カテゴリー「コミPo!」の35件の記事

『NOVA9』大森望編

NOVA9
大森望編集
河出文庫
2013.1.9
★★★★☆

掲載作

眉村卓ペケ投げ
浅暮三文晩夏
斉藤直子禅ヒッキー
森深紅ラムネ氏ノコト
田中啓文本能寺の大変
小林泰三サロゲート・マザー
片瀬二郎検索ワード:異次元/深夜会議
宮内悠介スペース蜃気楼
木本雅彦メロンを掘る熊は宇宙で生きろ
谷甲州ダマスカス第三工区
扇智史アトラクタの奏でる音楽

感想

 今回のNOVAは好みの作品が多くてお得な一冊でした。
 印象に残ったものの中からコミPo!で漫画にしやすそうなものを感想or紹介漫画にしてみました。

Nova9/斉藤直子「禅ヒッキー」Nova9/森深紅「ラムネ氏ノコト」Nova9/小林泰三「サロゲート・マザー」Nova9/扇智史「アトラクタの奏でる音楽」

 谷甲州の「ダマスカス第三工区」の宇宙土木シリーズも面白かった。これはいずれ単行本にまとまるかな? エンケラドゥスで水採掘プラントに起きた事故の話。
 スペース金融道シリーズは宮内悠介の書くものの中ではちょっと苦手な題材なのですが、今回はカジノでゲーム理論っぽく展開するあたりが面白く引き込まれました。

 今回の出色は小林泰三「サロゲート・マザー」と扇智史「アトラクタの奏でる音楽」。前者は代理母もので素材の良さと筆力とお話の仕立てがもう完璧! 後者は百合+複合現実SFの音楽モノで百合好き兼SF好きにはたまらないお話だと思います。百合にはあまり関心を持たない人にもサイバーパンクが一周して日常になりかかっている時代のお話として、カオス理論による大衆行動の分析にリアリティが備わってきた感が味わえるんじゃないかな〜と思ったのでした。

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年刊日本SF傑作選『拡張幻想』

拡張幻想
編集:大森望・日下三蔵
創元SF文庫
2012.6.29
★★★★☆

〈すべての夢|果てる地で〉1
〈すべての夢|果てる地で〉2

 年刊日本SF傑作選『拡張幻想』です。第三回創元SF短編賞の受賞作と選評が載っています。

 SF界にとっても震災の一年だった。

 編者による巻頭言でも震災の影響に触れられ、読む側にとっても危機的状況が描かれているだけで連想するのは震災の映像たちでした。あるいは震災とは無縁と思える作品であっても昨年逝去した小松左京への追悼作品であったりとどちらかというと過去を振り返る作品が多かった気がします。小松左京追悼、という前提で傑作選を編んでも良かったのかも。

 印象に残ったものだけ感想を。順不同です。文章の感想は若干のバレを含みます。

〈すべての夢|果てる地で〉 理山貞二

〈すべての夢|果てる地で〉

 創元SF短編賞受賞作。
 コミPo!による四コマでの感想の通り、量子力学ネタのアイデアをメイン据えた話と感じました。ぽつぽつと見かけるネット評では「名作へのオマージュ」という側面を挙げる意見も目につきますが、実際はガチな量子論ベースのアイデアを投入したハードSF寄りの作風であったと思います。よくある「無理を通すための魔法の呪文・量子力学!」というご都合主義量子論とは別物のしっかり量子力学を消化した話。内積がゼロとなる――干渉しない――二つの空間を互いに現・空想とし量子もつれエンタングルにあるペア量子が二つの世界の架け橋となるという素敵なイメージから始まります。
 これをカッコイイと言わずにいられましょうか。

 小難しい小説のように思えるかもしれませんが、とっつきの悪い話ではありません。ブラ=ケット記法による方程式の提示も「そういうもの」として解説部分を追えば理解に苦はなく、宝探し系の躍動的なストーリーが現れます。文章は比較的淡々とした落ち着いた印象。

