るのです。訳文だってぎこちない部分もあるし、原書の文章も(たぶん)特別格調高いわけではないでしょう。にも関わらず「うわ、痺れる」というシーンがあちこちにあるのです。
 後半に入り、美しい娘へと成長したアルラウネは色々ヒドイところもあるキャラなのですが魅力的で、最終章に向かってぐいぐいと読み手を魅了していきます。前半、読むのがツライ部分もあるかもしれませんが後半まで辿り着けば文句なしに「面白い!」と言えるはず。最後の最後、オチの付け方は唐突かもしれませんが、その唐突なところも含めてゴシック・ロマンスであったなあと読み終えて大変満足したのでした。

 『観用少女』との繋がりということでは濃くありつつも希薄、という矛盾した印象となりました。設定に関しては『アルラウネ』はマンドラゴラ伝説によって人工授精児を禍々しく彩っただけで、「職人の手で丹精された」「枯れてしまう」植物としての性質を持つ観用少女とは共通点がありません。一方『観用少女』においても不幸や死を招く観用少女プランツドールが登場し、ゴシックな要素をたっぷりと持たされ、エーヴェルスの『アルラウネ』と共通する魅力を備えます。直接の関連はなくとも『観用少女』が好きな人が読むとゾクゾク来るはず。

 『アルラウネ』が収められている世界幻想文学大系はどのタイトルも面白そうです。

『アルラウネ』
H.H.エーヴェルス
国書刊行会
世界幻想文学大系(全集) 第27巻A・B(二分冊)

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『思い出のマーニー』ジョーン・G・ロビンソン

思い出のマーニー
著:ジョーン・G・ロビンソン
訳:松野正子
岩波少年文庫

 映画『思い出のマーニー』をきっかけに子供の頃以来の再読をしました。岩波少年文庫版です。

 以下、ネタバレも含む映画・原作の双方をご存知の方向けとなります。


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艦これ日記 夏季イベントAL/MI作戦

 艦これ夏イベントのAL/MI作戦の全6ステージ、クリアしました。

艦これ 夏イベント AL/MI作戦 E-6クリア

艦これ 夏イベント 全海域クリア

 E-1、2のAL作戦はなかなか攻略編成が見つからず苦労しました。E-3、4、5のMI作戦は“連合艦隊”システムが目新しかったこともありとても楽しかった! E-5クリア報酬の雲竜も好みのイラストでした。備蓄資源が乏しく、AL/MI作戦で高練度重巡/軽空母の多くを使ってしまったこともありおまけステージのE-6は無理かな……と思いつつ、日々集めることのできる資源の範囲で3〜4回ずつ出撃を重ね10日間、なんとかクリアできました。

艦これ2014夏イベ E-6艦隊

 E-6は道中夜戦マスを避ける軽空母×2編成。支援艦隊は道中・決戦両方とも正規空母×2、戦艦×2、駆逐艦×2を投入。

夏イベ記録
海域出撃ボス到達ボス最終形態
戦闘数
E-13010
E-22010
E-31311
E-41810
E-52410
E-651152

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『マカロンムーン』川原由美子

マカロンムーン
川原由美子+伊咲こゆる
朝日新聞出版
2014.8.7

 川原由美子の漫画が好きです。『観用少女』『TUKIKAGEカフェ』『ななめの音楽』のいずれも好みのど真ん中で、新刊が出たら買う作家リスト筆頭。

概要

 『マカロンムーン』は『Nemuki+』という雑誌の2013年5月号〜2014年3月号まで連載されたお話に描き下しのプロローグとエピローグを追加したもの。
 製菓部で制作しているコンクール出品作の大きなマカロンのお菓子が何者かに齧られて三日月型に! 犯人を捜せ!と立ち上がった主人公・みたらしが呼んで来たのが探偵役・きなこ。事件はあっさりと解決、と思いきや——。
 低めの頭身の可愛らしい絵柄でお菓子のような甘さと不可思議な雰囲気につつまれたファンタジーなのです。一見。
 ところが後半では甘いだけのお話ではないところへとシフトしていきます。
 カバー下には設定画のおまけもありました。

 以下は既読者向けの徒然となります。


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『宝石色の恋』西UKO

宝石色の恋Couleur de bijoux d'amour
西UKO
白泉社
2014.7.31

 『楽園Le Paradis』に掲載された西UKOの短編を集めた単行本です。『Collectors』という前著の印象がとても良かったので楽しみにしていたもの。百合、というよりはレズビアンの日常を描いた短編集です。

