小説創作ユーザのための「ポメラ」DM200レビュー4・辞書編
pomera DM200搭載辞書
pomera DM200には
- 『類語新辞典.S』
- 『明鏡国語辞典MX』
- 『ジーニアス英和辞典MX』
- 『ジーニアス和英辞典MX』
の四つの辞書が搭載されています。手元に
- 紙版『類語国語辞典』
- Sharp Papyrus版『類語新辞典』
- Logovista版『明鏡国語辞典』
があるのでDM200搭載版と比較してみようと思います。
類語国語辞典(紙版) vs. 類語新辞典(電子辞書専用機) vs. 類語新辞典.S(DM200)
『類語新辞典』と『類語国語辞典』の二つはともに角川のシソーラス+国語辞典で後者が前者の増補新版です。ここでは「恋」という単語を引き比べてみます。シソーラス形式の特徴を理解いただくためにも前後2項目分ごと引用して比較してみます。
6【ほの字】〔口〕〔古風〕
類語国語辞典(紙版・平成五年第七版)
君は彼女に—だね。 ほれこむこと。
7【恋する】こいする〔常〕
美しい女性に—。—乙女 ○異性を愛する
8【恋】こい〔常〕
—の芽生え。—は盲目。—に落ちる。—を打ち明ける ○恋愛
9【愛する】あいする〔常〕 →481a, →484a
—人と別れる。妻を— ○異性を慕う
10【愛】あい〔常〕 →481a
二人の間に—が芽生える。—を告白する ○愛すること。恋愛
4【惚れ込む】ほれこむ〔常〕
SHARP Papyrus 類語新辞典
相手にぞっこん— ○すっかり心をひかれほれる。好きになって夢中になる
5【恋する】こいする〔常〕
美しい女性に—。—乙女 ○異性を愛する
6【恋】こい〔常〕
—の芽生え。—は盲目。—に落ちる。—を打ち明ける ○恋愛
7【愛する】あいする〔常〕 →481a, →484a
—人と別れる。妻を— ○異性を慕う
8【愛】あい〔常〕 →481a
二人の間に—が芽生える。—を告白する ○愛すること。恋愛
4【惚れ込む】ほれこむ
相手にぞっこん― ○すっかり心をひかれほれる。好きになって夢中になる 〔常〕
5【恋する】こいする
美しい女性に―。―乙女 ○異性を愛する 〔常〕
6【恋】こい
―の芽生え。―は盲目。―に落ちる。―を打ち明ける ○恋愛 〔常〕
7【愛する】あいする
―人と別れる。妻を― ○異性を慕う 〔常〕 [別分類]
8【愛】あい
二人の間に―が芽生える。―を告白する ○愛すること。恋愛 〔常〕
pomera DM200 角川類語新辞典.S
見出しの前に付された数字は分類【心情】−【愛憎】−【恋愛】の何番目の項目かを示しています。つまり見出し語の数は紙版の類語国語辞典が多く、電子版は電子辞書専用機Papyrus、DM200の二者が少ないことが窺えます。これは紙と電子の違いではなく、新しい「類語国語辞典」と旧版である「類語新辞典」の違いのようです。語釈の内容については引いてみた範囲では「類語国語辞典」も「類語新辞典」も変化がないように見え、DM200に搭載の『.S』版もほぼフルの角川『類語新辞典』と思われます。
明鏡国語辞典 vs. 明鏡国語辞典MX
比較用に「あう」を引いてみます。会う、遭う、逢う、遇う、と表記される項目です。
あ・う【会う・遭う・▼逢う・▽遇う】アフ
Logovista 明鏡国語辞典第二版
〘自五〙
❶ 〖会・逢〗約束して対面する。顔を合わせる。また、偶然に人と出会う。
「友人と━」
「駅でばったり先生と━・った」
⇔別れる
❷ 〖会・逢・遇〗物事と出会う。
「試練[難問]に━」
「親の死に目にも━・えない」
表記「▼邂う」「▼逅う」とも。
❸ 〖遭〗好ましくないことに出会う。ぶつかる。遭遇する。
「災難[火事・にわか雨・反対・抵抗]に━」