 オマージュ要素に関しては私はSF読書量が少なく、『1984』とSF御三家へのリスペクトが濃かったな……くらいしかわからなかったです。たくさん読まれている方は「ここはアレ、こっちはアレ」とパズルのピースを見つけるような楽しみ方もできたのでしょうか。
 そんな私でも最後の最後に開かれたネタには声を立てて笑ってしまいました。うむー。色々な意味で『拡張幻想』にぴったりの受賞作となりました。

 第三回創元SF短編賞授賞式で理山氏は「量子力学で数式のまま言葉になってない部分を書きたい」という意味のことを言われていたように思います。是非、そんな世界を見せて欲しい。

超動く家 宮内悠介

 創元SF短編賞絡みでは出身作家の宮内悠介の怪作「超動く家」。……バカミス? SF的な面もあるのでバカSF? 印象深い短編であるのは確かでした。読みながら裏拳ツッコミしまくりでした。この人は色々なもの書ける人なんだな〜。

良い夜を待っている 円城塔

 創元SF短編賞関係以外の作品では特異な記憶能力を持つ人物を描いた「良い夜を待っている」が印象に残りました。自然に流れて行くストーリーでありながら緻密さがあって、全体が見事に調和していて。科学解説書の要素を最上級の小説にする手腕に惚れ惚れしました。『Self-Reference ENGINE』の頃の円城塔とは丸きり印象が違います。いえ、作風そのものはそんなに変わっていない気がするのですが、素晴らしく読みやすくなっているために別物のよう。

 神林長平の「いま集合的無意識を、」も大好きな作なのですがこちらは同タイトルの文庫で読んでいたので感想はそちらを。

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『彼女とカメラと彼女の季節(1)』月子

彼女とカメラと彼女の季節(1)
月子
講談社モーニングKC
2011.5.23
★★★★☆

カノカメ風
↑のキャラの出てくる写真ネタのコミPo!漫画あります
第01話
第02話
第03話

 良かった!

 写真ネタ×百合の漫画です。写真ネタもイメージ先行でなくきっちり「写真」している感じがして、きっと作者が写真好きなのだろうな、と思わされました。

 表紙カバーでヒロイン・ユキが手にしているのはYASHICA FLEXを模した実在しないカメラ、だそうですが、検索してみると“OTOWA FLEX”も実在する二眼レフカメラであったようです。外見は不明。音羽光機製作所というメーカーの模様。作中では講談社の所在地から「OTOWA」とつけたのでしょうが意外な偶然が。
 表紙の二眼レフだけでなく作中で登場するのはフィルムカメラばかり。現像や暗室作業といったカメラオタ向けの蘊蓄はあっさりめですが暗室の光景などはさりげなくいい感じ。ユキさんのというよりは作者の写真愛が伝わる表現と日常的ながらパリエーション豊かな小エピソードの連発に引き込まれました。

 百合、と冒頭で紹介しましたが『百合姫』etcのような最初から恋愛漫画として作られた百合漫画たちとは少し違う感じもします。男子も絡み、ユキさんは謎キャラで、主人公は割とフツウの子のはずなのだけど男子に関心がないことにさえ自覚がないらしいナチュラルなキャラ。同性へのドキドキもあるけれど百合好き向け専用ではなく青春の一部としての百合なんじゃないかな。榛野なな恵の『ピエタ』紺野キタの『Cotton』といったマリみてブーム以前の百合要素のある漫画たちに近い感触。
 とはいえ主人公のあかりはいいよる男子に「うぜえ」とこめかみに青筋を立てるそっち系。対するユキさんは奔放というかフリーダムというか。バンギャっぽい先の読めなさ。意外な設定が後から明らかになる男子キャラも含め「どうなるのだろう」と二巻が楽しみです。

 このKANO*CAME世界ではデジタル写真はどういう扱いになるのかな、とふと思いました。


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『原色の想像力2』

原色の想像力2
創元SF文庫
2012.3.22
★★★★☆

 『原色の想像力』第二弾。

 第二回創元SF短編賞の最終選考作十八作の中から七作と、受賞者による受賞後第一作が収録された短編集です。この記事では紹介&感想を兼ね、コミPo!による四コマ漫画もつけてみました。
 文章による感想は若干ネタバレ気味です。