 『百合姫』を始めとする百合漫画では恋の始まりを描いたお話が多くセクシャリティがまだ不安定であったり自覚できなかったりする段階を対象にしていて、そういう範囲のお話はなんとなく“レズビアン”や“同性愛”と呼ぶより“百合”と表現した方がしっくりくるかな?と思うのです。もとより百合の定義などどこにもないのであくまでそんな気がするというだけのこと。

 西UKOのお話に登場するのははっきりと性指向が女性同性愛に向かう人物たちです。そして格好いい大人の雰囲気があります。ファッション誌から抜け出して来たような空気をまとうお話たち。キャラがファッショナブルな装いをした社会人、ということもあるのですがそれだけでないシャープで静けさを感じる作風なのです。絵になる構図、“間”を生かす表現、美しい体の線への拘り。シチュエーションや設定的には生活感漂うはずのものもあるのですが、くたびれた日常感とは無縁であくまで格好良いのです。

 表紙も素敵です。マーブル模様の水彩風背景に浮かぶ箔押しの宝石。非光沢紙の風合いも手に心地よく。『Collectors』の表紙もすごく良かったっけ、と奥付を見るとどちらも同じ人が装丁を担当していました。

 帯には「全18本を収録」とありますが目次に並ぶのは17タイトル。18本目は、さて、どこでしょう。

 白泉社公式に試し読みもありました。紙の実本はwebの画面で見るよりも引き締まった印象です。オススメ。

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『ひらり、』vol.14

ひらり、 vol.14
新書館
2014.7.30

 表紙は「加瀬さん」シリーズの高嶋ひろみ、扉絵は今村陽子。扉絵はストロボとスローシャッターを組み合わせたかのようなちょっと面白い影の感じが出されていました。作者Twitterに「先にグレーで塗ってから最後に色を入れる」とメイキング解説があってさらに興味深く。

私馬鹿 雨隠ギド

 高校生の頃の印象と社会人になってからの再会と。耳たぶの、ピアス穴の位置にホクロが……という設定が皮膚感覚的なリアリティを備えてぐっと来たのでした。

五十鈴のカウンター 玄鉄絢

 『ひらり、』初登場の玄鉄絢は『少女セクト』シリーズのスピンオフらしき短編。単行本しか知らなかったのですが再録であるようです。『少女セクト』は成年コミックなので興味を持たれた方には一応ご注意を、と。

ありふれたかくしごと 犬丸

 演劇部を舞台にした群像劇「witch meets knight」シリーズ、今回は火ノ見をメインに。視点は野々丘副部長に沿っているかな。んでですね、今回はもらい泣きをしてしまいました。なんだこれなんだこれ。二回読んでも三回読んでも目頭が熱く。大感動の派手なシーンじゃないはずなのに。回を重ねるごとにオススメ度が増してきます。

桜の実の熟する日 磯谷友紀

 vol.12の「少女の魔笛」の続編で、高校生の子供のいる女性と女子高生のお話。今回は前回とは逆に理世(女子高生)側の視点になります。冒頭で麻知(年長の女性)さんの歳が挙がるのですがインパクトありました。これは確かに麻知さん躊躇せざるを得ないかも。短いお話だけれど、すんごい葛藤があったのは想像に難くなく。

傷心 ユキムラ

 大人の百合漫画。そんな感じです。遊びのつもりで付き合い始めたはずなのに二年も関係が続いている同性の恋人の背中にはワンポイントのタトゥ。絡みの描写もありますがこれが素敵にカッコイイ感じなのです。フランス映画の一場面のよう。

コールアンドレスポンス 雁須磨子

 うわー。切ない。同性の恋人が距離を取り始めたように感じられ「なぜ?」と。ギシンアンキに取り憑かれ……。

わたしの好きなあの子のこと 芥文絵

 前号掲載話からの続きです。今号の『ひらり、』には擦れ違いをキーにしたお話がいくつか掲載されていますがヤキモキ度MAXは文句なしにこれでした。読みながらジリジリしたい派にとてもオススメ。

ガールフレンド サワミソノ

 『ひらり、』初登場の作家さん。絵柄の、なんというか、女学生感がとても合っていて好感度高く、静かで切ないストーリーも良かった……。

ほんとのかのじょ 今村陽子

 前回に続いて女子お泊まり回。けれどやっぱりダメMのもえなのでした。キラキラに盛り上がるのにぃ。当たり前に乙女心も(S特性も)備えているゆーかがちょっと不憫でもあります。

