オデッセイ
映画『オデッセイ』を見てきました。バルト9の公開前日先行上映で。夜9時過ぎの3D上映回でお客は少なめ。原作の『火星の人』(上)、『火星の人』(下)がとても面白く、映画を楽しみにしていたのでした。先行上映なんて見に行ったの久しぶりです。
原作小説の感想記事『火星の人』。
感想
面白かった!
『ミッション・トゥ・ザ・マーズ』や『レッド・プラネット』といった火星映画はB級ではありましたが火星の景色に見ごたえがあり火星もの好きとしてはお気に入りでした。今回の『火星の人』改め『オデッセイ』は火星映像という意味で旧作を確実に超えてきました。サバイバルものとしても面白く、主人公ワトニーに降りかかるのは火星の自然や技術的な失敗による災難だけ。この手の宇宙ものでありがちな陰謀ネタではなく、ただ純粋な冒険ものなのです。こういうタイプの冒険ものは登山や犬ぞりの極地探検以降ではあまり見られなくなってしまって、そこを堂々と描いて楽しませてくれるのは原作同様、文句なしに楽しいです。
主人公のワトニーは明るいタフガイです。冒頭、トラブルで火星にひとり置き去りにされるのですが、ひとりぼっちになり負傷したワトニーはブラック・ジャックさながらに自らに応急手当を施しへこたれないところを見せます。繰り返し見ていないので確認できていないのですが、この導入部で見せるワトニーの体格、よく覚えておくといいかも。ストーリー中ほどで一回、終盤で一回、彼の裸の肉体が映し出されます。火星サバイバルのハードさを反映して肉付きが変わっていたんじゃないかな。
探査メンバーの一人として火星を訪れたワトニーは砂塵嵐での事故に巻き込まれ、死んでしまったと思われていました。どっこい生きてた砂の下~と始まる生き残りの工夫の数々。原作では生存のために必要な物資――食料や水や空気や熱――が示され、それを手に入れようとひとつずつ問題をクリアしていく様子が第一の見せ場でした。映像では数字の部分があまり頭に入ってこないこともあってシンプルに見せていました。うんちく好きSFファンとしてはもうちょっと説明しよう!な感じが欲しかったかな。とはいえ、うんちくてんこ盛りにしてたらたぶん途中で映像に飽きの来る瞬間が何か所もあったことでしょう。
原作との比較だとワトニーは落ち着いたキャラになった感じで「しっかり勉強して科学者になったクレヨンしんちゃん」みたいな原作版ワトニーより少しだけヒーローっぽくなってます。二時間以上の長尺なので上映前のトイレは忘れずに。これだけ長くても原作のエピソードは拾いきれずにダイジェストになってもいます。
火星ローバーも宇宙船も火星地表用気密服も非常に地味でメカのデザインで魅了するタイプではないのですが、実際の火星有人探査計画で示されたイラストのイメージをよく汲んだ形になっていて(必ずしも本当にそうなるという形ではないにしても)科学ドキュメンタリーを見ているような堅実感があります。情報機器もすごーく地味で普通のパソコンとテキストコンソールだけ。『2001年宇宙の旅』や『GATTACA』の地味カッコ良さに近い感じです。適度なやぼったさもあります。
劇場
字幕/吹替、2D/3D/IMAXと上映を選べます。火星もの好き的には3Dの火星の景色がとても素敵に思え、3Dで見て良かったと思ったのでした。3Dだとサイズ感がミニチュアっぽく見える瞬間もあるので大きなスクリーンがいいかも。IMAXで見れば良かったかな、とちょっと思ったのでした。3Dはまた数値インジケーターが重ねられるモニター風のシーンとも相性が良くて、一眼レフのファインダーを覗いているみたいな効果がありました。砂塵嵐の吹くシーンも3Dらしさがとても良かったです。
音響については風音やロケットの噴射音など、低音がふんだんに使われていることもあり観覧したバルト9のシアター6のパワフルな音と相性が良かった気がします。
蛇足
原作の感想にも書きましたが映画版でも「風、強すぎ」というのはありました。火星の1/100気圧以下の環境では風そのものによるトラブルは起きづらいです。冒頭のお話のきっかけになる事故のシーンや中盤の応急処置エアロックのあたりですね。火星大気圧が風で変動しても100倍の圧力のかかった居住設備には吹き付けてくる砂音がさやさやと鳴るくらいじゃないかと思います。エアロックの壊れた原因も映像だけだとよくわからず、復帰シーンも割愛されたのが惜しかった。ローバーの事故も端折られていました。テザー捕獲シーンも映像化されてみると「そこでテザーを手繰り寄せると回転数が上がってしまう」というのがはっきりと。テザーを繰り出して回転数と遠心力を下げてから船長の装備した機動ユニット側で回転を完全に殺してテザーを繰り込む、という推進ガス節約機動の捕獲シーンが見たかったかな。
ヤボなツッコミになってしまいました。