繭の見る夢 空木春宵


繭の見る夢 空木春宵 とても美しいお話。
 ことさらに感傷的に叙情を訴えたりはせずにぐっと抑えているのに、文章のそこかしこから立ちのぼる色気が魅力。第一回の宮内悠介はざっくりと切り込んでくる恐ろしい刃物のようでしたし、同じく第一回の笛地静恵はゴリゴリと力強く鮮やかで色彩感のある文章が魅力でした。第二回では異形の酉島伝法と平安の雅な空気を湛えた空木春宵という対照的な文章を持つ作者が現れ、こぢんまりとした賞なのにすごい人が出てくるじゃないか、と溜息が出ます。

 舞台は平安。虫愛づる姫君と、姫君のために虫を獲ってくるために集められた浮浪児たちの日々を描く所から始まります。それだけじゃSFにならないじゃん!なのですが、姫君の身に怪異が起こり、とまずは伝奇に発展していき――これ以上の説明は無粋でしょう。『原色2』巻頭ではこのお話は「言語SF」と銘打たれています。物語のしかけはかなりはじめの方からキーワードが散らされていることもあって、読者は常にわずかずつ先を予想しつつ納得しながら読んでいく形になって、SFとしての意外性は感じられないものの気持ちよく物語世界に没頭できました。

 今作は割と有名どころに材を取っていたけれど、王朝文学専攻らしいこの作者ならマイナーなところからも面白い材料を見つけ出してきそうな気がします。次の作品もぜひ読みたい、と思わされました。

ニートな彼とキュートな彼女 わかつきひかる


ニートな彼とキュートな彼女 わかつきひかる 一次選考通過者の中に“わかつきひかる”の名前を見つけたときから「おおっ」と楽しみにしていました。プロの、かなり有名な方が投稿してくるんだ!と。

 可愛い、印象のお話です。

 そう遠くないであろう未来が舞台のボーイ・ミーツ・ガールの物語。といっても少年は就職に失敗してしまった青年ですし、少女は保育士をしている大人の女性です。異性との出会いもなく、パートナーがいるだけで“リア充”扱いされてしまう現代においては非常に身近に感じられるであろう「寂しい」がほのぼのとした文体で描かれます。SFとしてのキーはホームネットワークサーバー。人工知能のコンパニオンみたいな存在で、2012年の今だとiPhoneのSiriを思い浮かべる人が多いのではないかと思います。あれをもうちょっと世話焼きにした感じ。

 SFとしてとても斬新であるというわけではないのですが、ライトノベルやジュブナイルポルノで活躍されている作家さんらしく、とても優しい視点で描かれる世界はなかなかに好印象だったのでした。

What We Want オキシタケヒコ

3_003 実を言うと、紹介ページで「スペースオペラ」とあるのを見て期待せずに読みはじめたのがこの「What We Want」。野田昌宏の「銀河乞食軍団」シリーズや「ローダン」シリーズ、「スターウォーズ」が苦手でスペオペに先入観を持ってしまっていました。

 ところが、読みはじめてすぐに「これは違うぞ」と気づきました。スペオペなんだけど、妙に濃い。なんか濃い。ハードSF寄りの感性を感じる。もちろん、ハードSFではなくて娯楽作品として非常に読みやすく作られていて、誰が読んでもノリノリで読めるはず。これは野田昌宏が読んだら、地団駄踏んで悔しがりそう。高千穂遙に『ダーティペア』で先を越されたときのように。

 主人公は二人。視点は脳味噌おばけ型箱入り宇宙人のトリプレイティですが、活躍の中心は破天荒キャラのスミレ。宇宙商人です。商人といえばコテコテの関西弁、という定番キャラでマジメなトリプレイティと芸人ノリのスミレとのドタバタコメディが、かなりしっかりと作り込まれた地球と宇宙文明のコンタクト設定を背景に進展します。

 スペースオペラは長編シリーズ化してなんぼ。これはぜひ連作短編でシリーズ化して、映像化もして欲しいです。作者はスパロボ2のシナリオ開発にも関わっていたゲームプランナー&シナリオライターだそうで、エンタメ性の高さに納得させられたのでした。
 面白くなるように作られているから、面白い。でもそれだけじゃない+Xがある、です。