ソーダ水のキス 袴田めら

 一段落ついたのかなと思っていた菊花×椿シリーズ。前回は百合オタ読者の物議をかもしそうな話でしたが今回は正統派展開。ラスト2ページが特に素敵だった……。

under one roof/parlor

 under one roofは前回から攻め攻めの海帆ですが、今回も絶好調の展開です。そして毎回思うのですがわずか4ページなのでもっと読ませろーっ状態。parlorも変な人絶好調です。

ライバルと加瀬さん 高嶋ひろみ

 今回は四コマ。加瀬さんの過去の陸上編で、これまでのシリーズで出て来たエピソードの断片にきれいに当てはまる番外編的ピースとなります。『ひらり、』と同日発売の単行本2巻目が出て、未収録は『ほうかご!』の1、2と『ひらり、』vol.13、14の4エピソード分かな。

ゴクドーマフィアガール おちゃ

 明るくポップなノリ。ヤクザの娘である主人公は学校でも浮いた存在。ところがイタリアからの転校生は気さくに主人公と接するのでした。すぱっと楽しい展開できれいにまとまってます。

逃げたい親友 くみちょう

 内容よりもまず収録順でぶはっとなってしまいます。ヤクザ・マフィアものの次にくみちょうの作品。え、ここおもしろがるとこと違う?
 vol.11の「out of blue」、vol.12の「逃げたい親友」に続いてのシリーズ三話目です。割とテンション平板で超平静キャラの理沙とノリノリ純情ヤンキーのかずみですが、積極的なのは理沙の方。しかも超押せ押せの意外性。ところが今回は勢いばかりでヘタレ受けのはずのかずみからアプローチ。さあ、どうなる!

ガラ子ちゃんとスマ子ちゃん 道野ほとり

 第10回ひらり、GLコミック大賞の期待賞作品です。携帯電話の擬人化もの。ぎこちなさはありますが楽しかったです。

王子様もかぼちゃの馬車も 四ツ原フリコ

 vol.12の「恋に灰まみれ」の続編となります。妹となった沙子が寧子の家に来るまでの経緯が回想として語られるのですが想像以上に重い背景があったのでした。今回のお話を読んで「恋に灰まみれ」を読み返すと先に単独で読んでいたときとは違う感慨がゾゾゾと背筋を走り。今回のお話では扉と最後のページが特に印象に深く残りました。

聖純少女パラダイム 森島明子

 ゆっくりと進んで来たリリと葵の関係、葵が意外にも難物なのでした。ところがところが!

ホットケーキの火曜日 佐々山彰

 第5回ひらり、GLコミック大賞の期待賞作品。視覚障害を持つヒロインと仲良しの主人公と。ちょっぴりわがままなヒロインが話題のホットケーキ店に連れて行け、と主人公にねだるのですが……。一生懸命な友情の気持ちよい話。

お姫様の願い 森永みるく

 今回は美羽の「藤原さんのお宅拝見」でした。クラスに友人らしい友人がいないという藤原さんのその理由の一端が窺えます。

神様の棲む森 伊藤ハチ

 お医者に救われた鳥が恩返しをしようと人の姿を得て、というお話。前号に掲載の「春のメヌエット」とは絵柄も変えている印象で、こちらは童話っぽい感じを意識したのかな。

真夜中のマーメイド カザマアヤミ

 単行本『星をふたりで』が今号と同日発売のカザマアヤミ。今回はタイトル通りマーメイドをテーマに。純朴感が可愛いのです。

お菓子の家(後編) 藤たまき

 少女アソートシリーズ。お姫様は前回バレリーナを得たところでしたが今回は集めた女の子たちのお披露目パーティーをしようと思いついたところから始まります。アソートのお菓子にはビターなものもある、という回でした。でもそれもおいしさのアクセント。

ピンク×ラッシュ TONO

 いつものサナでした。マールもいつもの通り。そろそろデレたりしないのだろうかと思うのですが、時々ちょっと同情的になっているのはデレの範囲なのかもしれない……。

★ ★ ★

 発売日の二日くらい前から『ひらり、』休刊の噂がネットに流れていました。vol.14が発売されてみると本当に最終ページに休刊の告知がありました。
 ああ、なんてこと。