◆「合う」と同語源。
語法「~と会う」は双方が移動しあって対等の相手と対面する意に、「~に会う」は主体が相手のいる場所に移動して対面する意に使うことが多い。「喫茶店で友達と会う約束がある/先生にお会いしたく伺います」
表記
⑴ 「会」は、本来人と人が約束してあう意。偶然にあう意や物事との出会いの意に転用して広く使う(「六時に改札口で会おう・劇場でばったり旧友に会(遇)った」)。「逢」は「会」の美的な表記で、親しい人との対面や貴重なものとの出会いの意で好まれる(「恋人と逢う」)。「遭」は本来偶然にあうの意だが、今は「事故に遭う・にわか雨に遭う」などと、災難にあう意で使う。
⑵ 「▼邂う」「▼逅う」とも書く。「遇」「邂」「逅」は、偶然にあう意。一般に「会」でまかなう。動物とでくわす意ではかな書きが多い(「山道でクマにあう」)が、偶然の意を重視して「遇」、災難の意を重視して「遭」と使い分けることができる。「動物園でパンダに会った」と書けば、待望の意が付加される。
可能会える
関連語
大分類∥会う∥あう
中分類∥会う∥あう
❖「会う」を表す表現
〔自分が上位者に〕お目にかかる・お目通りを願う・お目通りがかなう・お目文字がかなう・拝顔の栄に浴する
〔自分が上位者の〕尊顔[尊容]を拝する・謦咳けいがいに接する・拝顔の栄に浴する
〔自分が上位者に〕謁えつ[拝顔の栄]を賜たまわる・御拝面[御拝謁はいえつ/御謁見/御拝眉はいび]頂く
〔上位者が自分に〕御拝謁を賜たまう・御面会[面接/面談/引見/接見]下さる
〔互いに〕顔を合わせる・相まみえる・旧交を温める・久闊きゅうかつを叙する
〔二人が〕逢瀬おうせを楽しむ
〔多数で〕一堂に会する
あう【会う・遭う・逢う・遇う】
pomera DM200 明鏡国語辞典MX
[自五]
(1)【会・逢】約束して対面する。顔を合わせる。また、偶然に人と出会う。
「友人と会う」
(2)【会・逢・遇】物事と出会う。
「試練[難問]に会う」
「親の死に目にも会えない」
(3)【遭】好ましくないことに出会う。ぶつかる。遭遇する。
「災難[火事・にわか雨・反対・抵抗]に遭う」
◆「会う」は、本来人と人が約束してあう意。偶然にあう意や物事との出会いの意に転用して広く使う。「逢う」は「会う」の美的な表記で、親しい人との対面や貴重なものとの出会いの意で好まれる。「遭う」は本来偶然にあうの意だが、今は災難にあう意で使う。また、偶然にあう意で「遇う」「邂う」「逅う」とも書く。
語釈の分量にかなりの差があります。MXでは語源・類語説明が削られているようです。
「詳しい方が得」と思ってしまいますが、『日本国語大辞典』のような極端に詳しい説明を必要とするのは稀で、常用する辞書には適切なボリュームがあるはずです。元々が学習・日用としての色合いの濃い『明鏡』は小型で文法重視、言葉を使い分ける時の扱いやすさを目指した辞書です。煩雑でない、という点でMX——Mobile Extra版のまとめ方も適切な気もします。
またMX版には紙版・Logovista版にある「付録」がありません。
『明鏡国語辞典』のヨイショなども少し。
上引用例にあるように同じ「あう」でも「会う・遭う・▼逢う・遇う」のニュアンスの違いをわかりやすく切り分けています。同じ「あう」を『広辞苑』で引いてみると
あ・う【合う・会う・逢う・遭う・遇う】アフ
広辞苑第五版
自五
➊《合》二つ以上の事物が寄り集まる。
①一つに集まる。合する。万葉集一三「玉こそば緒の絶えぬれば括くくりつつ又も―・ふと言へ」。「二つの川が―・う地点」「目と目が―・う」「両者の呼吸が―・う」
②二つのものの形・性質・内容などが同じになる。合致する。一致する。