 タイトルとエンディングでは音楽の力も発揮されていたりして、非常に印象の良い話でした。創元SF短編賞をメディア方向で有名にするとしたら、この人じゃないかな。

プラナリアン 亘星恵風

プラナリアン 亘星恵風 理科少年が大人になった話、かな。

 琵琶湖疎水、切り刻んでもそれぞれの切片が再生してしまうプラナリア。うわー。これ、いい。特に前半。作者自身の分身であろう理科少年の描写にぐっと来ました。
 SF部分はプラナリアというネタから連想しやすい展開でアイデアとしての突飛さは感じなかったものの、プラナリアと過ごした青春という前半の描写だけで十分魅力的なSFでした。

 少年時代からプラナリアと引き合う何か……みたいなものが強く打ち出されていたほうがよりSFっぽかったかな?

花と少年 片瀬二郎

花と少年 片瀬二郎 正直に告白してしまいます。私には「花と少年」の面白さがわからなかった……。

 頭にコブを持って生まれてきた少年・龍平。成長するにつれそのコブは伸びて、お花になったのでした。

 あらすじを説明するとこうなります。SF的には正体不明の敵が襲ってきて、頭のお花との関わりが〜というところも描かれていくのですが、ストーリーの中心は龍平のストレスフルな成長の日々で、この屈折した少年の育ちっぷりが正直読んでいてとても辛かった。少年に共感しての辛さではなくて、読むのがイヤでした。でもそれは下手だからではなく、むしろ筆力があるからこそ私の内側の「うわ〜、こういうのヤダ」が引きずり出されてきたのでしょう。

 同じ、読むのがイヤだと感じられる作品を挙げてみると『たったひとつの冴えたやり方』以外のティプトリーの作品群があるものの、ティプトリーの場合はイヤでキライなのにも関わらず幾度も再読してしまうという魔性の力がありました。
 「花と少年」はどうだろう。時間を置いて再び手に取ったときに、読まずにはいられなくさせてくれるかな?

Kudanの瞳 志保龍彦

Kudanの瞳 志保龍彦 伝説の生物“くだん”をモチーフにした話で、アイデア的には前例も多いとの選評でしたが、研究者のロマン/ロマンスをほのかな情緒とともに読ませてくれました。これは私は文章がかなり好みで、巻末の座談会評価とちょっと差を感じました。アンソロ収録が決まってから文章面で大きく手を入れたのかな?

ものみな憩える 忍澤勉

ものみな憩える 忍澤勉 紹介漫画では「SFだ!」と強調しましたが、SF度という点ではさほどでもありません。なのにSFを強く感じたのも確かです。西武線沿線のちょっぴり時代を重ねた駅前商店街の空気に実在感があって、これSFなの? SFなの?と思いつつ読み進めてなかなかSFにならず、ようやくSF設定が明らかになったというジラシで強く印象づけられたのかもしれません。老人の日常的な描写が不思議に魅力的に思えたのでした。

洞の街 酉島伝法

洞の街 酉島伝法 異形、としかいいようのない物語。

 『結晶銀河 (年刊日本SF傑作選)』に収録された第二回創元SF短編賞の受賞作と共通した作風のお話。
 大量に投入される当て字的な創作名詞たち。その分量と漢字の当て方が強烈。読者側の負荷が高いので、読み疲れて放棄してしまう人もいるのではないかと思います。とにかく読みづらい。
 あまりの読みづらさに一旦中断して、傑作選とこちらの選評を読んで、改めて「皆勤の徒」と「洞の街」に取り組んでみると……。あれ? そんなにわからなくない。いや、わからない部分はいっぱいあるけど、でも、思ったより馴染みやすい物語の骨組みがあって、登場する異形たちも異形ではあってもヒトとしての気持ちや繋がり方を持っていて身近な話に思えてくる不思議な読書体験が味わえます。初読だと紹介漫画みたいな反応になってしまうかもしれませんが。

