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『ビッグデータと人工知能』西垣通

ビッグデータと人工知能
西垣通
中公新書
2016.7.21

 久しぶりに読んだ気のする西垣通の本。『現代思想』誌などに時折寄稿しているのは見かけましたが書き下ろしです。流行物のビッグデータと人工知能ネタです。読むのを楽しみにしていた本でした。

 ビッグデータって何、人工知能ってどんなもの? というのを計算機科学の歴史を紐解きながら説明していきます。読んでいて特に面白かったのは第二章でラッセルの数学原理やヴィトゲンシュタインの論理哲学論考、フレーゲの述語理論を引きシャノンの情報理論へと繋げていく当たりは大好きな話でもあってとても楽しかったです。
 著者は素朴なシンギュラリティ信奉が好みでないらしく、なんでも計算できる!的な安直な機械論否定派であるようです。確かに「シンギュラリティは近い!」みたいなお祭り騒ぎには審判の日だとか騒ぐのと変わらないような気もしてしまいますが、すんごーく複雑で簡単には解明できなくはあっても基本的に機械論支持派である私にはちょっと寂しいスタンス。シンギュラリティ派の否定ロジックも絶対的な視点の否定というただそれだけで、やや物足りなく感じられました。
 人工知能技術のベースとなるディープラーニングは視点の相対化を示す技術です。人工知能ごとに入力されるデータが違えば、同じ人工知能プログラムであってもそれぞれ別の学習結果を持ってしまう。ヒト同様の身体を与え、感覚器を与えれば人工知能はいずれヒトに近い能力と視点を持つようになるでしょうし、人とはかけ離れた感覚器官を与えればそのその感覚器官に特化した能力を持つでしょう。人の身体が個人個人でわずかに違い、それぞれが経験する人生が違うように、人工知能も入力情報の質・量・種類の違いで多様化できるはずなのです。それこそが著者のいう「相対的な視点」の元となりうる物のように思います。もっとも、シンギュラリティ派の言うように汎用人工知能という形で近未来に実現される気もまたしないのですが。ヒトを構成する全細胞、全感覚器官をエミュレートしヒト相当の人工知能を作るのはそう簡単ではないでしょう。無理ではないけれど、まだまだ先のことのように思います。

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