▷対象を表す格助詞には「に」「と」が使われる。源氏物語若紫「この夢―・ふまで、また人にまねぶな」。源氏物語行幸「たけだちそぞろかに物し給ふに太さも―・ひて」。「割印が―・う」「足に―・わない靴」「答が―・う」
③二つのものが、互いに相手を悪くすることなく一緒に存在する。似合う。釣り合う。調和する。適合する。
▷対象を表す格助詞には「に」「と」が使われる。土佐日記「人の程に―・はねばとがむるなり」。源氏物語明石「ある限りひきすまし給へるにかのをかべの家も松のひびき波のおとに―・ひて」。日葡辞書「カミソリガワウ」。「服に―・った靴」「現実に―・った企画」「あいつとはうまが―・う」
④差引きで得が出る。計算があう。割にあう。引き合う。「―・わない仕事を引き受ける」
➋《会・逢・遭・遇》二つ以上が寄り集まり、相手を認める。
①《会・逢》互いに顔を見て相手を認識する。顔を合せる。対面する。会見する。対する。面と向かう。古事記中「嬢子おとめに直ただに―・はむと」。徒然草「かたへの人に―・ひて」。「旅先で友達に―・う」「―・って話をする」
②進んで行ったら向うから来て、互いに顔を見る。偶然出くわす。出会う。行き会う。
▷古くは先方を主語にして「…(の)あふ」の形で使われた。伊勢物語「物心細くすずろなるめを見ることと思ふに修行者―・ひたり」。「悪い時に悪い人と―・う」
③《遭・遇》何かをしている時に、悪い事態が自分の身に起る。いやな体験をする。遭遇する。拾遺和歌集別「たみのの島のほとりにて雨に―・ひて」。日葡辞書「ナンギニワウ」。「盗難に―・う」
④(ある時に)めぐり合う。生れ合せる。万葉集六「天地の栄ゆる時に―・へらく思へば」。日葡辞書「ヨイトキニマイリワウタ」
⑤結婚する。竹取物語「つひに男―・はせざらむやは」
⑥(相手に)立ち向かう。たたかう。万葉集一「香具山と耳梨山と―・ひし時」。平家物語九「強ち一条次郎殿の手で軍いくさをばするか、誰にも―・へかし」
➌《合》(他の動詞の連用形に付いて) 二つ以上のものが同時に、その動作をする。一緒に…する。互いに…する。竹取物語「大納言をそしり―・ひたり」。源氏物語賢木「賭物かけものどもなど二なくていどみ―・へり」。「皆で喜び―・う」「愛し―・う」「競い―・う」
◇ぴったりあう、互いに…する意では「合」、人とあう意では「会」「逢」、偶然にあう場合は「遭」「遇」を使うことが多い。特に「遭」は好ましくないことにあう意で広く使う。
というように用例が古典中心であることが目につきます。また漢字の使い分けについても(詳しくはあるのですが)やや煩雑で『明鏡』に比べるとわかりづらいと感じます。短歌や俳句づくり、王朝文学に触れる際には『広辞苑』の方が有用なはずですが、現代の小説創作に利用するなら『明鏡』のわかりやすさ・使いやすさを推したいです。DM200の国語辞典としては人気の『広辞苑』ではなく『明鏡』が搭載されたのは大歓迎です。
ATOK連携電子辞典シリーズ
pomeraからは離れてしまう話題ですが、『明鏡』の「言葉の使い分け」に役立つ特性はパソコン用ATOK版の別売りオプションATOK連携電子辞典シリーズ『明鏡国語辞典』で強く現れます。かな漢字変換中に「会う」と「遇う」どちらだろう、と迷ったときに変換候補からそのまま違いや用例を参照できるのです。これは一度体験すると手放せなくなります。最近ではMS-IMEでもMacOSかな漢字変換でも変換候補から内蔵の国語辞典を参照できるようになりました。
私の使用しているのは『R.2』というバージョンで旧版ですがATOK2016でも問題なく動いています。今売られているのも発売から少し時間がたっているようですね。
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