 異形のキャラクターたちで埋め尽くされた、スターウォーズのような、(言葉遊びの面からは)漫画の蟲師のようなねちょぐちょワールドはぜひ読んでみて欲しいと思いました。設定は確かにSF的ではあるのですが、投入されているセンスは怪奇小説的。読みづらいのも本当なのですが、この濃厚な個性の出現に注目しないのはもったいないです。二作も読んで馴染んでみれば、異形スタイルの物語が自然に頭に入ってくるようになること請け合い。

 読者を改造してしまう、豪腕だと思いました。

★ ★ ★

 私自身が投稿している新人賞ということもあって非常に強い関心を持って読むことができました。この『原色の想像力』シリーズに掲載されている小説たちは私にとってはライバル……というより“壁”です。この原色たちを超える――少なくとも並ぶレベルのものを書かなければ落選となるのです。

 なんて遠い。

 そう思いました。
 酉島伝法や空木春宵の創作に全霊をかけていることの伝わってくる作風。オキシタケヒコの、ゲームというシビアなエンタメの世界に身を置いている人ならではの力量。第三回にも、次回にもそんなパワフルな人々が原稿を投じるのでしょう。

 とにかく、全力を尽くしてぶつかれた、と言えるだけのことをしてみようと改めて思ったのでした。

関連リンク

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第3回創元SF短編賞応募しました

創元SF短編賞投稿 第3回(2012年)創元SF短編賞に応募しました。
 オンライン投稿です。テーマはサイバーパンク……というよりもうちょっと古めかしいニューウェーブくらいの感じかもしれません。先に感想を書いた『瞑想する脳科学』に影響を受けまくりの短編を書いてみました。40x40フォーマットで20枚。

 さてはて。
 今回はどうなることやら。前回は一次通過・二次落ちでした。あとは原稿の健闘を祈るのみ。

 そうそう。右の漫画の中で黒髪の子が読み上げているセリフ、投稿作からのものです。『コミフレ』というのはここしばらくハマっている『コミPo!』からの連想で考えたBMI(攻殻機動隊の電脳みたいなの)用アプリ。野尻抱介もニコニコに刺激されて『ピアピア動画』書いてたよね、なんて思い出しました。

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あけましておめでとうございます

 旧年も雑多なこのブログの記事におつきあいいただきありがとうございました。

 1月10日は創元SF短編賞の締切です。ただいま、次の記事が「投稿しました!」にできるよう、投稿作に取り組んでいる真っ最中。年のはじめからバタバタしていますが、少し低調であった昨年を反省して今年はたくさん小説を書こうと思います。

 今年もよろしくお願いいたします。


2012_2

コミPo!というツールで作った絵です。


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『瞑想する脳科学』永沢哲

Comipodiary_20111224瞑想する脳科学
永沢哲
講談社選書メチエ
2011.5.12
★★★★☆

 脳科学とBMIの本を探していて手に取りました。ぱらぱらと眺めた限りではとっつきの悪い、文系向けの香りのする哲学の本のように見えました。欲しかったものとは違いそうだとわかって躊躇たものの読んでみました。当たり外れは読んでみないとわからないので。

 読んで良かった。

 脳科学という文字がタイトルに含まれますが、著者は瞑想の側の人のようです。それでも脳科学の知識の消化はばっちりで、チベット仏教に関する知識と脳科学やBMI——ブレイン・マシン・インターフェイスに関する知識とを非常に冷静な視点から結びつけてみせてくれました。説明は文系らしい繊細、かつ明晰な言葉で綴られ、最初にチラ見したときの「何が書いてあるのかチンプンカンプンな本かも」という予感は外れました。冒頭から追いかけていくと違和感なくチベット仏教や脳科学の言葉に馴染める優れた本です。論理の展開もわかりやすく、文献の示し方も要点を得ていて説得力があります。チベット仏教や瞑想には詳しくなかったのですが、最新の科学と照らし合わせて説明される禅の世界の先進性にくらくらしました。
 仏教哲学が科学の力を得て身近に、現実的になるといいな。
 また、この本では“慈悲の瞑想”をキーにして荒廃が進むであろうこの世界を救済する方法を提案します。示されるのは予想される未来図に対してちょっと能天気じゃない?とも思える考え方なのですが、ベーシックインカムのような考え方が注目されたこの数年を考えるとあながち頓狂でもないようにも思えました。