 「「ひらり、」休刊と今後のひらり、コミックスにつきまして」という案内があり、掲載作の先行きも告知されています。

 『ひらり、』で初めて知り、百合以外でも単行本を集めることになった作家さんも複数いました。すでにファンであった作家さんの掲載があり大喜びもしました。これからも新書館ならではの未見の作家さんとの出会いが続くものと思っていました。

 2010年から四年、楽しく素敵な漫画との出会いの時間でした。

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『宇宙エレベーターの本』宇宙エレベーター協会編

宇宙エレベーターの本 実現したら未来はこうなる
宇宙エレベーター協会
2014.7.8

 タイトル通りの宇宙エレベーター(軌道エレベータ)に関する本です。
 内容をストレートに表しているので目次を内容紹介代わりに引用してみます。

  • 第1章 宇宙エレベーターって何?
  • 第2章 宇宙エレベーターについて著名人に聞く
    • 田原総一郎氏に聞く 「宇宙エレベーターの次元には何が必要ですか?」
    • 堀江貴文氏に聞く 「堀江さんはロケット派で、宇宙エレベーターはお嫌いですか?」
    • 富野由悠季監督・大野修一会長対談 「あと100年ぐらいなら、宇宙エレベーターができるという嘘をついてもいいですよ」
    • 山崎直子氏(宇宙飛行士)・大野修一会長対談 「低コストの次世代宇宙輸送系として、宇宙エレベーターに期待しています」
  • 第3章 宇宙エレベーター実現後の世界をシミュレーションする
    • シミュレーション小説 「2050年、宇宙エレベーター2ヶ月ツアー」石川洋二
    • 宇宙エレベーターが実現したら、どんな娯楽が生まれるか パトリック・コリンズ
    • 宇宙エレベーターは文化的アイデンティティから人類を解放する レナト・リベラ・ルスカ
    • 宇宙エレベーターを通して見る、最新宇宙開発事情
    • 宇宙エレベーターが実現したら、宇宙人探査はどう変わるか?
  • 第4章 宇宙エレベーター実現のために頑張ってます!
    • 「宇宙エレベーター技術競技会」から「宇宙エレベーターチャレンジ」へ〜5年間の歩み 秋山文野
    • 私はどんな思いで「宇宙エレベーターチャレンジ」に参加しているか 奥澤翔
  • 第5章 もっと詳しく知りたい! 宇宙エレベーターQ&A集
宇宙エレベーター協会編『宇宙エレベーターの本』

 バブル時代末、大手ゼネコンが宇宙建設に関するビジョンを発表していたことがあります。月の砂を建材にしたコンクリートの製造方法や軌道上の巨大建設の可能性を研究したものです。バブルの崩壊とともにゼネコンが宇宙の夢を語ることもなくなりましたが、カーボンナノチューブという材料の登場とともに宇宙エレベーター実現の可能性が見えてきました。カーボンナノチューブはまだ今は宇宙エレベータの“テザー”として必要な性能を満たしてはいませんが、それでも必要強度の桁には乗り始めました。実現のためにもっとも重要な技術の目処が見えて来たのです。米国では宇宙エレベーターをターゲットにしたカーボン素材開発のベンチャーも立ち上がっています。日本でも「宇宙エレベーター協会」が発足しマスコミに取り上げられました。
 その宇宙エレベーター協会が編纂したのがこの本です。

 どんな本であったかの感想はというと

  • 宇宙エレベーターの概要や“今”が知りたい → オススメ
  • 宇宙エレベーターはどう思われているか知りたい → オススメ
  • SF創作の資料にしたい → 保留

 章でいうなら第1、2と4、5章はオススメなのですが、3章は微妙な感じのも混ざっていました。軌道エレベータの大雑把な構造、全長96,000kmと各高度での状況などの技術的な要素は大林組の協力でしっかり検討されているようです。アイデア自体は昔からあるものなので目新しい要素はあまりないのですが第4章で紹介されているクライマー(エレベータのケージのミニチュアモデル)でテザー(ベルト)を攀じ上らせるメカの競技会は宇宙エレベーターの“今”の感じられる貴重な記事です。登攀高度は1000mを超えているとか。また、第5章のQ&A中にある宇宙エレベーターの登場する小説やコミックのリストも必見。ごく最近のものまで紹介されていました。
 また、宇宙エレベーターの技術よりヒトに関心のある方には第2章のインタビュー&対談がとてもオススメ。ガンダムシリーズの富野由悠季やホリエモンが宇宙エレベーターに否定的な見解を示します。
 オススメでないのは第3章のパトリック・コリンズ氏の記事。登場する視直径の話や水遊びのイラストに明確におかしい部分があり、宇宙エレベータという技術への理解を欠いているらしいのと、高校二年レベルの幾何計算さえ危ういことが読み取れ、経済学者の話として説得力を欠いてしまいます。同第3章のレナト・リベラ・ルスカ氏のお話もアポロ計画当時から言われている話で専門家でなくても言えそうです。一方、同第3章の最新技術紹介と宇宙人探査の話は具体性もあり非常に興味深く読めました。