 ただし。
 この本は瞑想で得られる境地について無批判です。瞑想から直感的に得られるチベット仏教の宇宙観は現代宇宙論との共通点も多く見て取れるものの、その宇宙観が間違いでないと証す方法もないはず。瞑想で得られるものはそういう見方をするものではない、というのも想像はつきますが科学の視点でメスを入れるならば避けては通れない問題に思えます。また瞑想による超人的なエピソードの紹介にも疑問を感じます。寒中で凍え死なないトゥムモの瞑想は「すごい」ですし、遺体現象の進行が異なるゾクチェンも「何が起きているのだろう」とは思いますがそれらは物理を逸脱した奇跡ではなく、象徴的に扱うことには違和感を覚えます。

 そうそう。この本ではBMI関連ではレイ・カーツワイルの著作、世界の展望についてはジャック・アタリの著作からの多数の引用をしていますが、これら元ネタとなっている本もとても面白いものばかり。巻末の参考文献リストから手繰ってみるのも楽しいと思います。


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シルバーハライド 第03話

 コミPo!漫画「シルバーハライド」第03話を公開しました。

 これまでの公開分はこちら。

 第03話では主人公・ねぐせちゃんがフィルム現像に挑みます。ストーリー漫画というよりは銀塩写真解説漫画という感じかな。(自作でない)ユーザ3D/2Dアイテムも多数使わせていただきました。アイテムを提供してくださった製作者の皆様には感謝を。

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Wacom Bamboo Fun CTH-470/W1 購入

 ペンタブレットを買いました。

Img_0605 新型が出たばかりのWacom Bamboo Fun CTH-470/W1です。2011/10/3の発売日にAmazonでポチって本日9日到着。SMALLサイズは思ったより大きな箱で届きました。

Img_0607

 箱の中身はご覧の通り。本体、薄いです。平べったいです。そして細長い。
 主流のワイドディスプレイに合わせたのだと思いますが、入力部分も細長くなります。う〜ん。うちのディスプレイ、4:3だな〜。
 使ってみた感想、行きます。

Mac OSX+タッチ

 iPod touchのようにスリスリしまくりかと思ったものの、そこまでは自在にはなりませんでした。Apple純正のMagic Trackpadと比較しても少々ぎこちない感じです。何が違う、というほど明確に差があるわけではないのですが、まず、思ったところにマウスカーソルを移動させるのに少しストレスを感じます。とはいえ、ポインティングデバイスをBambooだけにしてしまっても困らないレベル。ペンタブレット兼用の入力装置としてはよくできてます。webブラウズの“戻る”が、Bambooの表面を三本指で軽く払うだけで済むというのは快適です。ジェスチャで馴染めなさそうなのは“ドラッグ”くらいでマルチタッチへの対応度の高いOSX Lionとの相性はかなり良いです。
 ひとつ、とてもやりたいのが仮想画面間の行き来。純正Trackpadならば四本指のスワイプが割り当てられているはず。もう一息なのに、惜しい。(※公式サイトのアナウンスによると次回ドライバアップデートでLionの操作に対応するらしい)

Windows XP+タッチ

 なんでこんなにダメなんだろう……。
 Mac miniのBootcamp環境で上のOSX Lionと同一ハードでの使用です。

 Bambooのタッチ機能、Windows XPでは厳しいです。スクロールはガクガク。マウスカーソルの動きもガサガサ。OS自体、ドラッグや右クリックの要求頻度が高く、どちらもタッチ入力の苦手なところです。うまく操作できずにイライラします。OS自体でタッチを意識していないWinXP故……なのだと思います。
 それでもゼスチャを駆使すれば使えなくはない状態ですが、WindowsXP環境でのタッチ使用はあまりお勧めしたくないです。マウスの方がずっと快適。