 読み終えて一番心に残ったのは富野由悠季のインタビューでした。ガンダムシリーズを作った彼が原発や宇宙エレベーターに否定的なのです。持続可能社会の実現を訴えていたように思います。想像が混ざりますが、原発や宇宙エレベーターのような維持するだけでも高度な技術を必要とする巨大プラントは技術文明の衰退を迎えたときに人類にトドメを刺すのではないか、そんな巨大技術は避けた方が良いのではないか、ということに思えたのでした。現在製作中の「Gのレコンキスタ」でそのあたりが示される……のかな。うーん。ロボットアニメだとカッチリした話にはしづらいかな。

 ゼネコンと宇宙開発はかつてアニリール・セルカンという詐欺師を呼び込みました。宇宙工学にはまったく不案内な東大の建築系研究室に潜り込み、ポエムのような宇宙エレベーターの本を書いたセルカン。
 この本でもセルカンほど酷くないにしても、肩書き相応の専門性を持ち合わせていない人物が寄稿してはいそうな嫌な予感がします。この本は宇宙エレベーターに真剣に取り組んでいる人々を取り上げた良い本であると思いますが、一部マズい人物を招き入れてしまっているような気がしてなりません。

 経済、社会、文化面に関する考察・予測でもっとカッチリした研究をしている人はいないのでしょうか。10兆円の予算を捻り出すための方法。田原総一郎が語っていた“政治家を動かすためのシナリオ”を直感ではなく、きちんと学問の手法を使って構築して見せた宇宙開発本を読んでみたいと思ったのでした。
 それがきちんとできる人なら本に書くよりベンチャーを起こす……かもしれませんね。

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『コミック百合姫』2014年9月号

コミック百合姫 2014年9月号
一迅社
2014.7.18

表紙

 『百合姫』の表紙は毎号素敵だなぁ。中身共々デザイン担当しているところが表紙もアイデア段階から参加しているのでしょうか。『百合姫』のコンセプトというか読者の欲するところというかを的確に衝く機能性の高いデザインに思えます。「恋に沈む/キミに溺れる」って控えめなコピーも効いてる。

巻頭特集

 『犬神さんと猫山さん』のアニメ特集。テレビ未放送の第13話の情報なども。

パブロフガール ねこ太

 妹が欲しくて仕方なかった一人っ子の主人公、父親の再婚相手に連れ子の女の子がいることが判明。大喜びで迎えたのだけど……と始まるドタバタ四コマ。もっとも主人公の妹欲?はちょっと行き過ぎていて妹オタ状態に。こんな義姉の元にやってきて大丈夫なの妹ちゃん! 巻頭カラーありの新連載。

citrus サブロウタ

 柚子の妹分・まつり篇が続きます。陽性の敵として立ちはだかった縦ロール・姫子と違って絡め手を駆使してくることもあり悪役感たっぷりのまつり。読者には相当嫌われていそうですが、そうあってこその敵役。作中は十二月でクリスマスイベント絡み。またまた続きが気になる引きで芽衣が問題を起こしそうなまま隔月刊がツライ。

よくばりア・ラ・モード ちさこ

 太めの女の子がテーマ。ぽっちゃりめの女の子のための『la farfa』という雑誌発祥の言葉で“マシュマロ女子”と呼んだりするようです。つーか、『la farfa』に載ってるモデルさんすごく可愛いじゃないですか。ぽっちゃりさんの女優で抜群に好きなのはアメリカ刑事ドラマ『クリミナル・マインド』シリーズに登場するガルシア。役柄的には三枚目なのですがビジュアルが非常にゴージャス系の美人として作られていて真っ赤なオープンカーに乗っていたりする設定がちょー素敵です。……はっ、漫画とは関係ないことを。つまり、こういうお話はかなり好きです。

水色メソッド 大沢やよい

 不登校児と家庭教師のお話。なんか読みやすいというか画面のメリハリが増した気がする。不登校児の友花がすごく可愛い……。しかし先生、五本指ソックスは出先に履いてきたら友花ちゃんじゃなくてもチェック入ります。

あかずきん あおと響

 第9回の百合姫コミック大賞翡翠賞受賞作の「ナチュリーズ」サイドストーリー。あかずきんとオオカミの話です。こってりぎっしり感のあった画面がすっきりしたかな?

私が原始人になったら 河合朗

 束縛なく自由に振る舞えたらな、という思いがタイトルの「私が原始人になったら」となったお話。

ゆるゆり なもり

 結衣が足の小指をぶつける、という小さなアクシデントから始まるエピソード。

×××したいくらい可愛い君が 春日沙生

 第11回百合姫コミック大賞の紫水晶賞受賞作品。「あかずきん」ネタです。百合姫コミック大賞の投稿者には童話好きが多いのかな。可愛らしい絵柄でほのぼのと、けれどちょっぴり苦かったり残酷である童話の要素もしっかりと。

犬神さんと猫山さん くずしろ

 今回は龍×虎。なんか痴話喧嘩モードです。こういう人たちが近くにいると「はいはい」って片付けたくなりますね。爆発しろ!的な。

あやめ14 天野しゅにんた

 このシリーズ、おっさんテイストの昭和ギャグ&エロスが漂います。しゅにんたのこの作風は「マイルドヤンキー台頭説」みたいなものに符号してるかも。

一輪の薔薇がある風景 片倉アコ

 「My Fair Lady」的なタイプのお話。完全無欠の主人公が冴えない友人を磨いてみたら、というところからスタート。ちょっぴり怖いところも描いてきます。

ラブデス くずしろ

 ひょっこり予告もなく読み切りっぽく始まった「ラブデス」。毎回アクションを交えつつ3話目に。和傘アクションは時代劇な感じでした。

きみの恋とわたしの恋(後編) べにしゃけ

 5月号に載った前編の続きです。1号分間が空いたこともあって前編を読み直してから後編に取りかかったのですが良い感じ。プレーンな少女漫画感。ぜひぜひ5月号掲載分とセットで読まれることをオススメしたいです。

岩壁に百合の花は咲くか 源久也

 失恋して来てみたのが“いのちのでんわ”の設置されている断崖上。なのですが源久也のお話なので楽しく明るい展開なのでした。ほろりと来るかと思いきやすかさず笑いに揺り戻し、でもでもいい話にがっちり着地するあたりさすが。

himecafe/ヒメレコ

 今回のhimecafeは倉田嘘がゲスト。百合男子の作中そのままの世界が展開されております。『百合姫』なのに妙に暑苦しい一画となっておりました。
 ヒメレコでは新編集者二人が登場。

ガチ百合道 ねこ太

 アイドルオタの業の深さが毎回垣間みれるコーナー……。

sistyer★syster 仲原椿

 家庭教師に来てくれた人が「お姉ちゃん」になってくれて大喜びの主人公。けれどカテキョの先生には他にも生徒は幾人もいて……。

喋々喃々ちょうちょうなんなん 竹宮ジン

 ややこしい関係が深まってまいりました。予想していたのとはちょっと違うややこしさが不意に現れて。これは予想していなかったー。どうまとめるんだろう。

月と世界とエトワール 高上優里子

 ぉわー。こちらも予想外。展開が、というより高上優里子はこういうシーンも描くのか!という意外さ。海百合様にだったら翻弄されたい歌姫エトワールもいっぱいいそう、とかちょっと思ってしまった。今回は引きは作っていないけど次回が楽しみになる展開でした。

BGMRSPボウソウガールズテキモウソウレンアイテキステキプロジェクト 河合朗

 ついに最終回。や、やられた。このシリーズ、最初からこの最後を設定してのお話だったのか……。

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 今号の『百合姫』はページ数少なめでした。422ページ。前号が676ページあったので寂しくはあります。編集者の異動があったらしいのが響いたのでしょうか。次回予告を見ると、『百合姫』では初登場……かな?のこるり「桃色トランス」(仮)というのがカラー予告になっていて面白そうな感じ。倉田嘘「百合女子」や今号印象の良かったべにしゃけも予定されているよう。ページ数の面でも7月号までのペースに戻りますように、と祈りつつ。

 そうだ。「「百合SS」を書こう」コーナーで募集していた二次創作百合SSに投稿してみました。

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