ペン入力:Painter

 Bamboo FunにはPhotoshop ElementsとPainter Essentialsが付属します。まずはPainterで適当に色を塗ってみました。
 ……お、面白い。
 入力の強弱でストロークの濃度がそれなりにコントロールできます。本物の筆や絵の具とはやはりちょっと違いますが、昔のぎこちなかったペンタブレットやペイントツールとは別世界。ただ、Painter EssentialsはLionでは特定の操作をすると強制終了してしまいます。な、何事?(corel公式サイトでLion対応アップデータが配布されていて解決しました)

ペン入力:Inkscape

 次いで試してみたのがInkscapeというフリーソフト。ペン入力の登録設定が必要でしたがそれが済んでみると……。
 うわ。トラックボールで操作していたときとは別のソフトのよう。なんだこれ。なんだこれ。楽しい。滑らかな線が引けます。レスポンスも素晴らしいです。2D素材を作るのがすごく楽になりそう。Funの売りであるPhotoshopやPainterもペンタブで使いやすさ大幅アップですが、Inkscapeは大化けです。タッチ機能や付属ソフトいらないよって人はWacom Bamboo Pen+Inkscapeとかコストパフォーマンス最高だと思います。

ペン入力:Metasequoia

 3Dモデリングソフトのメタセコはどうかというと……。あれ? 期待したほどの効果はないかな? 投げ縄での範囲選択は劇的に楽になりましたが、モデルをぐるぐる回して眺めたりする操作はペン操作を想定していないようで変な反応をします。トラックボールの方がずっと楽。メタボール操作はペンタブの勝ち。一長一短、でしょうか。タッチ操作の出番はナシ。

ペン入力:コミPo!

 ドラッグ操作中心で、ペン操作向きのシーンも多いため直感的なUIがより直感に近づきます。といってもInkscapeみたいに劇的に使いやすくなるわけではなく、スクロール操作も多いのでスクロールボタン付きのマウスの方が無難かも。こちらもタッチ操作の出番はナシ。

まとめ

 購入一日目の印象をまとめてみましたが、全体的な印象は良いです。タッチ関連の機能はさらなる洗練を期待したいもののMac上であればマウスやトラックボールなしでも使えそう。ペン操作に関しては期待に十分応えてくれると思います。
 注意が必要なのは大きさ。Sサイズでもキーボード周辺が狭苦しく感じました。Magic Trackpadと比較してしまうと十分に大きいです。

 青いパイロットランプがタッチ/ペンを感知すると強く光るのは、可愛い。

 2011年モデルのBamboo funはPhotoshop Elements9ですが2012年秋モデルはPhotoshop Elements10に変更され、さらに2013年秋でIntuosシリーズに併合されてフルモデルチェンジしました。従来のIntuosがProとなって単一ブランド内でのグレード分けとなった模様。大きさ自体も同じSサイズでも旧Bambooより新Intuos(Bamboo相当モデル)の方が一回り小さくなったようです。旧モデルは無駄?な余白部分がけっこうありました。Photoshop Elementsは11となりペイントツールはArtRageが付くようになったようです。

2011年モデル


2013年9月発売モデル



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コミPo!漫画「シルバーハライド」第02話 & 透明水彩風エフェクト

「シルバー・ハライド」第2話公開

 コミPo!で作成した写真部漫画の第02話を公開しました。
 RICOH FLEXやNIKON FM2が出てくるちょっと懐かしいストーリーですが、舞台は現代です。

上の小窓の「+」アイコンをクリックすると大きなサイズで読めます。

 第01話はこちら。

透明水彩風エフェクト

 「シルバー・ハライド」第02話では背景で水彩っぽいエフェクトに挑戦してみました。カンタンなことですがノウハウを紹介。

How to 透明水彩エフェクト on ComiPo!



  • ぼかす

  • ムラを作る

  • 彩度の高い情景

  • 画用紙テクスチャを被せる

こんな感じが見栄えするかも。あ、画面に「白」の部分を残すのも透明水彩っぽく見える気もします。まだまだ試行錯誤中。簡単で良いエフェクトがあれば教えていただけるとうれしいな。


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